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介護保険物語 第9回 その1

毎度!
社会福祉法人サンシャイン企画室の藤田です。

今回もやってまいりました、「介護保険物語」。
もう少しで終わるんじゃないの?の第9回です。
今回も熱め熱めの多め多めできておりますので、なんと3回に分けてご紹介します!

では第9回のその1,さあ、まいりましょう!

本日のメニュー

○H27改正・新しい総合事業創設
○H30改正・共生型サービス
○H30改正・介護医療院の創設

藤田 それでは今日もよろしくお願いします。

森藤部長(以下敬称略) よろしくお願いします。

藤田 森藤部長よりいただいた今日のお題は「H27改正・新しい総合事業創設」「H30改正・共生型サービス」「H30改正・介護医療院の創設」ということで、これはまたどれもこれも調べてみると面白い論点だらけだなあと感じました。

ではまず「H27改正・新しい総合事業創設」からお願いしたいと思います。

新しい総合事業とは?

藤田 でもその前に(笑)、「新しい総合事業ってなんなの?」ということをまとめてみました。

<新しい総合事業とは>
【立ち位置】
2006(平成18)年に創設された「地域支援事業」の一部として2015(平成27)年度改正で創設された4つのサービスのうちのひとつ。正式名称は「介護予防・日常生活支援総合事業」。
【内容】
要支援1~2の人を対象とした予防給付のうち、通所介護、訪問介護を一般介護予防事業(「地域支援事業」として実施すべき事業のひとつ)と統合した。つまり、国が行う介護保険制度の中から、要支援者に対する通所介護と訪問介護だけを、市町村が実施する地域支援事業の中に入れてしまったということ。さらに、市町村の裁量で人員基準や報酬を変更できるようにして、住民やボランティアなど多様な主体が参加できるような仕組みも設置したのだが、そうした部分の利用は(訪問型サービスで言うと)全体の12.5%に留まり、残りの87.5%は制度改正前から実施されている介護予防給付がこの「新しい総合事業」に名称変更されただけに過ぎない。

ということで、イメージとしては要支援の人の訪問介護と通所介護が、それまでの「介護予防訪問介護」や「介護予防通所介護」から「総合事業」という名前に変わっただけ、という感じですが?

森藤 この「総合事業」というのは、介護保険制度創設の当時のメニューにあったものではなくて、介護保険制度を運用していくうちに、財政逼迫という状況(介護保険予算:2000年は3.6兆円なのに2020年は12.4兆円)が生まれ、それでもこの制度を存続させるためには、要介護者を減らせばいいという考えが出てきて、ならばそのために「予防」しようということになり、そうしてできたのが2006(平成18)年度改正の「地域支援事業」であり、それに続く2015(平成27)年度改正のこの「総合事業」なわけです。

そもそも、介護保険が何のために創設されたかということを考えたとき、一番大きい理由は要介護状態にある老人のお世話が家族の大きな負担になり、これを何とかできないだろうかということで、老人の介護を家族だけに負担させるのではなく、社会全体で見ていこうということでしたよね。

なのに財政が困ってきたから「予防」に力を入れることにした。

藤田 ふんふん。

森藤 だけど、介護予防という事業を展開するにしてもそれなりに費用はかかるわけですし、実際そういう費用をかけて介護予防という効果がどの程度のものなのか、つまり費用対効果が果たして介護保険で予算を投入するほどの意味のあるものになるのか?

その検証もしてないのに、どんどんどんどん「予防」の網だけを大きくしていって、とうとう介護保険で抱えきれなくなって、これを地方に全部お任せにして、「総合事業」という名前でひとくくりにしてしまおう、としたわけです。

藤田 ふんふん。

総合事業創設の面白い効果

森藤 でもそうした中でひとつ面白い効果があるんじゃないかと思っていまして。

藤田 ふんふん!

森藤 地方自治体がこれに力を入れようと思うと、すごい力を入れることができる。でもうちはやめとこうという自治体はあまり力を入れない。

そうするとね。この総合事業をすごく活発にやってる自治体となんとなく廃れていってしまう自治体とにだんだん分かれていくんですね。

するとそこで各自治体ごとの要介護に進んでいく人の割合がどのくらいなのかを比べることができるわけです。そうしたことをすることで「総合事業」の効果を検証できるのではないかなと思うわけです。

そうしたこと、つまり自治体によって「差」が出るようなことは、これを国が一括してやっていてはわからないんですよ。

自治体に投げてみて初めてわかることなわけで。それを意図して厚労省が投げたのかどうかはわかりませんが、これからそうした「差」が出てくるんじゃないかなと考えています。

藤田 なるほど。この「総合事業」が創設されたのが2015年で、今は21年ですから、あれから6年ぐらい経っているわけで、そうするとそうした自治体による「差」が出てくる頃でしょうか?

森藤 それはわかりませんが、大事なのはそうした検証をやる気があるのかないのか、ということでしょう。

藤田 ふんふん。面白い論点ですね(笑)。

介護予防に力を入れるのは問題の先送り?

森藤 それともうひとつ。

誰だってやがては老いていき、介護予防で今現在は多少元気になったとしても、いつかは介護の必要な状態になることにはあまり違いはないのではないかと思うんですね。それとも介護予防を行なうと、「ピンピンコロリ」で亡くなる人が多くなるとでもいうのでしょうか?そんなことはないと思うんだけど、だとすれば介護予防に取り組んだところで、それは問題を先送りしているだけではないのか、なんてつい思ってしまいますよ。

藤田 あそうか。そりゃそうですよね。なるほど。

森藤 そうした流れの中で「地域包括ケアシステム」っていう考えが出てくるわけですが、そのときついついイメージとして介護予防や自立支援が強調され、そのシステムで介護予防が進んで人々の自立度が進み介護保険費用の負担が軽くなる(つまり要介護の人が少なくなる)というようなことを期待しがちなんですが、介護保険本来の役割というのは、たとえ重度の要介護状態になったとしても、住み慣れた地域でスムーズに介護措置が進められ、そのことで要介護者のみならず介護を提供する家族などの負担もずっと軽くなる、ということだったはずで、それを忘れてはいけないと思いますよ。

総合事業の問題点

藤田 あそうか。そりゃそうですよね。なんだかわたしも、厚労省の手品だか催眠術だかにかかっちゃってる気がしてきました(笑)。

でもあれですね。総合事業の財源はどうなってるかというと、予算額は平成30年のもので2392億円ほどで。

その構成比は通常の介護保険とまったく同じなわけですよね(下図参照)。

総合事業の財源構成


これに関してニッセイ基礎研究所の三原岳(たかし)さんが次のようにおっしゃってます。

「保険料を事業に充当する以上、保険料を支払っている被保険者に対して、『予防事業を通じて保険給付が減れば、保険料が抑えられるため、被保険者にも受益が行き渡る』と説明せざるを得なくなります」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65426?pno=2&site=nli

でも森藤部長はこの「予防事業を通じて保険給付が減れば」のところ、介護予防をすれば本当に保険給付が減るの?その検証はどうやってするの?ということを先に問題にしておられました。

三原さんによると総合事業の問題点はこの「保険料の転用」に加えて、地域住民を巻き込むことつまり「住民の善意を金銭で評価する」ということ、それともうひとつ「局所的な話で全体を動かそうとしいる」ことを挙げておられます。

最後の「局所的な話で~」というのは、「財政規模で見ると、介護保険の財政規模は2018年度ベースで約10兆円(自己負担を含む)ですが、総合事業を含めた枠組みである「介護予防・生活支援サービス事業費」が約3,000億円、「通いの場」の財源となる一般介護予防事業は約300億円に過ぎず、全体に占めるシェアは非常に僅か(三原さん談)」にもかかわらず、森藤部長のおっしゃるように、平成18年以降、介護保険全体の改正が「介護予防」の方向に大きくかじを切っているように見えるということです。

森藤 そういうことです。でも本当は、まず介護度の重い方をケアできる体制を十分に作って、それから介護度の軽い方のケアを考えるようにすれば、介護度の軽い方にまでケアが到達しなくてもそれはそれで介護保険制度の目的は果たされていると言って良いのではないでしょうか。

本当に困ってる順にお金をかければいいんだけど、全員を救いましょうと風呂敷を広げ過ぎているのではありませんか。

ついこの間もあったでしょう?老老介護していたご夫婦で、ご主人が奥さんを殺しちゃったということが。つまりそうした人を救えないわけでしょう?今の状態では。

藤田 いっそ要介護3以上しか介護保険の対象にしないっていうことにした方がわかりやすいですよね。

森藤 それはそうすればわかりやすいでしょうが、今さら急な方向転換は難しいでしょうね。

藤田 先の三原岳さんのテキストにも

厚生労働省幹部OBは「要支援者への給付をやめますと言えばそれで済む。(略)それをストレートに言えない役所の辛さというべきか」と皮肉っており、介護予防による給付抑制を目指す方策として地域支援事業が多用されていると言える。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64141?pno=4&site=nli

とありますね。

森藤 じつは「予防」っていうのは昔(介護保険が始まる前)からあったんですよ。

藤田 医療の方ではちょっと前から「予防」の大切さが声高に叫ばれていますよね。

森藤 ただね、医療の場合はいいんですよ。予防して病気にならなかったら本当にならないんですからね。でも介護の場合は予防してその時はよくてもいつかは必ず要介護状態になるんですから(笑)。

藤田 ホントだ(笑)。

森藤 それに軽度の人を対象にし始めたから、そこにいろんな業者がかかわってきて介護保険の費用を使っている。重度は対応が難しい面があるからどんな業者でも簡単に係るっていう具合にはいかないんですよね。

まとめると(笑)。総合事業はやっぱりその「費用対効果」をはっきりさせないと、価値が判断できないということになると思いますよ。

藤田 まとめていただき、ありがとうございます(笑)。


収録日:2021年6月25日(金)

ということで今回は以上です。
あと2回続きますので、そわそわしながら待っていてください!



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