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リンクスランドをめぐる冒険Vol.19 孤高のゴルフコース、マフリハニッシュ Part.3

2023年6月22日から2023年7月23日まで。
約1ヶ月間、スコットランドのゴルフコースをめぐる1人旅を敢行。
これだけを考えるとゴルフ好きなら誰もが
「羨ましい!」と思いつくままを言葉にする。
実際、私だって行く前はほぼ、楽しいことしか頭の中になかった。
しかし、いざ行ってみると悪戦苦闘と至福の時の繰り返し。
振り返ればジェットコースターのような1ヶ月間。
これはそこで見たこと、感じたことの備忘録です。

悪夢の2番ホール

2番ホールのことはよく覚えている。
Par4、377ヤード。ホール名はmachrihanish。
スコアインデックスこそ7と平均的ではあるが、このホールがマフリハニッシュの
本当の姿の入り口とでも言わんばかりのネーミング…。

小さく見える白い橋の左側が2番グリーン


ティーイングエリアに立つとフェアウェイが広く見える。グリーンは少しばかり盛り上がった丘の上。
さほど難しくない、と感じた。
ティーショットは思ったより距離が伸びていた。これなら2オンが狙える。
そう思って2打目地点まで行った時、とても違和感を覚えた。
グリーンがまったく見えない。
遠目で小高い丘、と感じていた部分は切り立った崖のようだ。
高さは約4〜5m。
日本の、いや、世界中のパークランドコースで目線より上にあるブラインドのグリーンは大抵、なだらかな傾斜がある。
しかし、2番ホールのグリーンはほぼ直角の傾斜の上、手前は壁に等しい。
これが設計された上で作られた形状だったとしたら、設計者のゴルフに対する良識を疑うほどの不寛容で不格好だ。
しかも手前には川が横切っており、壁と川の間にわずかなフラットなスペースがあるだけ。
たとえ、このわずかなスペースに落としてもウェッジで高く上げる技術がなければグリーンに乗らない。
グリーン手前は壁に向かって傾斜しているから、わずかでもグリーンに届かなければボールは壁の真下に落ち、さらに打ち上げが難しくなる。
私のボールが壁から転げ落ちてきて、ほぼ壁にくっつきそうなところに止まった時はどうやって打てばいいのか、しばし呆然とした。
幸い、ロブショットは得意だったのでちょっと強めの高いショットでなんとか壁の上までボールを運ぶことができた。

…グリーンにボールは見当たらなかった。
急勾配の坂道を電動トロリーと一緒に登り切ってグリーンを見た時、私は大きく失望した。
自分ではかなり満足できるロブショットだった。
しかしボールはグリーンどころか、その周りにもない。
グリーンの形状を見ると右ラフ方向に大きく傾いている。
もし、私のボールが傾斜に当たったとしたらダイレクトにラフまで行っているだろう。
くるぶしまで隠れるほど深く、しかも芝が絡まったラフだ。
落下地点が見えないところから打ってラフに入ったとしたら、ほぼ見つからない。
ここで早くもロストボール。
私は2番ホールで9打を費やした…。

色彩が失われた世界の中で


続く3番ホールは361ヤードのPar4。
グリーンまではほぼ一直線。
これだけを見れば、さほど難しいとは思えない。
しかしフェウェイは砂丘独特のコブがいたるところにあり、アップダウンもある。
加えて海からの横風と頬を打つ雨。
私のティーショットは大きく流され、ラフからの2打目を余儀なくされた。
もちろんパーなんぞ取れるわけがない。
なんとかボギーで収めることができたのはボールが運よく転がってくれたせいだ。4番は121ヤードと短いPar3。

大地のうねりを感じさせる荒々しい砂丘。


日本のコースであればバーディ必須のホールだろう。
しかし、ティーイングエリアに立って息を呑む。
高低差がフラットなので平面のグリーンは縦幅がほとんど見えない。
しかもグリーンまでは深いラフとコブが埋め尽くしている。
荒波に浮かぶ小舟に向かって打つ気分になった。
ショットはグリーンを外したものの、なんとか短いアプローチで済む場所に落ち、そこから寄せて2パットのボギー。
マフリハニッシュのアウトコースで覚えているのはここまで。
ここから先の記憶は断片的だ。

空間処理能力を惑わすリンクスの風景


なにしろ目標物がまったくない。
どのホールもコブと深いラフ。
天然のフェスキュー芝を刈っただけのフェアウェイ。
アップダウンを繰り返す大地。
ボールは固い砂丘に跳ね返され、予測不可能な方向に転がる。
それから雨と風。
乏しい陽光と鉛色の空のせいで景色が色彩を失いかけていた。
濡れて冷えた身体は思考能力を低下させ、筋肉を萎縮させる。
今、何番ホールなのか?
次は何打目?
グリーンはどこだ?
初めてのホールのはずなのに、すでに通ったような感覚。

私は迷路に深く、囚われた。

続く





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