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いまさら2020年ベストアルバムについて語る回

2020年も終わって1か月が経とうとしている…僕の住む新潟では年明けから大雪続きで、毎日対応に追われるうちに1か月が経っていたという印象だ。つまり「僕の2021年はまだ厳密には明けられていない」ということになり、そう言い訳することでなんとなくまだ2020年に残したモノがあり、もう少しの間その遺物で遊ぼうという、卑しい考えの元今回は筆を取った。

僕としては混沌とした世情も相まって音楽を聴く時間も昨年までよりも増え、今年はたくさんの音楽と出会えた1年だった。

「こんな状況だからこそ」
の枕詞ありきではありつつも、ミニマルでインディー色があって染み入るようなサウンドのSSW達が良作を連発した1年…沈んだ心に共鳴し、少し暖めてくれるような作品が自分の心にも響いた1年であった。

さて、これから今回は2020年僕が無作為に聴いてきたアルバム作品の中から画像分割の都合で特に印象深かった36作品をピックアップしました。(まずこれに苦脳した…)

こちらです。結構この手の年間ベストアルバムまとめにはお馴染みの顔ぶれがほとんどかと思います。さすがに36作品一気紹介とかになると読み切るのも大変かと思いますので、この中からさらにピックアップして

*suugayuuuuが選ぶベスト9作品
*オススメしたい9作品

計18作品について語りたいと思います。

●suugayuuuuが選ぶベスト9作品


今年は前述のとおりSSWが世情にもマッチした良作を世界中で展開した一年。世情的にもミニマルで、フォーク・インディーを踏襲した美しさと懐かしさを持つ作品に特に目が集まったと思います。正直ベスト9作品は巷で、もしくは友人含め挙げている作品とほぼほぼ同じとなってしまいました

既にあちこちで紹介されているとは思いますが、感想として書きたいと思います。

01: Perfume Genius - Set My Heart On Fire Immediately

生々しくも美しいリビドーの解放
混沌とした世情に弱さと解放感を同時に感じさせてくれる作品。
一曲目「whole life」の時点から半生を歌い出す。沈黙の後ギターの音が鳴る瞬間には自分にも走馬灯のようにこみあげるものがあり、この時点から「なんだこれ…すごい作品だ…」と驚いた。解放的な美しさを全編に持ちつつ、サウンドはローファイでインディであり続けるためアルバムとしてのバラエティにもまとまりが感じられ、結果ダントツで今年1番の名作だと思うに至りました。刺さりすぎた


02: Adrianne Lenker - Songs

2020の内省的フォーク欲を象徴する一作
アコースティックギターのサウンド、美しい歌。アメリカはインディアナポリスのBig Thiefというインディーロックバンドのボーカル、エイドリアンレンカーが山小屋にこもって制作したソロ作品。
緻密に売り出されたものに懐疑的になって、ナチュラルメイドでシンプルなものがより際立った1年だと思う中で、この作品はとにかくナチュラルで、日常に溶け込みつつ奥の方に鋭さも感じる。ずっと聴いていたい『絶妙な危うさ』を持つアルバムだった。
他と比べる前から今年のベスト3に入ると確信してしまうくらい個人的に刺さりました。バケモンだよ。big thief…本当ずるい


03: Phoebe Bridgers - Punisher

1stを超えてずっと聴き続けたいアルバム
アメリカLAのSSW。透明感がとてつもない声、物悲しくも温かい絶妙なインディサウンドに衝撃を受けた前作がまだ記憶に新しかったので、新作がリリースされた際に少し不安すら感じたのだが…実質一曲目の『Garden Song』を聴いた時点で「あああ〜もう最高じゃん!」と口にしてしまうこととなった。各誌でランキング上位に入りグラミー賞ノミネートまで果たし、確実に存在証明してしまった作品


04: Sault - Untitled (Rise)

