アルブレヒト・デューラー 《自画像》 〜 アートの聖地巡礼(ドイツ)

画像1 ミュンヘンへ行くのであれば、アルテ・ピナコテークへ行かなければならない。どうしても、あの絵を見に。再びそう思ってたどり着いたアルテ・ピナコテークは、中世からバロックを中心した作品を展示している。その中でも同美術館のコレクションの基礎を作ったバイエルン王ルートヴィヒ1世の好みなのか、バロック美術(1600〜1720年頃)の作品が多い。天井が高いのでバロックの代表的画家、ルーベンスを中心とした巨大な作品が映える。
画像2 様々な名品があるけれども、一番先に向かいたいのが「デューラーの部屋」だ(勝手にそう呼んでいる)。同美術館の一番奥の部屋にある。つきあたりにあるドイツ・ルネサンス美術の巨匠アルブレヒト・デューラー(1471-1528)の代表作《四人の使徒》が、ここからでも見える。 それよりも、あの絵。
画像3 それがデューラーの《自画像》(1500年頃)だ。2018年に改修されたので室内が明るい。よくも悪くもライトの光が作品を覆っているガラスに映り込んでしまう。どうにもこうにも作品が「立ち上がらない」。あちらこちらを移動する。どうしても無理だ。諦めた。今となればフランス人の美術史家ダニエル・アラスの気持ちがわかる。彼の著書『モナリザの秘密―絵画をめぐる25章』(吉田典子訳、白水社, 2007)の中で、アラスは、ドレスデンでラファエロの《サン・シストの聖母》を見に行く。
画像4 しかし、アラスは、作品のガラス板に反射するネオンに失望する(私と同じ)。その作品を見るためにドレスデンを訪れた彼は、こう書く。「それで1時間ほどそこにいて、あちこち場所を移動していたのですが、ある瞬間、絵が『立ち上がった』のです。そのときとつぜん、私には《サン・シストの聖母》が見えたのですが、それはヨーロッパ絵画史上、知的にもっとも深遠な絵のひとつであり、ラファエッロが好きでよく知っている人にとっては、彼のもっとも感動的な絵のひとつだということがわかったのです。」(アラス, 2007,p.15-16)
画像5 そこで数年前、同美術館改修中に訪れた時撮影した同じくデューラーの《自画像》の写真を取り出してみる。写真というのは、つくづく素晴らしいと思う。一気に記憶が蘇る。当時ミュンヘンは、ウィーンの旅のついでだった(手頃な直行便がなかった)。駆け足の旅だった。それでもミュンヘンへ行くのであれば、アルテ・ピナコテークへ行かなければならない。どうしても、あの絵を見に。その思いは、当時も同じだった。でも、その日のミュンヘンは、季節外れの大雪で美術館も工事中。運が悪そうだけれども展示(撮影)環境は、だんぜんこちらが良かった。
画像6 この写真こそ《自画像》が「立ち上がった」瞬間に近いと思う。さて、《自画像》の中のデューラーは、キリストに似ている(本人はそれほど意識していなかったようだが)。面長の顔、ウェーブした長く豊かな髪。肌、眼球、身につけている毛皮の質感。北方ルネサンス特有の写実性。イタリア・ルネサンス美術とは異なるデューラーの絶対的美意識が伝わってくる。彼は、当時のアーティストには、珍しく文章で自分の芸術について考えや記録を残している人だった。次にここを訪れる時、この絵が「立ち上がった」瞬間をどう捉えることが出来るか楽しみだ。
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アート・ビジネス→美術史家(Ph.D.)。西洋美術史*ニュー・アート・ヒストリー専門。アート聖地巡礼の旅人。絵画、彫刻、建築における象徴表現を研究。好きな場所は、図書館、美術館、本屋、カフェ、海。

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