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水滴の傘は開くか 第1回 [春休み自由研究企画]


 COVID-19の影響で、小中高は早めの春休みですね。しかも外出自粛です(感染リスクが高いところですけどね)そんな時には断然「自由研究」です。

 夏休みに自由研究があるのは、それだけまとまった期間を、ひとつのテーマに費やせるからでしょう。今年は期せずして長い春休みです。各社さんが外出せずに楽しめるメディアをたくさん用意してくれています。インプットも大事ですが、折角ですので自由研究しちゃいましょう。

 私は大人なので、春休みは本来関係ないのですけど、とにかく先陣を切って自由研究することにしたのです。その様子をまとめてみます

注)このまとめは「こうやったら上手くいくよ」ではありません「とにかくやってみた記録」なので、間違いや回り道が多いです。

■水滴の傘とは

 私の自由研究のテーマは「水滴の傘」です。うん。言葉だけだと何のことかわからないですね。見れば一発で解ります。SNSで仲良くしてくれている写真家さんを紹介します。水滴界の巨匠です。

 すごいでしょ!「こんな写真初めてみた!」と言う方も多いと思います。ジャンルとしては、Liquid Art になるのかな。小さな世界で、もしかしたらキッチンの流し台で起きているかもしれない現象を捉えて Art にまで昇華させるって、とても素敵な試みです。

 他にも「ワイングラスの上に水滴の傘が!」や「スプーンの上にも!」「花の水滴の中に世界が写ってる」などなど、すばらしい写真がいっぱいあるので、ぜひぜひリンクに飛んで見てくださいね。

 ご覧いただいて分かる通り、水滴の傘とは、水面に落とした水滴が跳ね返った瞬間に、次の水滴に当たって傘のように開く一瞬を捉えた写真なのです。

※私の失敗作は「みんなのフォトギャラリー」に公開しますが、上記リンクの写真に関しては無断使用禁止ですよ。【ダメ!ぜったい】

■材料の準備(第1回 ご家庭にあるものVer.)

 「水滴の跳ね返りに次の水滴を当てる。」言葉で書くと簡単そうですが、やってみると「ものすごーーーーーく」難しいです。でも、ゴールが視覚的に明確なだけ、研究のしがいもあるというものです。

 自由研究の【第1回】として、まずは家にあるもので工夫して、撮影環境を作ってみました。材料は下記です。どこのご家庭にもあるもの、若しくは100均で入手可能なものばかりです。

・水を張るためのトレイ(おせんべいの空き缶のフタを使用)

・コピー用紙2枚(下地用と背景用、A4をセロテープで止めました)

・100均の注射器

・100wの電球3つ+電気スタンド

これだけです。

■撮影機材

 これに関しては、「どこのご家庭にもある」というわけにはいかないですね。でも、マニュアルフォーカスと連射が出来るカメラなら基本的には可能です。デジタル一眼レフであれば、どんな機種でも絶対できます。

 iPhoneのスローモーションビデオを使って、ミルククラウンを撮っている方もいるので、スマートフォンにも、また違ったアプローチがあるかもしれません。

 今回、私が使った機材は CANON EOS 5D MarkⅡというカメラと、EF-50/1.4という単焦点レンズです。あと、ケーブルレリーズを使いました。

 本来は、マクロレンズが欲しいところですが、普段私は、風景や建築の写真を撮ることが多いので、広角よりのレンズしか持っていません。

 焦点距離で言うと、20mm、35mm、50mm。この先が一気に135mmまで飛んでしまいます。

 水滴の跳ね返りは、サイズとしては小さい世界の出来事です。出来れば大きく撮りたいので、レンズの選択は下記の兼ね合いで決まります。

・最短撮影距離が小さいレンズ(寄れるレンズ)

・撮影倍率が高いレンズ(大きく撮れるレンズ)

 マクロレンズは、この2つを兼ね備えた「寄れて大きく撮れる」レンズなんですね(持ってないですけど)また、寄れればいいかと言うとそれもまた微妙で、あんまり寄るとレンズに水しぶきがかかっちゃう。

