星新一賞没案09「黒猫」

 駐車場に車を止める際に黒猫を轢いてしまった。姉から預かっていた黒猫だ。背中と顔のの一部に白い模様があるから、正確には、ほぼ黒猫、だが。車の近くは危ないから近づくんじゃないと何度も言ったのに。人間の言葉を理解できないのだから仕方ないけど。
 しょうがないから近くの山に埋めに行った。ペットの火葬もできるらしいがそれでは姉にばれてしまう。ベタかも知れないが、どこかに埋めてしまって、逃げてしまったことにするのが一番だ。幸い誰にも見られることはなかった。いくら猫とはいえ埋めているのを見られたら問題になる。
 すぐに連絡するもの気が引けたので二日、あいだを置いて姉に黒猫が逃げてしまったとラインで報告した。かなり大事にしていた黒猫だったのでキツイ言葉も飛んでくるかと覚悟していたがそんなことはなかった。もしかしたら、自分のしでかしたことを察して呆れているだけかもしれない。
 それから1週間後、いらなくなったものを処分したいと姉から連絡があった。姉のところに車で向かうと、処分するものとは大量の子供に関するものばかりだ。新品に近いものもありこれならリサイクルショップで売ればいくらかにはなりそうだと持ち掛けても処分するのだと言ってきかない。しかもこれらを自分の住んでいる地域のごみとして出してほしいそうだ。確かにいくらかは値段の違いはあるがそれもほぼ誤差の範囲だ。むしろ往復の燃料代で足が出るのではと思える。それでも姉が処分代も燃料代も負担するからということで押し切られてしまった。さすがに一度にこの大量のごみを出すのはなにかよからぬ疑いがかかるのではないかと思い、2,3週間に一度小分けにして自分のごみと一緒に出していた。
 それがおよそ半年前の話。姉から預かったごみも残り少なくなっていた。あと2回もすればなくなるだろう。しかしそのごみが少なくなるにつれて奇妙な夢を見るようになっていた。死んでしまった黒猫がごみのやまのにおいをしきりに嗅いでいる夢だ。しかも決まってごみの山の中からどれかを捨てようと選ぶ前日だった。すると今日捨てるのはこれとこれとこれ。と淀みなく選んでいた。まるで黒猫が選別をしているようだった。そうして今日も夢に見る。残り少ないごみのやまの匂いを嗅ぎ、か細く鳴く。いや、これはなにか言っていないか?そんなことを思い目覚める。そうして今日捨てるものを選ぶ。残ったのは黒い子供服と黒猫をデフォルメしたぬいぐるみだった。
 その瞬間気づいてしまった。自分と姉がしてしまったことに。そして、わかってしまった。あの猫がなんて言っていたのか。
「真っ黒な猫になればお母さんは好きになってくれる?」

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