【ハラスメント入門】まずは歴史・類型・法律を知ろう!

〇はじめに

仕事の場での様々なハラスメントを知りたいみなさん、こんにちは。とある大学の労働法ゼミです。

昨今の世間では色んなハラスメントが叫ばれていますよね。パワハラ・セクハラといったメジャーなものから、リモハラ・ジタハラといったマイナーなものまで。多くの○○ハラに囲まれた現代日本に住むみなさんの中には「何気なく耳にするハラスメントって言葉はどうやって生まれたんだろう?また実際どんなケースならハラスメントで、それが認められるとどのような処分が下されることがあるんだろう?」と疑問を持つ方も多いかと思います。
そこで、この度は全6回の記事を通して仕事場で起こり得る様々なハラスメントを取り上げ、事例とそれについてのペナルティ、また被害者にも加害者にもならないための対処法を紹介します。

前置きが長くなりましたが、1回目である今回のノートでは「ハラスメントの概論」というテーマで、どのような歴史があってハラスメントという言葉が生まれ、どんな類型と法律が整備されてきたのかについてざっくりと書きます。個別の事例に関しては、2回目以降に詳しく取り上げるのでそちらをご覧ください。

〇ハラスメントの歴史・類型

まず初めに、流行語になるような主なハラスメントについて時系列順で紹介します。
日本で初めて登場したハラスメントは、性的な言動により労働者に不利益を与えたり、就業環境を害する「セクシャル・ハラスメント」です。1989年に起きた日本で初めてのセクハラを争点とした裁判が世間の注目を集め、その年の新語・流行語大賞の新語部門で金賞を受賞しました。今から30年以上昔と考えると驚きですよね。

次に登場したのは「パワー・ハラスメント」です。2001年に、メンタルヘルスの研修・コンサルティングを事業とする株式会社クレオ・シー・キューブで代表取締役だった岡田康子さんが生みだしました。業務上での行き過ぎた指導、ストレスをかける行為を「権力(パワー)」に基づくハラスメントとして名付けたといいます。セクハラと異なり、こちらは和製英語です。 

その次が、妊娠・出産に関連した処遇の悪化を指す「マタニティ・ハラスメント」です。2014年に最高裁が「妊娠後の降格は男女雇用機会均等法に反する」と判決を下したことが話題となり、同年の新語・流行語大賞のトップテンにランクインしました。その後、男女雇用機会均等法は2016年に改正され、事業主に対するマタハラの防止措置義務が明文化されます。

最後が2018年の新語・流行語大賞にノミネートされた「時短ハラスメント」、通称ジタハラです。同年に働き方改革関連法が制定され企業が長時間労働の改善を叫ぶ一方で、そもそもの業務量は変わらないというダブルスタンダードの結果生まれたハラスメントです。何の措置も講じぬまま、「残業を減らせ!」と言われても難しいですよね。

加えて、上記ほど有名ではありませんが職場で起こり得るハラスメントの類型を挙げておきます。

  • リモートハラスメント コロナ禍で増えたテレワークに関連するもので、画面に映った社員のプライベートな部分を指摘したり、オンライン上で過度な監視をすることなど。非言語コミュニケーションが十分に取れないがために、距離感がうまくつかめず結果的にハラスメントとなるケースが多いです。

  • リストラハラスメント 整理解雇の対象となった社員に対して、自主退職させるため窓際部署へ追いやったり嫌がらせ行為をすることなど。日本の労働法は解雇規制が強いため、あくまで自主的に退職するという形を取らせたいという会社側の思惑が原因となって起こるハラスメントです。終身雇用の制度を持つ日本特有のハラスメントの類型ですね。

  • オワハラ 「就活終われハラスメント」の略 就職活動の場において、企業が就活生に対して内々定後に他社の選考を終えるように圧をかけたり、長期的に拘束して実質的に就職活動の継続を不可能にすることなど。これも日本特有の新卒一括採用の弊害ともいえるハラスメントの類型です。筆者は大学生なので、憲法が定める職業選択の自由を無視した悪質なハラスメントだなと殊更に思ってしまいます。