 また、レンズの焦点距離が長いほうが、圧縮効果が期待できるので、背景処理が楽です。広角レンズは広く撮れる分だけ背景も広範囲が写っちゃうんですね。その分だけ、撮影セットが大掛かりになります。

 今回、焦点距離が50mmのレンズを選んだ理由は、上記を勘案して、持っているレンズの中から使えそうなものを選んだに過ぎません。ちなみに135mmレンズは最短撮影距離が1.3mもあるので、ケーブルレリーズの長さが足りませんでした。

 いろいろと書きましたが、ズームレンズを持っている人は、悩む必要はあんまりないかもしれません。

■撮影環境づくり

 先ずは水面です。今回は「おせんべいの缶の蓋」を使いました。最初は白い小皿で試したのですが、連続して水滴を落とすと、小皿の縁に反射した波が返って来てしまって、安定した水面が出来なかったんですね。

 次に背景です。今回はA4のコピー用紙を2枚セロファンテープでつなげて、おせんべいの蓋に敷きながら、緩やかに背景になるように持ち上げてみました。沈めた紙が浮いてきちゃうので、磁石で固定します。これはおせんべいの蓋ならではの、思いがけないメリットでした。

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 そして、水滴落下システムの心臓部(?)である100均注射器の固定です。アルコールストーブの燃料補給用に買った注射器が、こんなところで役に立つとは! 落下の高さも手探りなので、今回はギタースタンドに注射器を固定してみました。注射器に入る水の量は限られているので、水の補給を考えて、固定は輪ゴム2本です。

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 ライティングも重要です。なにしろ一瞬の出来事ですから、シャッタースピードを上げる必要があります。そうすると、センサーに届く光の量を確保するために「もっと光を!」という事になります。明るいレンズ(f値が小さいレンズ)を使えば光量は確保できますが、なかなかそうも行きませんでした。(これについては撮影編で書きます)

 ライティングについては、ストロボ(今はスピードライトと呼ぶのかな)があれば、もう少しスマートに違うアプローチが出来たかもしれません。残念ながら私はストロボを持っていません。(風景や建築写真では、あまり出番がないのです)

 これは後になって気付いたのですが、太陽の光って、実はすごく明るいのです。よく晴れた昼間に、庭やベランダで撮れば、ライティング装備自体が縮小化される可能性もあります。(影によって撮影位置を変える必要はありそうですが)

 実際の撮影環境はこんな感じです。蹴飛ばしたり水こぼしたり、手作り感満載のやれやれな感じです。

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※撮影環境はさっさと片付けてしまったので、後日、水を入れずに再現しています(夜撮ったので暗くなっちゃった)

■じゃあ撮ってみよう[撮影編]

 今回は三脚にカメラを逆さ吊りにしています。私のカメラは、レンズとセンサーの間にミラーがあって、ファインダーに像を送る仕組みになっています。旧来のフィルムカメラと同じ方式ですね。シャッターを切った瞬間にミラーが上がって、センサーに光が届く仕組みです。ミラーが物理的に動くので「ミラーショック」という振動が生まれます。

 些細な振動ですが、なにしろ手探りなので、排除できる要素は対策したほうがいいだろうという判断です。また、私のカメラは背面液晶が動かないタイプなので、床に寝そべってファインダーを覗いて、構図やピントを確認しています。

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 最近のカメラはミラーレスの機種が増えています。液晶もバリアングルで自由自在です。センサーサイズにこだわらず、レンズも新しい設計のほうがきっといいはずです。でも私はファインダーの実像が好きなんです。2眼レフのフォーカシングスクリーンに映し出される風景なんてそりゃもう(ハァハァ)

 話がそれました。

 水滴にピントを合わせるためには、オートフォーカスでは間に合いません(少なくとも私の持っている古い設計のレンズでは無理です)あらかじめピントが合う位置をマニュアルフォーカスで決めておいて、そこに水滴を落とすのが現実的です。いわゆる置きピンですね。

 しかし、水滴は落としてみるまで実態がありません。そこで、ピントガイドとして、クリップ+画鋲で目標を作ることにしました。水面に立てた画鋲の先端に水滴が落ちるように、注射器の位置を調整→画鋲の先端にピントが合うようにカメラの位置を調整→画鋲を外す。これで、水滴にピントが合うはずです。

