93歳じいとのハワイ旅行。

私はじいが大好きだ。
じいとは"おじいちゃん"からとった呼び名である。
93歳で亡くなってしまったが、亡くなる前日までピンピン自転車を乗り回していたのだからけっこう幸せな人生だったと思う。

そんなじいの魅力はユーモアにあふれているところだった。
実際にじいとハワイへ行ったことは一度もない。
しかし、じいのユーモアが今日も私をハワイ旅行に連れていくのだ。



「じい!私な、ハワイ行きたいねん!一緒に行こや!」

もちろん、さすがに93歳を連れてハワイに行けるとは思っていない。
元気とは言え年々少しずつ弱り、口数も減っていくじいに会話のネタとして楽しめればという気持ちで言った。

じいはもちろん困った顔をした。
いや、行けるわけないわアホ!と怪訝な顔だったかもしれない。
とにかくちょっと変な顔をしていた。

もう少し粘って聞いてみる。

「じい、ハワイ行ったことある?」

『ない』

「奇遇やな私もないねん!行ってみたくない?ヤシの木に囲まれてのんびりしたくない?」

『…』

じいはうるさいと思ったのかリビングから退散した。
会話終了。もうちょっとノッてくれてもいいのに。

ここまでだとじいは全くユーモアも元気もない爺さんで終わってしまう。

つまらない爺さんにするなと天国で拗ねているかもしれないので補足しておくと、じいはユーモアはあるが決して陽気でおしゃべり好きというわけではない。

集団行動も苦手だ。
老人ホームには絶対入らないと言っていた。
そのおかげか介護が全く必要ないまま元気に亡くなったのだが。

すっかりハワイのことを忘れてテレビを見ていると、じいがリビングに戻ってきた。

『ちょっと』

「何?」

『ハワイ』

「うん?」

『できた』

意味はわからないが、ハワイができたらしい。
とりあえずついていく以外の選択肢はなさそうだった。

こんな時私は少しだけわくわくした。
何かおもしろいものが待っていると経験が知っているからだ。

ついた先はリビングから徒歩10秒の庭だった。
もう少しフライトの時間を楽しみたい気持ちもあるが無事到着だ。

『これ、ハワイの木』

目の前にはヤシの木があった。
束子の実がついた手づくりのヤシの木。

『ハワイ一緒に来たで』

「なんやハワイに興味あったんかいな!…でも頭ええな。まさか93歳とハワイ来れるとは思ってなかったわ」

『まぁ実際はむずかしいからな。とりあえず気分だけな』

じいはしわくちゃの顔をにっとした。
その笑顔に私はなんとも言えない幸せで温かい気持ちになった。

ただの庭の一角。しかしそれは私とじいにとってはまちがいなくハワイであった。



しばらくヤシの木を二人でのんびり眺めていた。
日がかたむきだした頃、

『ええ旅行やった。帰ろか』

とじいが言うので、あとに続き10秒のフライトでリビングに帰る。

”まぁ実際はむずかしいからな”
じいが言った言葉をふと思い出す。
わかっていたはずの言葉に若干の寂しさを感じながら、じいが笑っていたのでそれでいいと自分に言い聞かせた。

「楽しかったな!」



93歳じいの思い出と、私は今日もハワイに旅行する。

庭に出ると、束子の実がついたヤシの木がまた少し大きくなったような気がした。



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