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「ペップのアーセナル対策」20-21 PL 第5節 マンチェスター・シティ×アーセナル レビュー

インターナショナルマッチウィークを挟んで、およそ2週間ぶりのプレミアリーグ再開はいきなりのビッグマッチ。対戦相手は、ここまでプレミアリーグ3戦を1勝1分1敗と、スタートで躓いた印象のマンチェスター・シティ。エティハド・スタジアムでのアウェイ戦となる。

主力の怪我もありチームの再編が必要なグアルディオラに対し、昨シーズンから徐々にチーム戦術を積み上げてきたことで上り調子な印象のアルテタ。2人の師弟対決にも注目の集まるゲームだった。

■ チーム概要

【HOME】
・マンチェスター・シティ(監督:ペップ・グアルディオラ)
フォーメーション:3-5-2 → 4-4-2の可変
【AWAY】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-3-3 → 5-4-1の可変

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アーセナルはここ数試合と同様、4バックと3バックの可変が可能なスターティングメンバーを選出。デッドラインデーぎりぎりに獲得した待望の新戦力「トーマス・パーティ」は残念ながらサブメンバーに。また、スターティングメンバーの予定だったホールディングは、試合直前のウォーミングアップ時にハムストリングを痛めたとのことで急遽ダビド・ルイスへ変更。その結果サブメンバーも一人少なく6名でスタートするかたちとなった。

対するマンチェスター・シティは、長期離脱中だったエースストライカーのアグエロがこのタイミングで復帰。いきなりスターティングメンバーに選ばれた。反対にチームの核とも言える大黒柱のデ・ブライネは、インターナショナルマッチでの負傷により離脱。このゲームではメンバー外となった。

上の画像では、アーセナルが4-3-3、マンチェスターシティが3-5-2のフォーメーションで表記しているものの、互いに攻守でフォーメーションを臨機応変に可変する見ごたえのあるゲームとなった。

■ 前半①:ペップのアーセナル対策

アーセナルは前線3枚の並びをいつもと異なる形で配置。右がペペ、左にオーバメヤン、そして真ん中にゼロトップのような形でウィリアンが入る。が、正直なところ、このウィリアンのゼロトップの狙いは自分には見えなかった。ラカゼットとの違いという意味では、ウィリアンの方が比較的ドリブルで前に運べるということが考えられるので、それが狙いかもしれない。ただ、あまりそういったシーンは見られなかった。(ボール保持の時間があまりに短かったからかもしれないが)

アーセナルのビルドアップは主に左から。時折ジャカまたはセバージョスがセンターバックの間に落ちてビルドアップをサポート。左ハーフレーンのマガリャンイスから前へ展開する狙いが多く見られた。中盤や前線に楔のパスを当てて、そこからサカやティアニーに前向きでボールを持たせて運ぶ。また、カウンターやロングボールからオーバメヤンにスピード勝負させるような狙いも多く見られた形だった。

これに対し、ペップはアーセナル対策の守備戦術を用意してきたようだ。

アーセナル陣地でのフォアチェックは4人。スターリング、アグエロの2トップに加えて、フォーデン、マフレズもフォアチェックに加わる。フォーメーションを数字で表すなら3-3-4のような形。GKへのプレッシングは弱めで、どちらかというとボールを奪い取るというよりはアーセナルに対して前へボールを運ばせない。4人のファーストディフェンスラインを突破させない。といった守備。アーセナル得意の疑似カウンターをさせない狙いに見えた。

ペップの狙いをしっかりと高いレベルで実行できるのがシティの強みの一つ。フォアチェックで縦へのパスコースをうまく消しながら各選手が連携しつつプレッシングを実行。アーセナルに思うようなビルドアップをさせず、アーセナル陣地の深い位置でゲームを進める。

思うようにボールを前進させられないアーセナルは、陣地を回復したい狙いからロングボールを狙う。前にボールを収められる選手がいないアーセナルが狙う場所は一つ。オーバメヤンだ。ただ、これもペップからすると狙い通り。オーバメヤンにはスピードと強さに定評のあるウォーカーがぴったりとマンマーク。オーバメヤンに仕事をさせなかった。

アーセナルは、少ないながらも何度かサカやティアニーが高い位置まで攻め込むことが出来たが、ペップはそこでもしっかりと対応。主にカンセロがサカにマンマーク気味につく。さらに撤退守備時はそのカンセロを右サイドバックへ移動させ、4-4-2の形へ可変させていた。

■ 前半②:攻撃も可変するシティ

マンチェスター・シティのビルドアップは、ロドリがDFラインに落ちて4バックに可変。アーセナルの3トップに対して数的優位を作り出す意図だろう。ビルドアップの出口は、中盤へ積極的に降りてくるスターリングがメイン。そこからハーフレーンで仕事をするインサイドハーフのカンセロやB.シルバへ。最後はウイングのマフレズへ繋いで、ドリブルの質的優位で勝負する狙いが多かった。

また、左右でも少し役割は異なっていた印象。左のB.シルバ側で主にビルドアップを行い、右のカンセロ側は主にミドルサードからファイナルサードへ繋いでいく事が多いように見えた。

