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新卒研修をRe Designせよ! | 体験設計からはじめる新卒研修の話

99%の人が”新卒”というステップを踏み出すと思いますが、若手にキチンと”新卒”というステップを踏ませた人は1%もいないのではないでしょうか。

ある日突然「来年の新卒研修をやってほしい」と言われたら、どう思いますか?その人数は20名弱、職種は3つ(プログラマー・デザイナー・PM)、何から教えたら良いでしょうか?

そんな新卒研修を設計した裏話をお伝えします。

2013年、当時はSun*という会社名ではなかった時期に入社した石田です。入社後は、プログラマー・PM・ITコンサルタント・システムアーキテクト・プロダクトオーナー・UXデザイナー・マネージャーと様々な役割をやってきました。その傍ら、3年間以上、ベトナムの理系トップ大学で情報工学と日本語を教えるという稀有なキャリアを持つエンジニアです。

そんな私に、新卒研修の担当者として白羽の矢を立てられたのは、やっと涼しくなった2021年9月中旬のことでした。

B*T*Cの領域を超える

まず最初にあげるのは、最も重要なコンセプトを表した図になります。

研修コンセプト資料より

「Sun*という組織が何者か?」といえば、「テック、デザイン、ビジネスの専門家が融合したチーム」だと思います。
(Biz = ビジネス、Tech = テック、 Creative = デザイン)

Sun*コーポレートサイトより

加えて、ここ数年、バウンダリーオブジェクトという考え方に共感していたのがありました。

バウンダリーオブジェクトとは、多摩大学大学院の紺野さんが提唱された、イノベーションを起こすための、各コミュニティや専門領域間の触媒となり、相互作用を創発する媒介と紹介されています。

BizZineより引用

開発プロジェクトにおいて、役職によって分断されたコミュニティを見てきたからこそ、そこを越えられる人・越えられない人を見てきたからこその到達点でした。
ただ、先に断っておくと『みんなで3つの領域の勉強をしよう!』という、ジェネラリスト的な教育方針ではありません。

この研修の意義は次の3つです。

  • 自分の専門領域(知識・スキル)を伸ばせる

  • 他の職種の人と一緒に、ものを作っていく経験ができる

  • チームのための自分が何ができるか考えられ、チーム全体でのシナジーを生み出せる

Sun*新卒の職種について

今年の新卒は3つの職種で採用を行い、大きくTech・Creative・Bizのカテゴリーで役職がまとめられています。

  • Techとはエンジニア(プログラマー)のことで、技術領域による研修内容の区別は行っていない

  • Creativeとはデザイナーのことで、UI(色形)の設計から体験設計などのUXの領域までを取り扱う

  • BizとはITコンサルタント・ビジネスデザイナー・PMなど

計画された混沌を乗りこなす

コンセプトは決まったので、これを達成できるプロセスを考え始めました。

この辺は、Web検索で出てくる新卒研修のカリキュラムは、知識獲得のための読み物が多く、本質的な体験設計について書かれたものが少なかったため、自分で設計することにしました。

研修コンセプト資料より

少し革新的な仕組みですが、3種類の学習体験が週単位で切り替わるという混合型学習を選択しました。

3種類の学習方法が週替りで切り替わります。

  1.  共通学習:社内ルールや社会人マナーのようなテーマを、座学形式で学ぶもの

  2.  専門学習:職域ごとにグループを作り、その職域にあった知識やスキルを、先輩社員から学ぶもの

  3.  グループワーク学習:異なる職域どうしでグループを作り、応用的な内容をPBL形式で学ぶものVUCAの時代だからこそ、変化できる人間が強い

一般的な新卒研修であれば、単一の職域どうしでのみ学習したり、または、全体を通して1→2→3のような流れで区切る形式が多いのではないでしょうか。

それを敢えて、週替りで3つの学習形態が変化させます。
ある週は専門的学習(②)を行い、次の週ではグループワーク(③)をし、更に次の週では専門的学習(②)の続きをやります。1週間毎に区切られ、その週の中で提出課題があったり、振り返りを行いました。
ですので、学習ボリュームによっては、グループワークをやりながら、専門的学習の宿題をやっている、ということも起こりました。

VUCAの時代だからこそ、変化できる人間が強い

なぜ、あえてこのような運営コストのかかる形式を取ったかというと、新卒研修を単なる知識やスキル習得の場にするのではなく、社会人的働き方や振る舞いを身につける場としたかったからです。