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 さて、撮ってみます。注射器のピストンに震える手で力を加えて、水滴の間隔も微妙に変化させながら、ケーブルレリーズで連射です。注射器1本分で300枚くらいでしょうか。画像をMacに取り込んでみると。。。全滅です。

 1本目では、レンズの絞りを開放にしていました(f=1.4ですね)絞り値を小さくすると、被写界深度(ピントが合っている範囲)が狭くなります。この傾向は、被写体との距離が近いほど大きくなります。震える手で注射器を操作した結果、注射器の針先がズレたようです(何しろ輪ゴム2本ですから)跳ねた水滴にピントが合っているのに、足元がボケている場合もありました。

 この時に気付いたのが、画像の保存形式はJPEGの方が良いという点です。普段は現像を前提としてRAWで撮っていましたが、データサイズが大きくなって、連射した際にバッファがすぐにいっぱいになります。Macへの転送にも、それだけ時間がかかります。レタッチしない前提で、JPEGの方が扱いやすいのです。

 気を取り直して注射器に水を入れ、2本目にトライします。今度は絞りを2段(f=2.8)絞りました。これで多少ズレても被写界深度の中に納まるはずです。画鋲をおいて、外して、注射器の針が動かないように息を止めて。。。連射です!

 これを、注射器の高さを変えながら、3セットくらい繰り返しました。ギタースタンドなので、ネジ1本で高さは変えられます。そして結果は。。。

■結果発表

 Macに取り込んだデータを、Lightroomというソフトで片っ端からレーティングします。というか、使えそうな画像をなんとか見つけ出して、それ以外を片っ端から消していく作業です。取り込んでは消す作業を繰り返したので、合計何枚撮ったか判りません。ファイル番号から類推すると、2,000枚は超えていると思います。

 では、自由研究【1回目】の結果はこちら

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残念ながら傘は開きませんでした

 そう簡単に成功するとは、当然思っていなかったのですが、傘の「か」の字の気配もないかー。残念。

 でも、解ったことが幾つかあります。研究とは実験の結果を記録し、そこから仮説を立て、次の実験に繋げていく地道な作業です。近代科学はこうして発展していったのです!(と、自分を奮い立たせます)

 ちなみに、Lightroom上でのレタッチは、切抜き(角度調整を含む)と、ホワイトバランス、コントラストを少しいじっています。なにしろ、ライティングが、部屋のLED照明、100wの白熱電球、飛び入り参加のデスクスタンドと、色温度がバラバラな光源なので、ホワイトバランスが迷走しています。自然な水の色(?)に近づけました。

■今後の課題

 失敗写真をみると、水面からの跳ね返りが、次の水滴と繋がっているように見えます。水滴の位置エネルギーと速度(つまり落下させる高さ)は明確な課題です。

 水の粘性についても、テーマとして考えられます。水道水でも、いわゆるミルククラウンが撮れる事が確認できたので(今回は趣旨が違うのでボツにしました)あまり、粘性を上げる方向は意味がないかもしれません。界面活性剤による表面張力は、思わぬ結果が出そうなので試してみたいです。

 ここで、心を落ち着けて、冒頭に紹介した写真家さんのtweetを見ると。。。で。。。「電磁弁」。。。

 道は私が想像していたよりも、遥かに険しくて遠いのかもしれません。

■おわりに

 今回は「傘が開く」ところまでは及びませんでしたが、いろいろ条件を変えて、結果を想像しながら試してみるのは楽しい体験でした。今後は、微妙にパワーアップしながら【第2回】へ続けようと思います。

 これを読んでくれている皆さんは、小中高は少なくて、どちらかというと親御さんの世代が多いかもしれません。小学校の運動会用に買って、たまの旅行のときにしか登場しないカメラって、皆さん持っているのではないでしょうか。

 カメラって、思っていた以上にいろんな事に使えます。もしかしたら、お父さんのカメラをお子さんに渡したら、すごい作品を撮ってくるかもしれませんよ。

それでは、【第2回】をお楽しみに!

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