結菜さんを変態の性癖に巻き込まないでほしいっす

本作品はMURAさんのひか結菜コネクトイラストを見て「!!!」となりながら書いた小説です
この小説は読めばもちろん人生の幸福度が数倍になりますが、コネクトイラストを見ることで幸福度は更に100倍近く上昇するので、つまりイラストを見てください。





「コネクトっていうの、本当に使えるようになったっすかね」

 ひかるは夜空に向けて手をかざした。月の光を受けて、指輪の宝石が紫色に煌めく。

「さあな。どっかで魔法少女とやり合えばする機会もあんだろ。姉さんが一人で熱くなっちまわなけりゃな」

「それは約束しかねるわねぇ」

 樹里の言葉を受けた結菜は、昏い光を湛えた瞳で笑った。

 現在の三人がいる場所は神浜市の端である。ピュエラケアによる調整を受け、プロミストブラッドが潜伏先としている廃工場へと戻る途中だ。

 コネクト。それは調整を受けた魔法少女が引き出せる新たな力である。神浜市の魔法少女たちはコネクトを使いこなし、日々魔女と戦っているという。魔女にならぬ皮膜、ソウルジェムの調整、満員電車……全てが二木市から来た彼女たちにとっては初めての経験である。しかしすぐに慣れ、使いこなさなければならない。解放の力を奪い、犠牲になった仲間たちに報いるために。

「おい馬、ちゃんと樹里サマともコネクトしろよ」

「なんすか、いきなり……長女さんに命じられればするっすよ」

 そう言ったひかるの表情は、今にも嘔吐しそうなほどに歪んでいた。樹里はひくひくと青筋を立てる。

「おい姉さん、アンタは馬を甘やかしすぎだ。こいつ樹里サマを嫌いなことを隠そうとすらしねえ」

「嫌いじゃないっすよ。でも長女さんに乱暴だから苦手っす」

「同じだろ。いいか、樹里サマは姉さんの義妹だし、そもそももう同じチームだ。敬えとは言わないがな、戦いにまで持ち込むなよ」

「ひかるは公私混同はしないっすよ」

「安心しなさい、樹里」

 結菜はくすくすと笑った。そして、変身した。身に纏う黄色い着物めいた魔法少女服、そして額から生えた鬼じみた角。

「ちょうど、練習ができそうよぉ」

「練習って……」

 樹里は眉をひそめ……目を見開き、攻撃的に口元を歪めた。中指のソウルジェムが強く明滅している。

「いるなァ、魔女……!」

「少なくなったらしいっすけど、やっぱり二木と比べると多いっすね」

 既に変身を済ませたひかるがレイピアを振るった。彼女の視線の先、枯れた木の幹に蟻地獄じみた超自然の砂の渦が形成されている。樹里は歩きながら変身し、炎を纏った拳で渦を殴りつけた! 周囲の光景が悪夢じみて変容する……!

 …………。

 足元を踏みしめると、じゃり、と音が鳴った。周囲には芋虫じみた使い魔がいるが、侵入者には興味を示さず、思い思いに遊んでいる。唯一、三人を視界の中心に捉えているのが、この結界の主……貴族の婦女めいた姿をした魔女である。読者諸氏はご存知のはずである。この魔女こそはマギウスによって養殖されし存在、砂場の魔女!

「的も大きいし、攻撃は簡単に当てられそうっすね」

「その分硬いかもしれないわぁ。油断は禁物よぉ」

「姉さんの言う通りだ。この砂じゃ足も取られやすい」

 樹里は深く息を吸い、吐いた。背中から龍の背鰭じみて炎が迸る。両の拳と足が燃え上がる!

「樹里サマが引きつける。その間に、姉さんと馬がコネクトして倒せ!」

 靴裏からジェット噴射めいて炎を噴き、樹里は跳んだ! そして凝縮した炎を放つ! 魔女はその場で回転し、砂を放った。炎と砂がぶつかり合い、拮抗!

「樹里の炎と張り合う……。樹里もまだ本気ではないでしょうけど、やっぱり二木のよりは強いわねぇ。魔女はもう育てていないと聞いているけれど……」

「考えるのは後っすよ、結菜さん」

「ええ、そうねぇ」

 足の炎で自由に軌道を変える樹里を見上げながら、結菜は掌をひかるに向けて突き出した。ピュエラケアの説明では、触れ合って魔力を流し込むことでコネクトは成立するという。最初は立ち止まって手を合わせるのが一番だが、触れ合いさえすればどこでもいいので、投げ飛ばしながらコネクトすることも理論上は可能である。

「…………」

 ひかるは結菜の手をじっと見たまま動かなかった。「おい! 早くしろ!」樹里が燃やした使い魔を魔女に投げつけながら叫ぶ。ひかるは視線をやや上にずらし、唸り……言った。