〇ハラスメントに関する法律

仕事の場でのハラスメントが周知されるにつれ、法整備が進められました。2022年現在で施行されている法律のうち、明確に対応していると考えられるのは、パワハラ・セクハラ・マタハラです。法律では、ハラスメントがどのように定義されているのかと防止のためにはどのようなことをしなければならないのかが定められています。

パワハラ 根拠:労働施策総合推進法 30条の2

パワハラの防止は労働施策総合推進法で規定されています。施行時期は、大企業には2020年6月から、中小企業には2022年4月からと比較的新しい法律です。この法律によると、パワーハラスメントとは

「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要 かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」であり、事業主にはそうならないように「 当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」としています。加えて、「労働者が前項(パワハラ)の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」とも定めています。

簡単に言うと
経営者は、仕事の場での力関係を背景にした言動かつ、それが業務上相当と言えるレベルを明らかに超えたものによって、社員の就業環境が悪化しないように必要な対策をしなければいけませんよ。また、そういったパワハラに関する相談の中で事実を述べた社員に対して、事実を述べたことを理由としたマイナスな処分を下してはなりませんよ。
ということです。

パワハラの要件として押さえておくことは以下の三点です。
①加害者が被害者に対して行う言動は、仕事の場での権力に基づいていること(上司→部下だけでなく、部下が集まって上司に集団で圧力をかける行為なども当てはまります。)
②加害者の言動が明らかに業務上必要ではない、または度を越したものであること
③被害者の能力の発揮に大きな影響を与えるほど就業環境が害されるもの(この判断は平均的な労働者が支障を生じたと感じるかどうかが基準になります。)
①~③のすべてを満たすことでパワハラと認められます。
逆にいえば、「遅刻が常習犯になっている人にちょっと強く注意をする」だとか、客観的にみて業務上必要で適正な業務指示や指導についてはパワハラにはなりません。ここの線引きが個別の事例によって変わる点が難しいところであり、裁判での争点となりがちです。

セクハラ 根拠:男女雇用機会均等法 11条

セクハラの防止は男女雇用機会均等法で規定されています。当初は、女性保護を目的とした法律でしたが、現在では女性だけでなく、男性に対するセクハラや同性によるセクハラも認めています。この法律によると、

セクシュアルハラスメントとは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」であり、事業主にはそうならないように「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じること」を求めています。また、パワハラの時と同様に「労働者が前項(セクハラ)の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」ことも定められています。
一方で、異なる点として第三項に「事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置(セクハラ防止策)の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない」との一文があります。会社内部だけでなく、顧客を始めとする取引先との関係の中でも起こり得るハラスメントの類型だということがわかりますね。 

これらをまとめて簡単に言うと
経営者は、仕事の場での性的な言動によって社員の就業環境が悪化したり、労働条件で不利益を受けることの無いように対策しなければいけませんよ。他の経営者からそのことについて必要な協力を求められた場合も応じてください。また、そういったセクハラに関する相談の中で事実を述べた社員に対して、事実を述べたことを理由としたマイナスな処分を下してはなりませんよ。
ということです。 

セクハラの要件として押さえておくことは以下の三点です。
①「職場」で、従業員が望まない性的な言動をすること(この職場は広い場所を指していて、出張先や接待の場も対象に含まれます。)
②性的な言動に対して拒否、抵抗することによって、減給や降格、解雇などの不利益をうけること
③性的な言動が原因で、従業員の能力発揮に大きな影響を与えるほど就業環境が悪くなること。
このうち①+②か③のどちらに当てはまればセクハラにあたります。例えば、上司の性的な発言を注意した結果、意図的に望まぬ異動をさせられた場合は①と②に該当していると判断できます(他人に対する発言を注意した結果報復を受けてもセクハラの対象になります)。①と③でセクハラと認定される例だと、従業員に対して性的な噂を流したり、アダルトなポスターが貼ってあったりして仕事に集中ができないといったものが該当します。そして、パワハラと同じように会社側はセクハラに対しても防止措置を講じる必要があります。

マタハラ 根拠:男女雇用機会均等法 9条3項、 育児・介護休業法 10条

マタハラは男女雇用機会均等法と育児・介護休業法で規定されています。これらの法律によると、
マタハラは「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者 が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者の就業環境が害されること」と「労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすること」と定義されていることが分かります。 そして事業主には、労働者に対してそういった不利益取り扱いをしないことを求めています。
 
