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エウレカ 私は見つけた 第10話

10  支え合う暮らし


 毎晩父親は、狩の道具の手入れをしている。磨き込まれ、鈍い光を放つそれらは、ロドリゴにとってはまるで生き物のように見える。
 今朝もまだ暗いうち、父親はすっと立ち上がり、外に出て行った。
 
 獲物を追う彼の勇姿を一度、ロドリゴは見たいと思う。でも、それは生きるか死ぬかの緊迫した領域である。なまはんかな興味本位で、立ち入ってはいけない場所であることも十分想像できた。そこでロドリゴは仕方なく、今日も家に残った。そして母親の行動を見ながら、先回りをして、自分に何かできる事はないかを考えて動いた。

 母親は力仕事でも何でも1人でやってしまう。ロドリゴの出番がないほど働き者で、たくましい女性だ。
 また、家事の合間にタクレットの遊び相手をしながら、動物の皮で小物を作っている。今まで当たり前だと思っていた島でのありふれた日常も、こうやって
ミケーネが長年支えていたのだろう。俺は、それに感謝の気持ちをすっかり忘れていた。

 お昼をちょっと過ぎた頃、ドスンと音がして父親が狩から戻ってきた。
 仕留めた動物の名前はわからないが、かなり大きい。これから解体が始まる。前回初めてその様子を見ようとしたのだが、血の匂いとその作業の生々しさに耐えきれず、途中でその場を離れてしまった。
 
 自分も肉を食べるのに全く「命をいただく」という覚悟ができていない。
たぶんあちらでは、その肉は余すところなく食べられるように細かく処理がなされているに違いない。

 しばらくして、父親が一塊りの肉を包んで、ロドリゴに「外に出て」と合図をした。それをたぶん誰かに持っていくのだろう。一緒に行こうということなのか……。

 よく意味がわからないまま、風を通さない上着を羽織り、外に出た。
ロドリゴは、1時間ほど前、庭に出たときとは違って、急速に気温が下がっていくのを頬にあたる風で感じた。

 小道を曲がると、先にはうっそうとした森が広がっていた。その中を分けるようにして歩いていく。途中は道らしきところもなく、ロドリゴは、父親の後ろ必死で追い、ついて行った。
 20分ほど歩くと、少し開けたところに出て、何件か家を立つ中、古い1軒の家を訪れた。
 声をかけて出てきたのは、70歳後半と思われる男性。眼光鋭く、そのたたずまいだけで『ただものではない雰囲気』を漂わせていた。もしかしたら、この辺の長老かもしれない。
 
 この年齢で狩をするのは難しいだろう。その男性は私を見て、初めは驚いたような表情を見せたが、父親がたぶん、いきさつを話して聞かせてくれたのだろう。帰り際には、彼の警戒心も少し和らいだように見えた。

 その日の夕食は、いつもより豪華だった。今日仕留めたものは、切り分けられ、いくつかを人に持っていったので、彼らの分は減ってしまった。
 
 でも、共同体で分け合うことを重要視しているのだろう。その表情からは、『もっとたくさんある方がよい』とは考えていないように見えた。
 
 ーー自然の恩恵に感謝しつつ、その豊かさや恵みの一部をいただくーー
 
 私はロバの仕事をしていた時、同業者を仲間とは考えておらず、むしろライバル視していた。そのため、いつも心が波立っていたのかもしれない。



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