星新一賞没案04「ウサギ脱走未遂事件」

 ある日の放課後、僕たちのクラス4年2組はいつもより長いホームルームを経験していた。実は昼休みの後、ウサギ小屋の扉が空いているのを用務員のおじさんが見つけたのだ。幸い逃げたウサギはいなかったようだが。
 容疑をかけられたのは僕らのクラスの飼育係、田中くん。なにしろ彼は昼休みのウサギのエサやり当番だ。
「いい加減、認めろよ!」
「そうだよ、おれらいつまでも帰れないだろ!」
 連帯責任ということで僕たちは田中くんが謝るまで帰らせてもらえないことになってしまった。それでも、田中くんは涙をいっぱいにためながらも首を横にふり続けた。
「田中ぁ、自分のミスを認めたくないのはわかるが、おまえが謝らないとみんな帰れないぞ。先生も用事があるんだ」
 先生さえも田中くんを犯人だとあたまから決めつけている。もう、我慢の限界だ。僕は机を勢いよく叩きながら立ち上がる。
「いい加減にしろよ、みんな!!おれ…言い出しづらかったんだけど田中くんがカギをちゃんと閉めているのを見たんだ」
 突然の証人の登場にクラス中がざわめく。田中くんは泣き止み驚いた表情で僕のほうを見る。
「みんなが最初から田中くんが犯人だって決めつけてたからなんか言えなくて…」
 クラス中の視線が集まってしまい緊張したがなんとか話を続ける。
「じゃあ、田中がカギをかけたなら誰がカギを開けたっていうんだ?おまえは、そいつのことはみなかったのか?」
「いえ…そこまでは見ていません…真犯人がだれかは……わかりません。でも、田中くんが犯人じゃないってことだけは確かなんです…!」
しかしなぁ、そう先生が口を開こうとしたので僕はさらに畳み掛ける。
「そもそも、先生はなんで田中くんの言うことを信用しないんですか?真犯人探しで時間をとられて佐藤先生とのデートに遅れるのがそんなに嫌なんですか?」
 この発言にはクラス中の目付きが変わった。僕らの先生と保健室の佐藤先生が付き合っているのは周知の事実だ。
「そ、そんなことはないけど、そうだな確かに頭ごなしに田中が犯人だって決めつけてしまったな。カギはたぶんかなり古いから自然に壊れてしまったんだろう。みんなも疲れたろう、さぁ今日は帰っていいぞ」
 先生はそう早口でつげるとさっさと教室から出ていってしまった。あっけにとられる僕たちだったがそれ以上に解放された喜びのほうが大きかった。
「はぁ~やっと帰れるね」
「田中くん、うたがってごめんね」
「そういや、サッカーボール蹴ってたやついたからそいつじゃねーの?」
 みんなそれぞれ適当なことをいいながら出ていく。教室には僕とまだ充血している目の田中くんだけが残った。少しの沈黙の後、田中くんは僕に話しかけてきた。
「ありがとう、ほんとに助かったよ。」
「いいって。みんな帰ったしオレたちも帰ろう。」
 そうして二人でクラスのみんなや担任の悪口を言いながら帰宅した。それから田中くんとは仲良くなり社会人になった今でもたまに連絡を取り合っている。
この事件からオレが得た教訓は二つ。「証拠もないのに人を疑ってはいけない」と「ウサギ小屋の近くでリフティングして遊んではいけない」だ。

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