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読書「前」感想文

『本は心の栄養』

このフレーズを考えた人は天才だと思う。
でも血肉となるのは読んだ後だけじゃない。
読む前こそが、読書の醍醐味なんじゃないかと思う。

本を読む前のひとときは、かけっこのスタートラインに立つように、ドキドキとワクワクが入り混じる瞬間だ。

自分の家の中に「知りたい」という欲望を、叶えてくれるかもしれない一冊が在るという悦び。

雑然と積み上がった小さな山の頂きに、読書欲を掻き立てられる一冊が目に入るだけで、既に満たされる感覚。

せっかくなら、一人で静かに向き合いたいから、じっとその時を待つ。

普段通りに過ごしながらも、頭は本のことでいっぱい。
おあずけを食らった犬のように、まだかなーまだかなーとその時を待つ。

やっとその時はやってくる。
小さく息を吐いてページを開く。
読みたかった気持ちが一気に溢れ出す。あとはただただその世界に入り込む。

3月のある晴れた日曜日の午前中に、2歳の娘と一緒に近所の図書館へ。

月に一度、女性の身体にやってくるおたよりのせいで、本当は猫のようにソファでごろんと横になっていたいけれど、せっかくの晴れた日曜日に外に出ないのはもったいないという気持ちが勝って、外へ出ることにした。まだ気持ちがチグハグしている。

春の日差しを受けた背中は暖かく、娘の小さな左手から伝わった体温が、わたしの右手を通して温もりを上半身に届けてくれる。

だけど時折吹き付ける冷たい風に足元はひんやりするし、下半身はなんとなく重だるい。身体もチグハグしている。


絵本コーナーで本を数冊読んだ後「ママにも選ばせてね」と小説の棚へ向かう。お気に入りのピンクの表紙の絵本「ももんちゃん」をしっかりと両手で抱きしめて、娘はちょこちょこと後ろからついてくる。

あの本、あったらいいな…。
「オ」の棚の前で止まる。

あった…!

手に取った黄色の表紙が輝いて見える。
今日はツイてる。

さっきまでのチグハグした気持ちは吹き飛んで、貸し出しカウンターへ向かう足取りも一気に軽くなる。

肩にずっしりとのしかかる、絵本でいっぱいになったトートバッグ。
だけど、黄色の花で埋め尽くされたこの一冊を共に運んでいるというだけで、大事な宝物を抱えている気持ちにさせてくれる。

翌日の仕事の昼休憩。お弁当を食べた後、あまりの天気の良さに外へ出る。

海のように広がる田んぼに向かって伸びをした後、椅子を置いて本と向き合う。

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最初の数ページを読む。

鼻の奥がツンとしてくる。

なんでこんなにやさしいがあふれてるんだろう。

文字に温度なんてないのに、温もりを感じるのはどうしてだろう。

背中におひさまの温もりを感じてるから、だけではないはず。

この本自体にあたたかさがある。
黄色の花で埋め尽くされた庭で微笑む少女の物語には
どんなやさしさと切なさが詰まってるんだろう。

本を手にして内容を想像をする。
いつ読もうか、どこで読もうか想いを巡らせる。
作者の創造を想像する、物語の世界に入る前のほんのひととき。

それがわたしの好きな時間。

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とわの庭 小川糸

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