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「『私』という男の生涯」(石原慎太郎)

 危機深まる日本のいまを思い、石原慎太郎が亡くなった後を誰か埋めることができるのだろうか、との憂慮が湧いてならない。危機において、国内はもとより海外へ向けての発信能力を十全に持った政治家の貧弱を思い、まさに憂慮に堪えない。

 しかし、死後の公開を企図した自叙伝が出版され、ベストセラーになるというのもまた、石原慎太郎をして欣快だろうと思う。読了して、まあ、その値打ちのある一冊かとは思った。

 しかし、この男は本当にやりたいことをやりつくした稀有な才能を持つ仕合せな男だったんだなあ、という嫉妬を越えての爽やかな思いが湧く。これだけのことをやったのだから奥様であった典子さんは後を追うように亡くなったが、苦労は尽きなかったに違いない。いろいろなことがこれからも漏れ伝わってくるのだろうが、それを予期して石原慎太郎自身が暴露した部分はあるにせよ、おそらく死してなおこれからも毀誉が尽きない男なのだろうと思う。

 しかし、一面でそういう男ででもなければ、文学あるいは政治の世界で意味ある生涯をおくることもできなかったかもしれない。

 「太陽の季節」以来60年余、時代の寵児であり続けた稀有な男だが、この男によって日本はどれほど元気になっただろうか、といっても良いくらいと男冥利の人生だったのではないか、という感じがする。

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