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「圧縮プレスに対する2つの答え」20-21 PL 第20節 サウサンプトン×アーセナル レビュー

プレミアリーグで前節快勝のアーセナルだったが、その後のFAカップで1-0の敗戦。その相手が今節戦う相手サウサンプトン。FAカップでは、アーセナルが負傷離脱の影響もありターンオーバーを採用。対するサウサンプトンはベストに近いメンバー選考での対戦となっていた。そのFAカップから中2日で同じ相手と戦う事になった今節。アーセナルとしてはリベンジを果たしたいところ。

そして、アーセナルもサウサンプトンもリーグテーブルは暫定で10位、11位と中位に留まっており、リーグ後半戦に向けて今節を勝利し上位進出への足がかりにしたいのは同じ。両チームともにCL出場権獲得を狙うためにも落とせない試合である。

プレミアリーグでの前回対戦時レビューはこちら↓

■ チーム概要

【HOME】
・サウサンプトン(監督:ハーゼンヒュットル)
フォーメーション:4-2-2-2
【AWAY】
・アーセナル(監督:ミケル・アルテタ)
フォーメーション:4-2-3-1

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互いに前回対戦時のFAカップからスタメンを数名変更。アーセナルは、ティア二ー、セバージョス、マリが怪我の影響で不在。オーバメヤンも個人的な家庭の事情でFAカップに続いて今節も欠場となった。ただ、FAカップでターンオーバーを採用したこともあり、今節はレギュラーメンバーに近い選手選考となった。

反対にサウサンプトンは、ウォーカー=ピータース、バートランド、ヴェスターゴーアなど数名のレギュラークラスの選手が負傷離脱。FAカップからターンオーバーせざるを得ない状況での選手選考となった。

■ 前半①:一進一退

試合開始早々、いきなりチャンスを迎えたのはアーセナル。サウサンプトンのビルドアップに対して前から積極的にパスコースを制限しながらプレッシング。上手くパスコースを制限出来たことで中盤への縦パスをジャカがカット。そこから一気にDFラインの裏へスルーパス。上手く抜け出しGKと1対1になったラカゼットだったが、シュートはGKに阻まれ先制点ならず。得点にはならなかったものの、アーセナルは試合に良い入り方が出来た。

しかし直後の3分。サウサンプトンがロングフィードからサイドを駆け上がり、アーリークロスからコーナーキックを獲得。これをあっさりと決め、サウサンプトンが先制。ペナルティアーク周辺に集まった選手がニアとファー二手に分かれて走り込みアーセナルのマークを引き付け、元々いた場所にスペースを空ける。そこへウォードプラウズの正確なキックを届けアームストロングのハーフボレーでゴール。ウォードプラウズの正確なキックを武器にしたきれいに設計されたセットプレーだった。

いきなりビハインドになったアーセナル。ただ、開始早々のチャンスから良い試合の入り方をした事もあり、その勢いを失うことはなかった。引き続き前線からパスコースを限定しながら全体的にラインを高く保ちプレッシング。

そして8分、再度縦パスを中盤でカット。その後トーマスからジャカへつないでショートカウンター。ジャカが前を向いたタイミングでぺぺが弧を描く動きでCBとSBの間、チャンネルのスペースへパスを呼び込むランニング。そこへジャカから絶妙のタイミングでパスが通り、ぺぺが相手を体で押さえ込みながらシュート。これが見事に決まりアーセナルが早い時間帯で同点に追いついた。ショートカウンターを生み出した前線の守備、そしてぺぺのシュートを打つスペースを空けつつ、一番良い体勢を作り、かつ相手DFから離れてパスを引き出す動きが見事だった。これでアーセナルが試合を振り出しに戻す。

◼ 前半②:とにかく前へ

サウサンプトンの攻撃時の狙いは、自陣深い位置でボールを保持しながらアーセナルの2CHを自陣へ引っ張り出し、CH-CB間のスペースを空けさせ、そこにFWが落ちるかSHが中央へ絞ってパスを引き出す。そこから縦に早く展開して攻め込む狙いが多く見られた。プレミアリーグでの前回対戦時と同じ狙いだ。また、ボール保持の際に左右のSHが異なる動きを見せていたのも特徴的だった。右サイドのウォルコットは前へスライドしてWG化。左サイドのアームストロングは中へ絞ってCH化。ファイナルサードでの仕事が得意なウォルコットは前に、中盤からの飛び出しやパスの供給が得意なアームストロングが中に入って、それぞれの特徴を生かした狙いが見られた。

それに対し、アーセナルは真っ向から挑む。サイドのサカ、ペペは外切りでサウサンプトンに中央への縦パスを狙わせる。そこを2枚のCH、ジャカとトーマスで刈り取る狙い。ジャカとトーマスの前にボールを誘導できればパスカットから一気にショートカウンター。逆にジャカ、トーマスの裏にボールが出されると一気にピンチを招く。このピッチ中央のスペースの奪い合いは非常に見ごたえがあった。

そして、ハーゼンヒュットル率いるサウサンプトンの大きな特徴と言えば、ボールサイドへ圧縮するプレッシングで相手から時間とスペースを奪ってボールを回収。そこから縦に早く展開するショートカウンター。この試合でもその基本的なゲームモデルは変わらない。トランジションの局面で強度の高いプレッシングを実行するサウサンプトン。