これに対し守備の時間が長くなっていたアーセナルは、自陣深くではサカをサイドバックに下げる5-4-1の陣形で守る。陣地を回復できた際にはフォアチェックから勝機を探る形。この試合、アーセナルは全体的にマンマークで対応していた。特に中盤のジャカはビルドアップのスタートとなるロドリを抑えるために強めのマンマークを行っていた。その分、フォアチェックの際にDFラインへ落ちるロドリに引っ張られることで中盤にスペースが出来てしまう。そのスペースにスターリングが降りてきて前線とのリンク役に。

23分の失点シーンでは、この中盤へ降りてきたスターリングにダビド・ルイスが、アグエロにはマガリャンイスがマンマークで付いていくもののボールを奪いきれず。そこからのパス回しで後手後手に回らされ、空いた中盤のスペースでアグエロに前を向かれる形からボールを運ばれて左サイドのフォーデンへ。フォーデンがワンタッチでうまくベジェリンをかわして放ったシュートはレノがセーブするも、こぼれ球をスターリングに押し込まれ先制点を許す。

前後左右、あらゆるところでポジションチェンジを行い、フォーメーションを可変させながら攻め込むマンチェスター・シティは見事だった。

失点直後はサカやティアニーの突破から何本か立て続けにシュートまでいき、勢いづくかと思われたアーセナル。しかし、ボールを保持したのはマンチェスター・シティ。アーセナルは撤退守備を強いられ、ボールを奪取してもすぐにまた自陣内でボールロストを繰り返し、前半終了まで自陣深い位置でのプレーが続いた。

■ 後半:決定機を作れないアーセナル

後半立ち上がりも基本的には前半と同じ試合展開。アーセナルがボール保持できる時間帯が増えたものの、頼みの綱であるオーバメヤンはウォーカーに封じられ決定的なシーンは作れず。マンチェスター・シティが主導権を握る展開は変わらない。

マンチェスター・シティは、65分にアグエロを下げてギュンドアンを投入。アグエロは復帰直後ということもあり、当初からこの時間までと決まっていたのだろう。ギュンドアンの投入は、中盤でのボール保持を増やす狙いに見えた。

65分にアーセナルはようやく良い形を作る。ディフェンスラインのビルドアップからサイドバックのベジェリンが内側へボールを運び、マークの基準をずらして逆サイドへ展開。そこから左右へ揺さぶりながら相手陣内へ。ウィリアン、セバージョス、ペペ、ベジェリンの4人でハーフスペースを使いながら打開を図る。最後はベジェリンからのペペへのパスが長くなってしまったことでフィニッシュまではいけなかったが、相手陣地へボールを運ぶきっかけとなったベジェリンの内側レーンへのドリブル、ハーフスペースでの狙いは良かった。

69分にラカゼット、83分にはエンケティアに加えて新加入のトーマスも投入して攻勢に出るが、試合は大きく動かず。そのままマンチェスター・シティが1点差を守りきりゲーム終了となった。

■ 試合結果

Manchester City 1 × 0 Arsenal

■ 得点
23分:スターリング
■ 交代
65分:アグエロ → ギュンドアン
69分:ウィリアン → ラカゼット
83分:ジャカ → トーマス
83分:ペペ → エンケティア
89分:フォーデン → フェルナンジーニョ

■ 試合ハイライト

■ 完成度の大きな差はこれから縮まるはず

得点差はわずか1。今まで感じてきたマンチェスター・シティとの圧倒的な差を考えれば、非常に善戦できた試合とも取れるが、個人的にはチームとしての完成度の差はまだまだ大きいと感じたゲームだった。

特に感じたのは守備の差。マンチェスター・シティは仕組み+個の強さで見事に完封。相手を深く押し込み、相手陣地でボールを奪い攻撃し続けることに成功していた。

対するアーセナルは、マガリャンイスを中心に最終ラインは守れたものの前線〜中盤でボールを奪えず主導権を握れないままゲームを終えることになってしまった。

ただ、この試合、アーセナルは果敢に中盤でのボール奪取は狙っていた。
”やらなかった”のではなく”出来なかった”。出来なければ、出来るようになるまで練習と実践を繰り返せば良い。やろうとしていることが明確に見えたことは良い点だった。

それを強く感じたのは、前半41分。
失点シーンと同じような展開で中盤の空いたスペースにスターリングが落ちてきた際にダビド・ルイスがついていき、ボールを奪いきった時があったが、ここではジャカからペペ、オーバメヤンとつないで最後はゴールキーパーと1対1の場面を作っていた。(結果的にはオフサイドと判定)

失点シーンとの違いはボールを奪い切るか否か。ここの精度を高めていけば、マンチェスター・シティとの大きな差はまだまだ縮めることができると感じたゲームだった。

■ あとがき

ペップがこの試合で用いた選手それぞれに託したタスクは、ほぼ間違いなくアーセナル対策だっただろうと思う。グーナーとしては悔しい結果となったが、とても見ごたえのある試合だった。次の師弟対決でアルテタがどのような策を講じるのか今から楽しみだ。

ここからしばらくは、ミッドウィークにELを戦い週末にプレミアリーグという日程が続く。過密日程なうえにプレミアリーグの対戦相手は、レスター、マンチェスター・ユナイテッド、さらに今シーズン未だ全勝を続けるアストン・ヴィラと厳しい日程だ。

今シーズンの良い流れを掴むためにも、この厳しい連戦で勝点を稼いでいきたいところである。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista