withコロナ時代の航空会社の戦略は?
コロナは世界経済を壊滅させています。
世界のあらゆる業界でなにかしらの影響はでていますが、
航空会社や旅行業界は、最もダメージの大きい業界の1つです。
"航空会社の需要がこれまでの水準に戻るのは、早ければ2022年"
と予想しており、その頃にはコロナの影響で世界は変化しているでしょう。
航空会社は、旅行者の行動がこれまでとは変化する環境下で、
"直近の激震を乗り切ること"に加えて、
"新たな時代(=with/afterコロナ)に勝ち残る準備をすること"
が必要です。
では、具体的にはどう考えるべきなのか?
1. エアラインへのダメージ
コロナ感染拡大による旅行需要の突然の急激な減少は、2001年9月11日や2008年金融危機の時よりもはるかに悪いです。
マッキンゼーのレポートによれば、
・2020年4月初旬には、世界の航空会社の60%が運航停止
・2020年4月のキャパシティは、1年前に比べて70~80%の減少
・この落ち込みは、9月11日以降の19%、2008年の世界金融危機後の11%という前年比の落ち込みをはるかに上回っている
また、ビジネスインサイダーによれば、
・2020年4月の世界中のフライト便数は、コロナ発生前から60%減少
・航空会社は今年、3,140億ドル(約34兆円)の損失を被ると予想
とされています。
“飛んで初めて売り上げが立つのが航空会社"
減収のインパクトは、はかり知れません。
さらに、固定費が大きいという収益構造も、他業界にくらべて航空業界のダメージを大きくしている一因です。
固定費とは、売上が小さくなっても、簡単に減らない費用のことです。
人件費と機材費などです。
一般的に、航空会社の費用の内、固定費は約2/3といわれています。
"入ってくるお金がないのに、勝手に出ていくお金がたくさんある"
この構造が、航空会社の首を苦しめています。
2. エアラインの緊急対応
このような経営環境が急激に悪化した航空会社は、
緊急対応として、以下を進めています。
①変動費の削減
②資金の調達
③コロナ対応の支援
①変動費の削減|
固定費が費用の半分以上を占めるという構造は先ほどご説明した通りですが、それでも変動費はあり、こちらは減らす努力ができるものもあります。
キャッシュインがほとんどなくなってしまっている中で、少しでも出ていくお金を少なくするように、航空会社では、変動費をすべて見直して、削れるものは削る取り組みをしています。
②資金の調達|
収入が激減しているため、航空会社は運航資金を賄うために十分な現金を手元に確保しなければなりません。
ほとんどの航空会社は、3〜6か月を生き残るのに十分な資金を持っていますが、それで十分な状況ではありません。
そのため、各航空会社は、金融機関からの融資を増やしてます。
ただし、先行きが見えない状況なので、金融機関も簡単に多くの融資をするわけにはいきません。
そこで、政府が介入し、いくつかの国では以下の支援策が取られています。
・米国|空会社への融資と給与支援に500億ドルを計上
・フィンランドやノルウェーなど|航空会社への融資を拡張
日本では、どうでしょうか。
まだ、具体的な支援はなされていませんが、動きはあるようです。
先日、国内航空会社が加盟している定期航空協会は、政府に対して、
「2.5兆円の支援パッケージ」を提示して、支援の依頼をしています。
これは、当面4カ月で約4000億円以上、年間では2兆円規模の減収になる想定を前提にされています。
2.5兆円の内訳は、簡単にいうと以下の2つ。
a. 2兆円|政府系金融機関から融資枠を確保したい(超長期、無担保)
b. 0.5兆円|空港使用料などの支払い猶予や免除、感染症対策費用の補填
政府の支援は国によって異なります。
資金に余裕のある国の一部の航空会社は、国からの援助を受けて、危機から抜け出し、競争上の優位性を得ることができます。一方で、そうでない航空会社は、その逆に苦しい状況が続き、最悪、破綻となるでしょう。生き残ったとしても、競争格差が広がっているでしょう。
<③コロナ対応の支援>
航空機の利用が大幅に減っているため、航空会社は、社会の救済を支援する活動もしています。
JALやANAも、マスクや防護服などの医療用品を輸送していますね。
3. エアラインの需要はどのように回復するか
マッキンゼーのレポートでは、今後の経済がどのように展開するかを9つのシナリオで提示しています。
その中で、パンデミックが比較的早く収束する"①楽観的なシナリオ"と、"②悲観的な見方をするシナリオ"の2つについて、今後の航空需要の予測をしています。
①楽観シナリオ
・コロナウイルスの蔓延が迅速かつ効果的に抑制されるシナリオ
