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細マッチョはつくれる!カロリーが筋肥大の舵をとる

▼ 文献情報 と 抄録和訳

エネルギー不足はレジスタンストレーニングによる除脂肪体重の増加を阻害するが、筋力は阻害しない。メタアナリシスとメタ回帰の結果

Murphy, Chaise, and Karsten Koehler. "Energy deficiency impairs resistance training gains in lean mass but not strength: A meta‐analysis and meta‐regression." Scandinavian journal of medicine & science in sports 32.1 (2022): 125-137.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 短期的なエネルギー不足は、同化ホルモンと筋タンパク質合成を損なう。しかし、長期のエネルギー不足がレジスタンストレーニング(RT)の成果に及ぼす影響については未解明である。そこで、PubMedとSportDiscusを対象に、3週間以上のエネルギー不足(RT+ED)でRTを行うランダム化比較試験についてシステマティックレビューを実施した。

[方法] まず、文献をエネルギー不足を伴わない並行対照群を持つ研究(RT+CON;解析A)とRT+CONを持たない研究(解析B)に分けた。解析Aは、RT+EDとRT+CONの除脂肪量(LM)と筋力の増加を比較するメタ分析から構成された。解析Bの研究は、参加者と介入の特徴について別のRT+CONの研究とマッチさせ、RT+EDとRT+CONの間のLMと筋力のゲインを定性的に比較した。最後に、解析Aと解析Bをプールして、エネルギー不足の大きさとLMの関係を調べるメタ回帰を行った。

[結果] 解析Aでは、RT+EDとRT+CONではLMの獲得が損なわれていたが(効果量(ES)=-0.57、p=0.02)、筋力の獲得は条件間で同等であった(ES = -0.31, p = 0.28)。解析Bは、RT+ED(ES:-0.11、p=0.03)対RT+CON(ES:0.20、p<0.001)においてLMの障害を支持したが、強度(RT+ED ES:0.84; RT+CON ES:0.81) には影響を与えなかった

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✅ 図. 除脂肪体重(A)および筋力(B)への影響に関する分析Aのフォレストプロット。正の効果はエネルギー不足でのレジスタンストレーニングに有利であり、負の効果はエネルギー不足なしでのレジスタンストレーニングに有利である。

最後に、メタ回帰により、500kcal-day-1程度のエネルギー不足がLMの増加を阻害することが示された。また、減量中にLMを維持するためにRTを行う人は、500kcal-day-1を超えるエネルギー不足を避ける必要がある

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✅ 図. 推定エネルギー不足量と除脂肪体重の変化との関係。回帰線の両側の斜線部分は、回帰の95%信頼区間を表す。

[結論] 今回の分析結果は、エネルギー不足の状態が、RTの結果としてLMゲインを損なうことを示した。さらに、LMゲインの障害は、エネルギー不足の深刻さに応じて変化することがわかった。しかし、エネルギー不足の状態でRTを実施しても、筋力の向上は損なわれなかった。このような関係の枠組みが確立されたことで、エネルギー不足の有無によるRTのギャップを克服するための代替RTプロトコルや食事戦略に、研究の焦点が当てられるようになった

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

「筋力トレーニングにおいて、筋肥大をどのようにコントロールしますか?」
この問いに対して、ほとんどすべての理学療法士は『強度と回数によって』と答えるだろう。
これが、筋肥大に対するひとつ目の舵だ。
概ね、以下のようなイメージになる(>>> site)。

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今回のメタアナリシスは、言われれば当たり前の話なのだが「食わなきゃ筋肥大しない」を明らかにした。
だが、今回の研究の重要ポイントは、実はここではない。

最初に述べたように、ほとんどのリハセラピストは「カロリー制限」の提案をしないと思う。特に高齢者を対象としている病院セラピストにおいては禁忌的なニュアンスすらある。
それは、以下2つの理由があるからだ。

①効果が出ない:筋の同化に必要なエネルギーがない状態では肥大はおろか筋力向上も望めないだろう
②安全性の問題:エネルギー不足で負荷をかければ異化状態となり、むしろ危険

ここに、今回の研究結果の凄みがある。
「食わなくても筋力はつく」を明らかにしたことが、この研究の偉大だ。
問題の一部が、このメタアナリシスによって保証されたわけだ。
さらに、具体的なカロリー制限の目安「-500kcal/day」まで示してくれている。

もちろん、課題は残っている。
それは「安全性の問題」である。
今後は、さまざまな年代を対象として、筋力以外の尺度からも安全性の検証が進められるべきだろう。
だが、それにしても「カロリー制限」という、新たな舵。魅力的だ。
負荷量と回数という二次元プロットから、三次元プロットへ。
筋トレデザインの可能性が、また一つ拡大した。

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