簡単に言うと
経営者は、社員の妊娠・出産・その他関連したことを理由に解雇や不利益となるようなことをしてはいけませんよ。育児休業の場合も同様です。
ということです。
男女雇用機会均等法でいうマタハラは、妊娠・出産した女性に対して、妊娠・出産したことに関する理不尽な言動の結果、女性労働者が本来の能力を出せなくなるほど労働環境が悪くなったものを指します。
一方で、育児・介護休業法でいうマタハラは、育児・介護休業をしたorしようとした人(女性だけでなく男性も含まれます)に対した理不尽な言動の結果、その労働者の就労環境が悪くなったものを指します。
注意点として、安全配慮や業務分担の観点から、必要な言動によるものであればハラスメントにはあたりません。

罰則

上に挙げた法律に違反した企業は、厚生労働大臣によって必要があると認められた場合に助言、指導または勧告を受けます。そして、規定違反への勧告に従わなければ「この企業は○○ハラをしました」と企業名と共に公表される可能性があります。(マタハラの場合はそれに加えて20万円以下の過料が課されることもある)
有名企業や上場企業は、名前に傷がついて企業価値が下がるのを嫌がるので効果が大きい罰則に思えます。逆に中小零細企業に対する効果には疑問の残るような気がしますね。

必要な防止措置

3つのハラスメントそれぞれに必要な防止措置があると数が膨大そうで大変ですが、これらの法律は改正されたタイミングが同じなので、用意しなければならない措置はほぼ共通していて、①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発②相談や苦情に応じ、適切に対応するための整備③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応④併せて講ずべき措置の4つに分けられます。それでは、1つずつみていきましょう。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
ハラスメントとはなにか、ハラスメントをしてはいけないことを行動マニュアルなどの社内ルールにすること。そしてハラスメントが発覚した場合には、懲戒処分があるという内容を就業規則で定めて周知することが義務付けられています。会社によっては、啓発のためのパンフレットなどを作成するケースもあります。

②相談や苦情に応じ、適切に対応するための整備
相談窓口を設けて、労働者が利用できるように周知をすること。働く人が利用しやすいように面談だけでなく、メールや匿名での相談ツールなど様々な方法で労働者の声を汲み取れる仕組みづくりをすることが必要です。

③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントの事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。被害が大きくなる前に相談があったらすぐに調査を行うこと、事実関係が確認できたら問題を軽く考えず、被害者と加害者に対して適切な処置を施すこと。そしてハラスメントが再発しないような対策を講じることが義務付けられています。

④併せて講ずべき措置
当然のことですが、当事者のプライバシーは保護されなければいけません。また、相談に協力したことを理由に不利益な取り扱いをされないことを周知することも義務付けられています

〇おわりに

今回の記事では、「ハラスメント概論」と題して歴史・類型・法律を紹介しました。
ポイントとしては、、、
①日本では1900年代後半からハラスメントという言葉が普及し始め、女性の社会進出や働き方改革が本格化するとともに様々な類型が発現するようになった。
1989年セクハラ、2001年パワハラ、2014年マタハラ、2018年ジタハラなど

②法律が対応していると明確に判断できるのは、パワハラ・セクハラ・マタハラの3類型である。これらの法律は、事業主に責任を持たせ、メインの罰則は企業名の公表である。
パワハラ:労働施策総合推進法
セクハラ:男女雇用機会均等法
マタハラ:男女雇用機会均等法、育児・介護休業法

③事業主に求められる必要な防止措置は4種類ある。
 1.事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
 2.相談や苦情に応じ、適切に対応するための整備
 3.職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
 4.併せて講ずべき措置
以上、ハラスメントについての基礎的な内容はしっかり押さえられたかと思います。2回目以降のノートでは個別のハラスメントについて、具体的な判例や体験談を取り上げ詳しくかつ分かりやすく説明します。読者の方が気になるハラスメントの防止・対処法もご紹介するので是非ご覧ください!
ここまで読んでくださってありがとうございました!

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