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【読書録】天の光はすべて星 / フレドリック・ブラウン

2022年3月5日 読了

数年ぶりの再読。アニメ『天元突破 グレンラガン』の最終話サブタイトルになった小説として有名で、実際アニメがきっかけで当時は小説がプレミア価格になったとか。アニメ内のセリフにも「天の光はすべて星だ!」というセリフがあり、文庫版あとがきもアニメ脚本の中島かずきさんが書いている。

初めて読んだときも良い小説だと思ったが、改めて再読して大きく印象が変わり、涙腺が緩むほどものすごく感動させられた。

初めて読んだときは「SFというよりはヒューマンドラマ」という印象で、宇宙に憧れるオッサンの熱い漢の物語だと感じていた。実際、話の内容は「宇宙にロケットを飛ばすために政治的な支援をする」という、あらすじだけ見るととても地味なストーリーで、その中での漢気、ロマンス、葛藤……といった人間的な要素が面白い作品だった。

しかし今回再読してみて、自分が思っていたよりずっと「SF小説」だと感じた。

まず本作の設定が、書かれた当時から50年先の未来であり、交通手段としてロケットが飛び交うようになっているが、ロケットはセレブ御用達の乗り物で、宇宙への開拓はほとんど進んでいない……という、とても生々しい未来観である。
一見地味だが、日常にリアルな未来を織り交ぜる感覚はとてもSF的で面白い舞台設定だ。主人公が元宇宙飛行士のロケット技術者というのもこのリアルな未来設定ならではのキャラクターといえる。

そして何より、宇宙が好きであればあるほど共感できる感情のすべてがこの作品には詰まっている。
宇宙の偉大さや憧れを描きながら、しかし自分が生きているうちはほとんど解明されず辿り着けないという諦め、それでも未来の人類・子どもたちに託す希望……「星」という存在に憑かれた人間たちの想いが、フィクションであることを忘れてしまうほどに熱量を持って伝わってくる。

また、これは少しネタバレになってしまうが、この小説では主人公たちが宇宙に行くことは無い。
あくまで地球から見る宇宙・星への憧憬や畏怖を描いている。
初読時に自分があまりSFみを感じられなかったのはここだろう。宇宙に進出することもなければ、時間SFやディストピアSFのようなわかりやすさもない。
しかし、宇宙に行かないこの小説こそ、宇宙というものの大きさ、手の届かなさを、他のどんなSF作品よりも感じられると、再読して感じた。


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