見出し画像

介護保険物語 第10回 その3

どうも!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

大変な好評をいただいている「介護保険物語」第10回。
大変なボリュームとなりましたので、今回は5回に分けて発信してまいります。

今回は「その3」です。早速まいりましょう!

<令和3年改正の概要>
①「感染症や災害への対応力強化」
②「地域包括ケアシステムの推進」
③「自立支援・重度化防止の取組の推進」
④「介護人材の確保・介護現場の革新」
⑤「制度の安定性・持続可能性の確保」

令和3年度介護報酬改定の主な事項について

3自立支援・重度化防止の取組の推進

科学的根拠のある介護を目指して


藤田 これはどうでしょうか?

森藤 そうですね。これは制度の目的に沿って、質の評価やデータ活用を行ないながら、科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進するという主旨のものでして、それが次の3項目にまとめられています。

❶リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組の連携・強化
❷介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進
❸寝たきり防止等、重度化防止の取組の推進

そもそも今までの介護は、それぞれの施設でそれぞれの介護士たちによるそれぞれの気づきでやられてきた、という側面がありますよね。

でもこれからは、あっちの施設こっちの施設、介護をバラバラにやってたらまずいだろう、ということです。

そうじゃなくて、各施設にデータを出させて、そこそこの方針を出していきたい。それがITの進化で可能になりつつあるという背景もあります。

昔わたしが勤めていた施設でも実はタブレットの導入をしてたんですよ。

藤田 え?そんな昔にですか?

森藤 ええ。厚さ2センチぐらいのやつ(笑)。そこは今のうちと同じで企画室とかあって。わりと先進的な考えをもってましたね。

でもダメでした(笑)。今と違ってWiFiとかもなかったし。職員のITへの意識というか慣れも今とは全然違うし。それが今はできるようになってきたわけで。

藤田 なるほど。そういうネット環境の整備というか、IT関係のインフラ的なものが普及してきたという背景があっての今回の「科学的介護の推進」なわけですね。

科学的介護と聞くと思い出す

森藤 ええ。ですからこれらの中でも画期的と言えるのは、②の中で創設された「LIFEシステム」の導入だと思います。これはネット環境がないと参加するのは難しいでしょ。

そうやって科学的根拠に根付いた介護をしようということなんですが、でもこれにはわたし疑問があるんです。

特に「科学的介護」と聞くと、老施協が推し進めていたいわゆる「竹内理論」、1500ccの水を毎日飲むと認知症の症状がなくなるというやつ、あれを思い出しちゃうんですよ。

これを老施協が大推薦して日本全国に喧伝したわけです。

でも毎日1500ccなんてわたしでも飲めませんよ。それを無理矢理飲まされる方の身にもなってくださいよ。地獄のようなものです。

あれは病院の治療の過程で見いだされた知見であって、だから医療的観点からは根拠があるんです。だけど日常生活にそれをもってこられても苦しいだけなんです。

「科学的根拠=バイタルデータ等の数値」ではなく

森藤 それにわたしが思うに、ここで求められているようなバイタルデータの提出とかではなく、もっと介護における事例とか経験談とかを出して、それを集積していくことで何かを見出すことの方が大事なのではと思います。

藤田 事例集ですか。なるほど。それも面白い意見ですねえ。わたしもTwitterで囁かれている介護関係者の呟きを分析したら面白そうだなあとは思ってます。

NHKでも時折やってるじゃないですか?膨大なデータをAIで読み解くってやつ。

森藤 ええ、ええ。ですからここは様子見ですね。3年後どうなっているか。ますます発展しているのか、それともなくなっているのか。

LIFEの推進で気になること~昔の介護に逆戻りしかねない

森藤 それとね。このLIFEの推進でもうひとつわたしが気になることがあるんですよ。

藤田 はあ。なんでしょう?

森藤 これまでの介護の在り方を振り返ってみると、特に特養に限って言えば、措置時代の介護は集団処遇と言われるものでして、施設で決められた日程、スケジュールなどに基づいて、入所者個々人の要介護状態などをあまり考慮せず、とにかく施設のペースで全員一律に集団的な処遇を行なっていたわけです。

たとえば、食事は広い食堂で100人近い入所者が一斉に食事を摂り、数少ない介護職員達が3人、4人の入所者を掛け持ちで食事介助をしながら時間内に食事を終わらせる。

また、入浴時間になると風呂場の前に入浴の順番を待つ車椅子の入所者が何人も列をつくって待機させられていて、まるでベルトコンベアーに乗せられているかのような様子で身体を洗い部屋に帰っていく。