・2020年には航空旅行の利用者数は50%近く減少
・5月上旬には世界経済が回復
・人々は長引くことなく通常の行動を再開し、航空会社は業務を再開
・世界の旅行は2021年までに危機以前の水準に戻り、翌年には危機以前の水準を上回るようになる。
➡現時点の状況から、このシナリオになる可能性はかなり低いと思います。
②悲観シナリオ
・コロナウイルスの再来には長期的な移動制限が必要
・レジャー利用者|経済的な不確実性と感染への恐れが重なり、需要は低い
・ビジネス利用者|一部の出張は、ビデオ会議に取って代わられる
・航空旅行の需要は2020年には約60~70%減少し、危機以前の水準に回復するのは2023年以降となる。
➡ここまで回復が先延ばしになることはないと思いますが、現在の感染拡大状況や、ワクチンや治療薬の用意にかかる期間を考えれば、需要が、完全回復するのは2022年頃と考えます。
4. エアラインの今後のプラン
需要はまだまだ回復する兆しが見えない中で、航空会社は、当面の資金の問題に対処した後には、コロナパンデミックを乗り切るための計画が必要となります。
マッキンゼーは、企業がパンデミックから回復するためのプロセスとして、5つのフェーズを示しています。Resolve(解決)、Resilience(回復力)、Return(復帰)、Reimagine(再構築)、 Reform(改革)です。
Resolve / Resilience)まず問題を解決する
いま、航空会社は、資金を確保して、ビジネスを維持することだけを考えています。しかし、移動制限が解除される日はそう遠くないので、いまから利用者の健康と安全のために、運用を見直す必要があります。
利用者は、空港や飛行機で感染するのではないかと、旅行に不安を感じるでしょう。また、従業員も同じです。
その不安を払しょくしない限り、移動が自由になっても、飛行機に乗ってもらえるようにはなりません。
中国の航空会社では、乗客にマスクを着用、飛行前に体温を測る、以前の旅行の登録などで対応しています。
Return)需要の回復にそなえる
需要が回復してからキャパシティを増やすのではなく、需要の回復と同時にキャパシティを増やすことで、他社よりも優位にビジネスを進めることができます。
回復の時期を予測するのは難しいですが、新たに需要が増える顧客セグメントや地域を特定するためにデータをつねに調査し続ける必要があります。
Reimagine / Reform)より競争力を強くする
コロナによって、これまでの利用者の嗜好、人口統計学、行動が変化するため、価格、飛行ルートを決定するための従来の方法が有効でなくなる可能性があることを認識しなければなりません。
例えば、安い運賃やお得な情報で気軽に利用していた利用者は、健康上の懸念が残っている場合には、そのような行動をしなくなる可能性があります。
航空会社は通常、予測を作成するために過去の結果に依存しているので、withコロナ/afterコロナ時代に、適切に需要を喚起するためには、価格設定や収益管理システムを更新する必要があるかもしれません。
また、いつまた同じようなパンデミックが生じるかわかりません。その時に、同じ道筋を歩かないように備えておく必要があります。
売上に関して言えば、“飛んで初めて売上が立つのが航空会社"の体質を変えることにあると思います。
デジタルテクノロジーの進化によって、業界の境目がなくなっている環境下で、うまくニーズを取り込めば、航空業以外で収入をあげることは可能です。
航空業の収益に依存しない体質を整えておくことが一つの対応です。
また、今回のパンデミックにおいて、売上が減少してしまったことは避けようがないですが、固定費を減らしておくことでそのインパクトを減らすことができました。
よって、現在の固定費を見直して、変動費化できるものは変えておくことでリスクを減らしておく必要があります。
例えば、設備を所有するのではなく、サービス提供会社から利用するように変えておくことで、変動費化することができます。
5. まとめ
航空会社は、今後数ヶ月間の見通しを立てるのが難しいでしょう。
しかし、その中で、需要が回復したタイミングを見据えて、事業や組織を戦略的に考えられる企業が、withコロナ/afterコロナ時代には勝ち残るはずです。
そのために、航空会社は、政府だけでなく、旅行会社やシステムベンダーなどの複数のビジネスパートナーとコラボレーションしながら、新しい価値観や需要をとらえる準備を進める必要があります。
それにしても、早く飛行機に乗って、旅をしたいです。
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