「口がいいっす!」

「え?」

「ハァ!?」

 遠くの樹里にもそれは聞こえたようだった。樹里は危ういところで砂を避け、結菜たちを見る。

「結菜さんとの初めてのコネクトは、口と口でしたいっす!」

「ひかるぅ、それは……」

「口にしてくれないと力が出ないっすー!」

 ひかるは年頃の少女じみて駄々をこねた。彼女とてまだ13歳なのだ、こういうこともあろう……。結菜は考え、頷いた。

「じゃあコネクトするっす!」

 ひかるは結菜を抱き寄せた。結菜の小さな体は、腕の中にすっぽりと収まった。

「結菜さん……!」

「……ひかるぅ」

 結菜は顎を上げ、目を閉じた。ひかるも同じように目を閉じ、口付けした。周囲に魔法陣が展開する。コネクトが成ったのだ。

 たっぷり10秒ほどした後、二人の唇は離れた。これでひかるも満足するだろう……結菜はそう考えた。しかし、彼女の見通しは甘いと言わざるを得なかった。

 ひかるの顔の位置が下がった。結菜が疑問に思う中、着物めいた魔法少女服をはだけさせられ、黒いブラが露わになる。その胸元へとひかるの唇が落とされた。

「ん……ちょっと、ひかるぅ?」

 ひかるは返事をせず、帯を指でくいと引っ張った。これを消して欲しい、そういった要求である。見上げるひかるの瞳は内なる炎に揺れている。結菜はため息を吐いた。彼女の瞳は優しかった。そして、帯が今――。

 次の瞬間、炎が二人目掛けて襲いかかった。

 間一髪、結菜とひかるは反対方向に飛び離れて回避。「何するっすか!」ひかるが叫んだ。彼女たちの視線の先……そこには、鬼めいて凶暴な顔をした樹里がいた。その背後では、頭部の左半分を失った魔女が悶えている。

「おい、駄馬……戦闘中に盛ってンじゃねーぞ……」

 凄まじき怒りだった。その全身から放たれる怒気を真っ向から受け止めれば、心の弱い魔法少女であれば失神してしまったことだろう。

「なんすか、次女さんやきもちっすか」

 しかし、煌里ひかるはふてぶてしかった。彼女はまったく動じず、むしろ樹里に対して責めるような態度すら取っていた。それがますます樹里の怒気を増幅させた。

「ああ、今すぐテメエを焼き馬肉にしたくて仕方がねえ」

「でも次女さんだって、長女さんと殺し合いたいってずっと発情してたじゃないっすか。長女さんを変態の性癖に巻き込まないでほしいっす」

 ブチリ。その場の全員が、何かが切れる音を聞いた。樹里は無表情になり、かつかつと結菜に近付いた。後ずさる結菜の肩を掴み、樹里は大きく口を開き、首筋へ顔を埋める。そして。

「いッ……!」

 結菜が悲鳴を飲み込んだ。同時に、周囲に展開される魔法陣。コネクトが成った。樹里は振り返り、跳んだ。その手には炎の金棒が握られている。そして、その金棒を魔女の頭部へと叩きつけた! 金棒は爆ぜ、炎が魔女を飲み込む! 魔女は苦悶し、やがて砂を撒き散らしながら爆発四散した!

「あ……ああ……!」

 グリーフシードをキャッチする樹里の背後、ひかるがわななく。彼女の視線は結菜の首元……深々と刻みつけられた歯型へと注がれている。

「結菜さんに……結菜さんに何してるっすかぁ!」

「コネクトだよ。なるほど、確かにこいつは強い」

「そうじゃないっすよおお!」

 ひかるの剣幕は先程の樹里もかくやというものだった。対する樹里は涼しい顔をしている。

「結菜さんも! 嫌なら嫌ってはっきり主張しないと次女さんみたいなタイプは調子に乗るっす!」

 ひかるは結菜を振り返った。結菜は首元の歯型に手を当てて、「そうねぇ」と呟いた。

「次女がコネクトしたいと言うなら、拒否するのは気が引けるわねぇ」

「な……なっ……!」

「だってよ。これからも頼むな、姉さん」

「ダメっす! 次女さんはもう結菜さんとコネクト禁止っす! らんかさんとしてればいいっす!」

「……おい、馬。好き勝手言うけどな、そもそもお前が……!」


 夜だと言うのに、少女たちはギャアギャアと騒ぐ。その光景を遠くから見つめる者たちがいた。先頭に立つのは、青髪をツインテールにした少女。その胸は豊満である。笠音アオ。

「あれ、いったいなんですか……?」

 後ろに立つ少女が呆れたように尋ねた。アオは首を傾げ、「んー、修羅場?」と適当に答えた。

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