星新一賞没案06「引っかかった」

 19時10分。今日は高校時代のクラスメートの墨田と久しぶりに会う予定だったのだが10分遅れてしまった。最近、細かな遅刻が多くなってきてしまっている。友達相手だからまだ問題にはなっていないがさすがにこのままではまずいだろう。本格的に気を付けていかないと。すでに席についている友人を見つけ席に座る。
「ごめん、ごめん遅くなっちゃって。」
「大丈夫、大丈夫。急に連絡したの俺だし。とりあえず、唐揚げと串盛りと枝豆は頼んどいた」
 そういって、墨田がドリンクのメニューを差し出してくる。
「あー、それじゃあ。すいませーん。生とあとゲソ揚げ。」
 注文はできるだけ少なくした。早めに切り上げられるような手は打っておいた方が良いように思えたからだ。級友だったとはいえそこまで親しい間柄だったわけではないし、なにより目の前の人物の良からぬ噂を聞いていたからだ。
「それにしても、墨田の方から会えないかって連絡もらったときは驚いたよ」
 おしぼりで両手をふき、次に顔をふく。さすがにまだ首元をふくまでは年寄りではない。
 「まぁ、久しぶりにクラスメートに会いたくなることってあるじゃん。」
 いまいち歯切れが悪い墨田だったが、店員が生ビールと枝豆を持ってきた。
「それじゃあ、まずはお疲れ。」
 そういって、乾杯をする。ビールを一口すするが今日のビールはずいぶん苦みが強いように感じた。追加で来た唐揚げと串盛りを肴に近況を話し合っていると店員がゲソ揚げを持ってきた。店員がいなくなると墨田が、
「それでなんだけど、俺らもいい年齢じゃん。資産形成とかしてんの?」
 きた。そう思った俺は墨田の言葉に警戒しながらつい先ほど店員が持ってきたゲソ揚げを口に運ぶ。
「いやーつい最近さ、暗号資産の情報を手に入れて、」
 ビールで飲みこもうとしたが妙に引っかかる。
「おまけに元本は保証して必ず儲かりますって、」
 引っかかって引っかかってどうにも気になる。
「あなただけに教える情報ですよ、」
 話半分で聞き流していたがやはり引っかかる。
「ですから、●社の株を今買ってくれたら、後でそれを高く買い取ります、」
 仕方がないから墨田に正面切って言ってしまおうか。
「なんて話を○○から聞いたけど絶対詐欺だよな。クラスメートがそんなことになってショックだよ~。・・・ところでさっきから黙りこくってるけどどうかした?」
「いや、なんでも。」
 そういって、爪楊枝で歯をいじる。
 墨田が詐欺に関わっているかも、という大変不名誉な噂と歯に挟まっていたゲソをビールで流しこんだ。

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