人間のコアを踊らせる謎の祭り
ロンドンの正体不明ユニットとして話題になったSault。僕は今作で知ったのだが、2020年に2枚の連なるアルバムをリリースしており、後編となったこちらの作品を選びました。
アメリカの黒人差別に向けた鋭いメッセージもそうだが、単純に個人的に2020年で最もかっこいいアルバムだと思っている。スリッツやトーキングヘッズなどのニューウェーブを思わせるアフロファンクのビート感を持ち、ミニマルエレクトロでサイケなサウンドで無条件に身体の芯から揺さぶられ、アレが大量に分泌される。最後の最後までどこか危険な香りを残しているところも最高。かっこよすぎ。


05: Sufjan Stevens - The Ascension

今こそ目を背けてはいけない叫びの1枚
sufjan stevensといえば前作のフォークロックのイメージが強かったので、今作を聴いた時はかなり驚いた。ダウナーで攻撃的なエレクトロポップが鳴る…内容を調べ、歌詞を見てみるとそこにはsufjanのこの時代、アメリカカルチャーへの悲痛な思いが綴られていた。『Die Happy』や『Goodbye To All That』などかなり直接的な絶望感のあるタイトルもあり、しかしこれがまた物悲しく、社会からの疎外感や環境への不信感などこの時代に染み渡って自分にも強く刺さったアルバムでした。結果目を背けられない情報量の「叫び」が詰まっている名作だと思います。


06: Fleet Foxes - Shore

生命への祝福と希望に満ちた快作
聴いてすぐとてつもなく感動したのを覚えている。「これは紛れもなく救いだ!」と思った。
この作品は明らかに今までの作品とは違って、明らかに視界が開けて希望を感じるサウンドだった。Fleet Foxesは兼ねてから『生と死』について歌う作風が強く、2011年リリースの『Helplessness Blues』から前作は死へのウェイトを強く感じる部分が強かった中で今作は光に満ちていて、跳ねるテンポの楽曲も多い。良し悪しはそれぞれだが、少なくとも自分はこのアルバムで感動したということ…


07: Kelly Lee Owens - Inner Song

全部ツボ。ズルすぎるアルバム
正直年末に振り返った時にこのアルバムのことを忘れていて、友人のまとめを読んで聴き直したところ「これを忘れていた自分を殴りたい」と自戒するほどに最高だと思う。ジャケ、タイトル、サウンド全てにおいてツボを刺激してくるというのもそうだが、曲ごとにミニマルエレクトロの範囲で前半のルーティンからの後半の盛り上げが非常に気持ちいい。シンプルながら緩急の付け方が完全に踊る仕様になっている。その盛り上げ方がまた上品でいやらしくないため、どんどん次は?次は?と聴きたくなってしまう…ひとえにとてつもなくセンスに溢れた作品だということ。
本当の意味で「うちで踊ろう」はこれでしょ。


08: Blake Mills - Mutable Set

2020年を代表する天才の匠な1枚
前述のPhoebe Bridgersのサポートギター、Perfume Geniusのレコーディングプロデューサー、Bob Dylanの新作にも参加など今年注目が集まるアメリカの代表的な存在が、ソロ作も出しててそれがめちゃくちゃいいときたら驚きが隠せない。ギタリストとしてのイメージも強いが、今作はギターサウンドは控えめのアコースティックなアルバム。ソフトなものをイメージして聴いていくと様々なアプローチが詰まっていて、ミニマルなSSW作品かと思いきやその妙技に没入してしまう素晴らしい1枚だと思う。
語っておいてなんだが、そんなこと抜きにしてとりあえずこれを聴きながらキャンプしたいです。そういう気持ちのいいアルバムです。


09: ELLIS - Born Again

6曲目で確信に変わったアンセム
曇りの強いドリームポップにアイドル性も感じる声。ともすればポップに寄りすぎてしまうラインを上手に作っていると思う。なかなかいいなあ〜と思って聴き流しつつ運転していたのだご、6曲目『Fall Apart』を聴いていると「!!この曲やば!!」と口に出してしまった。控えめながらシューゲイズに負けない良メロディを後半うねるような音の壁が飲み込んでいく感じが気持ち良すぎて…この体験をさせてくれる楽曲があるっていうことが嬉しいし幸せだと思いました。後で調べたらシングル曲だった。


