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脳卒中後疲労の病態。一次運動野における半球間抑制効果のアンバランス

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中における主観的疲労を説明する神経有効接続性

Ondobaka, Sasha, et al. "Neural effective connectivity explains subjective fatigue in stroke." Brain 145.1 (2022): 285-294.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

📗 ミニレビュー:脳卒中後疲労(post stroke fatigue:PSF)について
- 数十年にわたり、疲労は脳卒中後のうつ病の症状であると考えられていた。しかし、うつ病でない患者が頻繁に疲労を訴えるという事実から、「脳卒中後疲労」(PSF)を特定の症候群として検討するようになった(📕Ingles, 1999 >>> doi.)
- PSFは女性や高齢者に多く見られる傾向がある。PSFと情緒障害(うつ病や不安症など)との間には強い関連がある。PSFは注意障害(主に処理速度の低下)と関連している可能性がある(📕 Ponchel, 2015 >>> doi.)
- 評価尺度として、Fatigue Severity Scale (FSS)やMental Fatigue Scale (MFS)などが報告されている(📕Norlander, 2021 >>> doi.)


[背景・目的] 持続的な疲労は、脳卒中を含む多くの精神・神経疾患における主要な衰弱症状である。脳卒中後の疲労は、皮質運動興奮性の低下と関連があるとされている。しかし、運動皮質の興奮性と慢性的な疲労の持続の根底にある神経細胞のメカニズムについては、依然として不明である。

[方法] この横断的観察研究では、安静時MRIと単パルスおよびペアパルス経頭蓋磁気刺激を用いて、運動障害および認知障害の少ない非うつ病の脳卒中患者59名を対象に2つの実験を行った。
■ 実験1では、一次運動野(M1)に経頭蓋磁気刺激を与え、脳卒中の影響を受けた手の運動誘発電位を測定することにより、皮質興奮性の典型的な指標である安静時運動閾値を評価した。2回目には、安静時MRIで脳活動を測定し、安静時の有効な結合性相互作用を評価した。
■ 実験2では、対パルス経頭蓋磁気刺激を用いて、独立した患者サンプルで有効な半球間結合を調べた。また、異なる条件下で広く適用され検証されている自己報告式の質問紙である疲労度評価尺度(FSS-7)を用いて、非運動による持続的疲労のレベルを評価した。実験1ではスペクトル動的因果モデリング、実験2ではペアパルス経頭蓋磁気刺激を用いて、神経細胞の有効結合度と脳卒中後の自己申告疲労との関係を明らかにした。
重回帰分析では、M1における相同領域間の抑制性結合のバランスを主要予測因子とし、病変半球、安静時運動閾値、うつ病のレベルを追加予測因子として含めた。

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✅ 図1. 神経結合計算モデルのアーキテクチャ。NeuroSynthツールから選択した11の脳領域[腹内側前頭前皮質(vmPFC)、左右前島、補足運動野(SMA)、左右尾状頭、左右一次運動野(M1)、左右視床、後部帯状皮質(PCC)]。

[結果] 我々の新規指標である半球間抑制バランスは、実験1(β = 1.524, P = 7.56 × 10-5, 信頼区間: 0.921~2.127) と実験2(β = 0.541, P = 0.049, 信頼区間: 0.002~1.080 )で脳卒中後の疲労を有意に予測する因子であることがわかった。実験2では、うつ病スコアと主観的疲労に関連する指標である皮質脊髄興奮性も、疲労の変動を有意に説明した。

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✅ 図2. M1におけるRs-fMRI半球間抑制バランスと疲労度。図は、実験1におけるIIB指標(左→右-右→左の影響)と自己申告の疲労度スコアの関係を示したものである。

[結論] 一次運動野の半球間抑制効果のバランスが脳卒中後の主観的疲労を説明できることが示唆された。この知見は、持続的な疲労の根底にある神経機構に新たな洞察を与えるものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「痛いんです。痛くて動けないんです」
患者がこのように訴えたとき、直感的にどう思うだろうか。
(えっ!それは大変。原因を評価して、介入しなければ・・・)
そう思うセラピストが大半ではないかと思う。

では、次の場合はどうだろうか。
「眠いんです。眠くて動けないんです」
(怠惰です。精神的に、甘えてますね。)
直感的に、このような文字がハイライトメッセージとして頭に流れる。

症状に対するセラピストの認識が、この違いを生んでいる。
前者の疼痛は、「病態に起因する」と認識しているから、臨床思考モードにスムーズに入れる。
後者の眠気は、「精神状態や意志力に起因する」と認識しやすいから、臨床思考モードというより、叱責モードに入りやすい。

では、次の場合はどうだろう。
「疲れるんです。疲れて動けないんです」
どちらかといえば、眠気と類似した処理過程、叱責モードになると思う。
だが、こと脳卒中者の疲労は、『しっかり病態に起因する』ことをOndobakaらは明らかにした。
その病態とは、一次運動野(M1)の半球間抑制のアンバランス。
このことをしっかりと胸に刻もう。
次に、脳卒中患者が疲労を訴えたとき、
(えっ!それは大変。原因を評価して、介入しなければ・・・)と思えるように。

リハビリテーション介入の視点から。
・運動によって損傷側のM1を活性化できれば、主観的疲労を軽減できるのだろうか?
・もしくは、TMS(Transcranial Magnetic Stimulation)とかで刺激する?
今後の研究を待ちたい。いや、やりたい❗️

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