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皆既月食の夜に

「見てる?」
携帯に届いた短いメッセージは主語もなく、そんなメッセージに「見てるよ」とだけ返す。
丸くトリミングされたその中心に徐々に欠けていく月。その円の中から逃げていくそれを望遠鏡に付いたツマミを調節して追いかける。
「俺のとこ、曇ってて全然ダメ」
「うらやましい」
ぽんぽんと届くその短い文に口端だけ上げて喉で笑い、「しゃあないな、ちょっと黙って待ってろ」とだけ返信をする。そして赤く光り始めたその月を天体望遠鏡の中に収め、携帯のカメラを望遠鏡の覗き穴にそっと重ねるのだ。
望遠鏡をずらさないように、慎重に当てて撮ったその写真を彼へと送れば「さすが」と即座に返事が届く。

「持つべきものは天体望遠鏡を持った写真上手な親友だな」
続いてその言葉が届いたのを見て、俺はひっそりと笑う。

同じ空の下に居ても、俺の恋心は赤く光る月しか知らない。そうして俺は、明日からも彼の親友としてこの場所で呼吸を続けるのだ。


#写真 #SS

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