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リンクスランドをめぐる冒険Vol.27 忘れ得ぬワンショット(前編) ホープマン・ゴルフ・クラブ

2023年6月22日から2023年7月23日まで。
約1ヶ月間、スコットランドのゴルフコースをめぐる1人旅を敢行。
これだけを考えるとゴルフ好きなら誰もが
「羨ましい!」と思いつくままを言葉にする。
実際、私だって行く前はほぼ、楽しいことしか頭の中になかった。
しかし、いざ行ってみると悪戦苦闘と至福の時の繰り返し。
振り返ればジェットコースターのような1ヶ月間。
これはそこで見たこと、感じたことの備忘録です。

海を1年中、窓から眺められる幸せ

Narin(ネアン)に着いて2日目、選んだゴルフコースはHopeman Golf Club(ホープマン・ゴルフ・クラブ)。
場所は宿から40kmほどの距離にあるホープマン(Hopeman)という町の東端。
ホープマン、日本語に訳そうとすると、どうしてもHope manになってしまう。
希望男。
うん、なかなか面白いじゃないか。
ちなみに私が学生時代、(先輩に強要されて)最初に吸ったタバコはショートホープだった。
俺だって、ホープマンなのだ。(孤独のグルメ井之頭五郎さんモノローグ風)。

海沿いだからリンクスだろうし、料金が平日£60(ハイシーズン)と比較的安かったし、ネーミングの妙もあってここに決めた。
予約のためにざっと公式HPを見たけれどリンクスという以外、コースにそれほど興味が湧かなかったのはマフリハニッシュの強いインパクトが残っていたせいかもしれない。

けれど、私はここで生涯、忘れ得ぬショットと出逢うことになる。

午前9時、宿を出てA96を東に進み、B1093を北上すると、ほどなくして海が見えた。
このまま直進すればBurghead(バーグヘッド)という見晴らしの良い観光地へ行くのだが、本当にこの旅では観光に興味がなかったので(今、思うと寄り道する時間は十分にあった)右折してB9040をまた東に進む。

左側、眼下に打ち寄せる波が見えた。
入江とはいえ北海だ。かなり波が荒い。この時はまだ晴天で海の色も青く、白波とのコントラストが鮮やかだった。
ホープマンの町はこじんまりとしていたが、典型的な住宅街らしく静かで清潔な雰囲気だ。
とくに海側は古くからの家が立ち並んでいるようで、スコットランド特有の石造りで堅牢な家が続き、その合間にモダンデザインの新しい家が建っていた。
街中なので制限速度は約30km/h。
道幅が狭いので他の車とすれ違う時は譲り合う。
この頃になると、譲り合った時に軽く挨拶する私の仕草もすっかりスコットランダーに染まっていた。
と言っても、ハンドルに手を乗せたまま、笑顔でスッと人差し指と中指を揃えて立てるだけだけれどね。

私はこの町の雰囲気が一遍で好きになった。

私が住む町だって海が遠いわけではない。
けれど、その海は船底をコンクリートで固め、ずっと鎖で繋がれている古い客船がシンボルだったり、シルエットがアフリカのキリンを思わせる巨大なクレーンが連なる港だったり、たとえ真夏の強烈な日差しが頭上にあっても、真っ青にならない海だ。

だからといって、こんな海でも嫌いなわけじゃない。


海側に家を建て、大きな窓から1年中、夏に輝く青さや強い風に逆巻く波や夕暮れの朱に染まる静かな海を眺めていたら、どれほど幸せな気分になれるだろう。
しかも、この町には東端(といったって車で10分も走れば町を抜けてしまう)にはゴルフコースがあるのだ。

9ホール回って感じたことは・・・


パブの前にはテラス席もある。ここに陣取ってスタートするプレーヤーの品定めをしたい。

ホープマン・ゴルフ・クラブの創立は1909年。
公式HPに歴史が載ってないので詳しくは分からないが、町の中央にStation Hotelがあるということは、他のゴルフクラブと同じように鉄道の発展が創立のきっかけになったのだろう。
全長はホワイトティーで5624ヤード、イエローティーで5368ヤード、Parはともに68。チャンピオンコースというわけではないが、ローカルコースとしては長い方だ。クラブハウスは比較的新しく、パブはスタートホールに面して大きな窓があった。
スタートホール前のパブはショータイムのアリーナ席だ。
メンバーが見つめる前で、緊張するプレーヤーを肴に一杯、というわけ。
幸い、私の前は男性4人組がスタートした直後で、パブにはまだ誰もいなかった。さすがに午前10時。パブでスコッチを飲むには早すぎる。
クラブハウスはパブ兼スターターハウス兼プロショップで、中に入って声をかけると、引き締まった体の中年男性が出てきた。
私の名前とクレジットの支払いを確認すると、スタート時間まで30分ほど余裕があったが「前の4人組のあと、すぐスタートできるよ?」と言ってくれたので、私は待つ間もなくスタートの準備ができた。

フロント9は南側の内陸部。
コースは固い砂丘だが起伏はほとんどなく、ハザードとなるのはいくつかのホールを横切っている小川だけ。
ホール間のセパレートは低いハリエニシダとスコットランドらしい石積みの塀で、575ヤードと長いドッグレッグのPar5はあるものの、大きく曲げなければ比較的易しくスコアメイクできる。
面白いのは各ホールごとに地元の企業や店舗がスポンサーになっていること。
スポンサーフィーがいくらなのか知らないが微々たるものだろう。
それでも広告幕をホールごとに設置しているのを見ると、ローカルコースが地元と密着していることがよく分かる。

各ホールにこのような地元企業の広告幕がある

これはこのコースに限ったことではなく、他のローカルコースでもよく見かける光景。ただし、ここまで大胆な広告幕も珍しい。
ホールの脇に設置された広告幕を見てたら、日本のお祭りで協賛する企業や個人の名前が入った提灯を思い出した。
日本のコースでは絶対に見られない景色だ。

この日、曇天になって風がほとんど吹いていなかったせいもあっただろう。
フロント9に限ってはパーとバーディの数がボギーを上回った。

けっして悪いコースではない。
グリーンはきちんと整備されているし、Par3はそこそこ距離があるし、ホール幅は広いのでボールを失う心配も少ない。
もし、私がホープマンの住人だったら、わが町のホームコースと自慢してメンバーと一緒にパブの窓からスタートする仲間を冷やかしているかもしれない。
毎日、ここへ来ることができれば変化を楽しめるし愛着も持てるだろう。

しかし、私は異邦人だ。

目標物がなく、海沿いで、だだっ広く、天然芝。
確かにリンクスコースではあるけれど、内陸部はとくに景観がきれい、というわけでもなく特徴が感じられない。
フェアウェイとラフは刈高を変えてメリハリをつけているが、いかんせんフラットなのでどのホールも同じに見えてくる。
リンクスコースとしては、物足りなさを感じた。

一期一会でインパクトがなければ、記憶に深く刻まれることはない。

フロント9を終えた時、ここのコースは1回プレーすれば十分かな、と思った。

…この時、は。

雨が…降り始めた。

続く








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