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☆40 謝憐と君吾

 裴茗と謝憐が顔を合わせ、お互い「ご高名はかねがね」と言い合う。裴茗の高名は「女たらし」で、謝憐の高名は「ガラクタ仙人」である。どちらも酷い。
 裴茗は、半月観[はんげつかん]の件にまだ決着はついていない、と裴宿の分身体の空殻[あきがら]を召喚し、更に南陽[ナンヤン]将軍(風信[フォンシン])と玄真[シュエンジェン]将軍(慕情[ムーチン])を呼んでこれを検分させ、証言を取る。半月関の一件に花城[ホワチョン]が関わっていると言いたいようだ。

 この時口を挟んでくるのが、何やら見覚えのある払子を振る神官で、謝憐はこれが誰なのかまだわかっていない。後に裴茗が彼に呼びかけて「青玄[チンシュエン]」と。観る側にもまだ彼の正体は伏せられている。
 裴茗が「半月国師も突き出して、もう一度審理を受けさせる」と言ったところで、裴宿が「将軍。もういいんです。惑わしではありません。この私です。失望させました」と言い出す。「私も往生際は悪くない。捕まった以上、処分は受け入れます」と続けるが、このタイミングで口を挟んできたことを思うと、むしろ半月[バンユエ]を守ろうとしての行動のように私には感じられる。
 裴茗は蹴ってこれを黙らせようとするが、君吾が「もうよい。半月関の件はこれにて決着。裴宿は追って流刑とせよ」と告げ、皆は散会する。

 君吾は謝憐を神武殿の奥へと誘う。道中語られるのは、謝憐が二度目の貶謫を受けた時の出来事で、「謝憐が君吾を刺した」と言っているが、双方表情は穏やかで遺恨のある気配もない。何らかの事情によるいずれも納得の上での出来事だった、との様子が窺える。
 「八百年前下界に追放した際、連絡を取るよう命じたが、そなたはすぐに消息を断ち、下界でひたすら面倒を抱え込んだ」と君吾は言う。謝憐の方は迷惑をかけたくないとの思いだったのだろう。そして君吾はそんな謝憐の様子を陰からそっと見ていた感じだ。君吾は今も昔も謝憐の後ろ盾であり、謝憐の君吾に対する信頼と、君吾の謝憐に対する気遣いが見える。

 着いたところは君吾の執務室だろうか。大きな壁画があり、所々が輝いている。日本語版原作小説(以下、原作と略す)によると、それは「万里の山河を描いた地図」で、その地図上には「明るく光る真珠が無数に埋め込まれて」おり、「これらはすべて人界における神武殿がある場所を示す印」であるらしい。人界の至るところに神武殿はあるようだ。

 花城との出会いを「何をやらかした」と君吾は訊き、「面白い坊やに偶然出会っただけです」と謝憐は答える。誰が聞いても納得しないだろう弁明を君吾は信じ、「だかこの任務を、そなたに託してよいものか」と少し迷った様子で抱えている案件について話し始める。

「七日前、ある山奥で天に向かって火柱が噴き上がったが、大勢が目撃したのに死傷者は一人もいなかった」「火龍嘯天[かりょうしょうてん]の術。激しく巨大な炎ですが人は傷つけない、救援の信号」
 火龍嘯天の術は、原作によると「炎の勢いが非常に猛烈なため、人を傷つけないよう姿のみの炎を作り出す際、必然的にその神官の法力の一部を爆発させてしまう。うかうかしていると法力がすべて爆発してそのまま命を落とす可能性があるため、やむを得ない事情がない限り誰もこの術を使って助けを求めたりしないはずなのだ。」となっている。

 上天庭の神官が追い詰められて救援を求めた。しかし該当者がまだ見つかっていない。神官の隠されている場所は鬼界の鬼市[おにいち]ではないかと思われる。誰かが密かに潜入して調査する必要があるが、そこは花城の縄張りだ、と。
 花城の持つ奇怪な妖の刀『湾刀厄命[わんとうオーミン]』は特に用心すべきで、「あのような邪物は、両手を血みどろに染め、生贄を捧げなければ作り出せない、生来の呪われた武器だ。触れたり傷をつけられたりしたら、どんな災いを招くか」と君吾は言う。
 しかし謝憐は任務を引き受けることに決め、半月関で既に顔見知りとなった風師[フォンシー]と行動を共にすることになった。

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