それに対してアーセナルが用意した答えは、とにかく縦に早い展開。プレッシングを無効化する狙いだろう。サウサンプトンの圧縮プレスを受ける前にワンタッチ、ツータッチで素早く前へボールを運ぶ。顕著に見られたのは、ジャカやラカゼットのワンタッチで前へ送るパス。圧縮プレスをかわすことができればチャンスに、反対に圧縮プレスに引っかかればピンチが訪れる。

一進一退の攻防が続く中、39分、アーセナルのゴールキック。大きく蹴ったボールのこぼれ球がジャカの足元へ。これをすかさず前線のラカゼットへワンタッチでパス。パスを受けたラカゼットもまたワンタッチで裏へ抜けたサカへパス。ゴールキックからわずかパス2本で一気にDFラインの裏へ抜けたアーセナル。サカは落ち着いてGKもかわし、右足で無人のゴールへボールを流し込みアーセナルが勝ち越し。縦に早く展開する意識が功を奏したゴールシーンだった。このゴールでアーセナルが逆転に成功。1-2で前半を折り返す。

■ 後半:横の展開で仕留める

1点をリードしたアーセナル。後半は少し全体的にラインを下げた印象。反対にサウサンプトンは1点を追う立場。前半よりもプレス強度を高くし、アーセナルへ襲いかかる。また、後半に入ってサウサンプトンの左SHアームストロングが役割を変え、より中央でプレー。ウォード=プラウズ、ディアロとアームストロングの3人を中央に配置したことでサウサンプトンがボールを保持する時間が長くなる。

ゲームを支配し始めたサウサンプトンは、66分に選手交代の采配。左SBのヴォーキンスを下げて左SHにレドモンドを投入。空いた左SBにはCHのディアロを移動。CHがウォード=プラウズ、アームストロングの2枚になる。ただ、中央の枚数が減ったことでサウサンプトンのボール保持も徐々に低下しはじめる。結果的にこれが悪手になったように見えた。

アーセナルは、負傷した感じのスミス=ロウを下げてウィリアンを投入。その直後の72分、ウィリアンが左サイドでボールを保持し、サウサンプトンの中盤3名を引きつけた後、後ろのセドリックへパス。セドリックは一気に逆サイドのサカへ対角のロングフィード。これがDFライン裏へ繋がり、サカはそのままワンタッチで中へ折り返し。最後は中央のラカゼットが押し込んでアーセナルが追加点。前半の縦に早い展開とは異なり、今度は横に大きく早い展開。縦横に異なる素早い展開で見事にサウサンプトンの圧縮プレスを打開した。

2点のリードを得たアーセナル。全体的にラインが下がり気味ではあるものの、ボール奪取が狙える場面では連動したプレッシングでサウサンプトンに自由を与えない。サウサンプトンはチームのアイデンティティであるハードなプレッシングも90分は持たず。徐々にプレス強度が下がり始め万事休す。

このままアーセナルが2点のリードを守りきり、1-3で試合終了。アーセナルが見事にFAカップのリベンジを果たした。

■ 試合結果

Southampton 1 × 3 Arsenal

■ 得点
3分:アームストロング(アシスト:ウォード=プラウズ)
8分:ペペ(アシスト:ジャカ)
39分:サカ(アシスト:ラカゼット)
72分:ラカゼット(アシスト:サカ)

■ 交代
66分:ヴォーキンス → レドモンド
72分:スミス=ロウ → ウィリアン
74分:ウォルコット → ワッツ
74分:イングス → ヌルンドゥル
78分:トーマス → エルネニー
90+2分:ペペ → ウィロック

■ 試合ハイライト

■ あとがき

サウサンプトンの圧縮プレスに対して2つの対策を用意したアーセナル。
1つ目は、ワンタッチパスでの縦に早い打開。
2つ目は、片側に寄せた後で一気に逆サイドへ展開するアイソレーション。

1つ目の縦に早い展開は、特にジャカ、ラカゼット辺りが執拗に狙っており、それに連動する形でサカが上手くボールを引き出していた。
また、2つ目のアイソレーションもトーマスの対角ロングフィードや、3点目につながったセドリックの逆サイドへの展開など、サウサンプトンを密集させておいて、その分大きく空いた広大なスペースを使う狙いが上手くはまっていた。

ボールに密集すればするほど、一つかわされてしまうとスライドやカバーが追いつかなくなる。ボールに対するプレス意識の高いサウサンプトンの特徴を逆手に取った見事な対策だった。

それを実現可能にしていた、
・前線のパスコースの制限~トーマスやジャカのポジショニング
・ラカゼットの精度の高いワンタッチパス
・ワンタッチパスを引き出すタイミングで走り出す連動した動き
など、各選手の献身的なプレーが良い結果につながったのは好材料。

上り調子のアーセナル。次節は中3日で迎えるマンチェスター・ユナイテッド戦。久々に上位陣との対戦になり、現状のアーセナルがどれだけ戦えるのか一つの試金石になる試合。TOP4入りを目指すためにも、上位陣相手にも勝利を挙げたいところだ。


見出し画像 引用元:アーセナル公式HP
ハイライト動画:アーセナル公式 You Tube
フォーメーション画像作成:TACTICALista