●他にオススメしたい9作品


① Gia Margaret - Mia Gargaret

1人のSSWが歌声を取り戻すまでの1作
シカゴのインディーフォーク系SSWだったGia Margaret。ツアー中に心因性の病気から歌うことが難しくなりツアーを中断して療養していた。その最中自宅でシンセサイザーを使い少しずつ作曲を始めて制作したのがこのミニマルアンビエントテイストの作品だった。
自分は元々ロック好きになった経緯も含めて、こういったロックスターの作品の裏にあるドラマにとても影響を受けてしまうオタクなのでこの話を聴いてドキドキしながら作品を聴いていたのだが…正直そんな深イイ話のような再現ドラマは無くても作品から伝わるというか。小鳥のさえずり、語り、足音などの環境音も交えてドメスティックで内省的な部分から次第に声をサンプリングしていき、ラストの11曲目『lesson』でついに彼女の歌声を聴くことができるというある種体現型のコンセプトアルバムだと言える。
お涙頂戴などではなく、ただただリアルで美しい作品として受け取りたい。

2021年現在は歌入りの新曲もUPしていましたね。そちらもすばらしかった・・・

② Kate NV - Room for the Moon

ロシアンニューウェーブ。リフ気持ち良すぎ
ロシア、モスクワのクリエイターによるアルバム。単音ギターリフ、シンセサイザーやジャズホーン、うねるベースライン…様々なアイデアを詰め込んでいるが、しっかりと80年代ニューウェーブのリフ感を根底に感じる作りで「粋」とすら思ってしまう。ナンバーガールやゆらゆら帝国に影響を受けた音楽好きなどにむしろ聴いて欲しい、リフ+ルーティンの気持ちよさと遊び心を持ったロックアルバムだと思う。
3曲目『Sayonara』や11曲目『Arigato Song』など日本的なワードもあり、親しみとユルさを感じてほっこりしてしまったりする。オススメは1.3.5.11曲目。


③ 青葉市子 - アダンの風

一本の映画のような情報量
作者が南の島に滞在していた際に思いついた物語をベースに『架空のサウンドトラック』として製作されたアルバム。青葉市子といえばアコースティックギターやピアノがメインの非常にドメスティックで寄りそう楽曲と、他者とコラボしてその透明感のある声で作品を冷凍するような魅力を持つSSWだと思ってきたが、今作はそのどちらとも違う新しさを感じた。正直この声が聴ければもはやそれでよし。という気持ちも無くはないのだが、やはりこうやって作品として聴くとどんどん深く陶酔できて素晴らしい。50分間別世界にいるようなパワーと、とてつもない情報量を持ったアルバムだと思う


④ The Flaming Lips - American Head

My Religion Is Youというパワーワード
16枚目のアルバムとして混沌とした世間に放たれたアルバム。コンセプト感のある構成で、フレミングらしいユルさも持ち合わせながら、ヨシミの頃のギラギラしたHighな多幸感とは違うが、確実にジワジワと許されている感じを味わえる。
1曲目の時点からメロウなアメリカンポップナンバーで、この曲の後半の盛り上がりがとても美しくて、「また新しい多幸感」をジワジワ感じるタイミングとなった。アルバム中盤〜後半はロードムービーの鬱展開というか…懺悔や後悔を含んだ暗めの展開なのだが、これが布石かと思うくらいにラストの『My Religion Is You』に繋がっている。
「私の宗教はあなた」ってすごい歌だよな…
こんな時代に美しく希望に満ちた世界を見せてくれたことに感謝します。


⑤ Dirty Projectors - 5EPs

再構築への挑戦に救われた1年
2020年の間リリースされた5枚のEPをまとめたアルバム。まず1枚目がリリースされた際に「これ本当にDirty Projectors??」と思わされた。新しいボーカルの声とミニマルでソフトなアコースティックソング…今まで彼らに求めてきた『奇抜さ』とはかけ離れていたが、これがまたとてもいい曲で…心が落ち着くEPだった。そしてその後3作品に渡ってボーカルが変わる…これはメンバーが全員抜けて1人となったバンドが新たな価値観を持って再構築するまでの経過の5作品だと後になって気付かされるわけだが…

EPが出るたびに世の中の状況は悪化していく。そんな中自分としては毎回このEPに心癒されていた。元々彼らに求めていた新しさではないかも知れないが、とにかく毎回優しくて救いのある音楽だった。

5枚目の『Ring Road』では新メンバー勢揃いでコーラスが重なっていく…あの4重コーラスはもはや懐かしくもあり涙すら感じた。新メンバーのイズムも散りばめられてバンドとしての形を取り戻したDirty Projectorsはそれはやはり今までとは違うけれど、美しくてこの1年間再構築の物語と救いを与えてくれた。このメンバーとしてのアルバムも心から楽しみにしている。
EP集なので作品性としてはベスト作品とはいえないが、個人的には1番思い入れの強い一作。


⑥ Pantha Du Prince - Conference Of Trees

ある種奥ゆかしいトライブの形
2010年発売の『Black Noise』以来に聴いたのだが、今作は『木々のコミュニケーション』をテーマにしたコンセプトを持ち、木材の擦れる音などを楽器で表現しながらも新たなトライバルのニオイを感じさせる。しっかりとPantha Du Prince流のダンスミュージックの気持ち良さがあり、しかし多出ししない奥ゆかしさがあるのでずっと聴いていられる…そこにコンセプトに伴う様々なアプローチも楽しめるので様々な風景にマッチしていく『わびさび』を感じさせる作品。


⑦ Kamaal Williams - Wu Hen

ジャズが暴れとる
今年はジャズやソウルを踏襲した作品も各所で見られたが、彼の作る音楽は確実にその向こう側にある。ジャズを基軸にはしつつも、何種ものジャンルの片鱗が交差して大暴れしている感じだ。「UKジャズ」といえば聞こえがいいが、これはもはやロンドンカルチャーのごった煮で「スタイリッシュ全部のせ」みたいなもの。胸焼けするくらいに振り回された後、しかし意外にもそこに一本の筋が通っていることに気づき、手綱は離さないまま次はどうなる?と期待しながら聴いてしまう1枚。


⑧ 王舟 - Pulchra Ondo

今年の夏の思い出の1作
王舟が自粛期間に日記のように書き溜めたインスト楽曲をまとめたデジタル限定アルバム。作者のアイデンティティも相まって多国籍な質感を持つ楽曲が多く、アジアの夜街を回遊しているようなリゾート感を味わえる。夏の夜のちょっと生暖かい陽気というか、そんな湿気を感じるサウンド。今年の夏はこのアルバムを聴きながらよくドライブしたし、コロナ禍とはまた別で印象深い作品


⑨ Wyatt Smith - Maple

やっぱ好っきゃねん…
特別に風変わりなポイントがあるわけではないが、ローファイ・USインディの古典とも思えるストレートなギターロックサウンドに懐かしさと安心感を感じてしまう。エリオットスミスのような透明感のある声、粒の粗いローファイサウンド、哀愁のあるメロディ…どれをとってもあの頃の物で、しかし洗練されていて現代のサウンドになっている。やっぱこういうの大好きなんだよな…


最後に

ベストアルバムをまとめる上で年末に振り返った段階から、年始に聴きなおしたりしていく上でかなり入れ替わったので、普段から流し聴きはよくないなと…反省した部分でもありました。
今年は本当に世界中が混乱した一年だと思いますが不謹慎ながらリスナー側としては音楽的にとても充実していて、救いや希望を感じる作品、内省的に共感していく作品、メッセージ性の強い作品…様々なアプローチを楽しめる1年でもありました。特にSSWの発信力が目立ったり、ここ数年のベッドルームポップの人気もあり、ラグジュアリーな音楽を受け付けない世情から後押しされるようにインディーフォーク色の強い作品に手が伸びたり…とにかくたくさん音楽を聴いた1年でした。
こんな最中小規模でもイベントや活動を続けたアーティスト、ライブハウス、スタジオ…全てに感謝が尽きません。

僕もクリエイターとして、バンドメンバーとして再起動したいと思っているので、音楽のインプットを継続していきたいと思います。

他にも紹介したかったアルバムもたくさんあったんだけどな…

最後まで読んでくださってありがとうございました!
2021年もよろしくお願いします

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