そこでは、お風呂というのは身体を洗うところであって、「お湯につかってゆっくりくつろぐ」などという時間をもつ場所ではない、というのが当たり前のように考えられていたわけですね。

また、各居室は4人~6人程度の相部屋で各入所者が本当にプライベートな場所を確保できる場所は自分のベッドの上の空間だけ、というような状態が当たり前だった。

しかし、こういった中にあっても、入所者個人の状態を考慮した個別処遇の大切さに気付き、それを追求しようとする介護職員や施設が現れて、それがやがてはユニットケアという新しい施設ケアのシステムへと発展して、今日に続いているわけじゃないですか。

すなわち介護は集団処遇から個別処遇へと進化することで個人の尊厳の実現を果たそうとしてきたわけです。それが今日までの流れなんです。

そんな背景の中で今回のLIFEシステムを見てみると、全国の要介護者のデータを収集しそれを基に介護の方法を企画一律化する。これ、なんか昔の集団処遇を彷彿とさせるような気がしませんか?

介護職員たちが、LIFEシステムで提示された作業のみを機械的にやっていればいいや、などと思うようにならなければよいがと願うばかりです。

藤田 なるほど。そう言われればまったくそうだという気がしてきましたよ。

国は介護の状況を数値で把握しようとしている

森藤 まあ今後どうなるかはともかく、今回のこうした動きは、国が介護の状況を把握したいという思いの現れじゃないかと思ってます。

うちにも役所の人がよく来られますが、調査と称して数字を集めていくわけです。だって彼らにとっては数字以外見ようがない

集めた数字から統計出して、施設の介護はこうだ、デイの介護はこうだ、と理解しようとしているわけです。

藤田 はああ。でもそんなに介護の状況というか、介護を知りたければ役人さん直接現場に入ってみられればいいんじゃないんですか?

森藤 いえいえ。とんでもない。彼らは絶対現場には来ませんよ。ありえません。

彼らは数字で把握できると思ってるわけです。間違いですけど。

他の事業だと数字である程度見えてくるんだと思います。でもね。例えば何かが100売れているという数字があるとしましょう。でもその100がどんな風に売れたのか、それは数字には出てませんからね。ひょっとしてその数字を出すためになにかを強引にやって出したのかもしれないし、自然にやってて100売れたのかもしれませんし、それは数字には出ないわけです。

でもともかく100売れたという数字は出る。するとその100という数字を元に次の計画かなにかを考えるわけでしょ。介護の世界もそんな風にやっていけると思ってるわけです。

藤田 でも彼らはなぜ介護の現場というか介護のことを知ろうとするんでしょう?

森藤 それはもう、次の改正のネタを得たいからですよ。

藤田 でも介護の状況は、例えば老施連とか各種団体からの陳情である程度わかるんじゃないんですか?

森藤 いやいや。彼らだって、人の陳情だけじゃだめだ、それは部分に過ぎないということはわかってるんです。

だって考えてみてくださいよ。行政に陳情に行けるような団体の代表者って、おそらくその団体の理事長とか施設長とかでしょ?そういった人たちが介護の現場を知ってます?どのくらい現場のことを把握してるんです?おそらく現場のことはちんぷんかんぷんなんだと思いますよ。

行政の人たちもそれを知ってるんですよ。

藤田 そうかあ。そりゃそうかもしれませんね。

でもまあデータからわかるのはあくまで平均でしかないでしょうけどね。

<広島弁まとめ>

自立支援・重度化防止の推進」ゆうんは「介護」を「科学的根拠」に基づいてやろうやあ、いうことなんよ。だいたいが今までの「介護」はそれぞれの施設でそれぞれの介護士らがそれぞれの気づきでやりよったいうとこがあるじゃろ?じゃけえそんなんやめようやあいうこと。じゃあどうすりゃあええんかゆうたら、全国からデータ集めて、それを分析してそれを「科学的根拠」ゆうことにしようやゆうことなんじゃけど、そういうことができるようになったんは、ITが普及してきたけえじゃあ思うんよ。じゃけどわしが思うにはそういう数値のデータじゃあのうて、いわゆる事例報告を集めてそれを分析する方がよっぽとええ思うんじゃがのう。まあお役人にゃあ事例より数字の方が馴染みがええんじゃろうて。なんべんも言うけど、わしゃあ介護いうんは数字じゃあ把握できん思うけどね。平均やら偏差やらじゃあ、介護はできりゃあせんよのう。

以下はまた次回!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?