社会人をやってきた身としては、新卒研修で身につけられる職業的な知識やスキルというのは、その後の実務経験で得られる情報に比べると小さいものです。だから、如何にこの期間に知識やスキルを身に着けさせることに主眼を置くのではなく、研修後の働き方や成長性に関与するパーソナルスキルに主眼を置きました。

実際の仕事でも、平行して複数の業務(プロジェクト)を進めることは少なくありません。
また、業務状況・進捗・チームメンバーが変わったりもします。
加えて、そんなプロジェクトを複数担当していたりします。

そういった状況に置かれても、自分で何をすべきかを判断し、相談すべき仲間と連携し、一緒に問題を解決したり学んでいくことが、初めての社会人を踏み出す若者には有意だと考えたのです。

自分の役割が分かるから成長できる

もう一つの狙いとしては、チームの中での役割を自覚して自己成長につなげて欲しい、ということです。

単純に新卒研修を、自分の職域の知識やスキル獲得だけに当ててしまうと、近視眼的な成長になってしまうと考えました。

私の出発は、プログラマーでしたが、やはり、当時はやりのプログラミング言語やデータベース設計、開発技法のことばかりにモチベーションを傾けがちでした。
しかし実際には、他の職域の方からみたプログラマーへの期待することや能力があり、その視点無しに学習をするというのは「井の中の蛙」のようなものだと実感したことがありました。

だから、グループワークを通して他の職域の方と一緒に学ぶからこそ「自分が何をチームに対して貢献しなければならないか」や「そのために何ができるか(何をできるようにならなければならないか)」が分かります。
敢えて、グループワークと専門的学習を繰り返すことで、チームから必要とされるプロフェッショナルの育成を目指しました。

この狙いは、長期的に見て境界を超える人材になることとともに、短期的には研修効果を高める狙いがあります。

「デイヴィッド・イェーガーとデイヴ・パウネスクの実験」によると、自分が取り組んでいることが、どのような社会貢献と結びつくかを理解することで、学習モチベーションが高まることが知られています。

つまり、デザイナーが漫然とユーザーストーリーの書き方を覚えるよりも、チームの課題としてユーザーストーリーを設定する課題が与えられていたほうが、自分の成長がチームへの成果につながることが予期でき、学習に身が入るというロジックです。

この研修、運営する方も受ける方も大変でした

1週間毎に学習内容が変わるということは、綿密な計画が求められました。
前述の通り、個人の学習内容が、その後のチームの課題と連動している必要があります。専門学習の講師と、チーム学習の講師は別々の人員で行っているため、学習順序や進度を密に調整するために時間を要したように思います。

また、運営コストがかかるのですが、受講する側―新卒の方々からも「大変だった」という意見があがりました。
人によっては「1週間は難しいから2週間に変えてほしい」と長文で直談判されたくらいです。一部の専門学習の量が多すぎたため、チーム課題に影響が出たことが原因でした。

私は結局、このプロセスを変えることはしませんでした。
やはり、研修を投資と考えた際に、「楽しい」や「面白い」だけで終わってしまっては、意味がありません。むしろ無事、修了となった今では、複雑な環境下で全員が調整できる経験は、ストレッチ可能な挑戦だったのではないかと思います。

補足:混合学習のベースにある学習法
これは、アクティブラーニング手法の1つ、知識構成型ジグソー法を応用したものです。この方法は、東京大学CoREFの三宅なほみ名誉教授によって提唱された学習方法で、共同学習者を変えながら学習を進める手法です。
この手法は、元来、2〜3時間で実施されるワークショップ型授業に適応されることの多いものです。

教育デザイン研究所より

結局バウンダリーオブジェクトは育成できたのか?

先に一つデータを上げます。
これは、研修後半に行った研修参加者に対するインタビュー「各BTC領域に対する興味の分布割合」になります。
合計を100%として、各領域への関心度合いを割り振ってもらいました。
そして、新卒全員の平均値と、役職別(Biz、Tech、Creative)の平均値の計4つに集計したものです。

まずBiz職のみを見ると、自分の領域に45%の関心があり、技術に23%・デザインに55%興味があることが分かります。
この研修を通して、他職種からの影響を一番受け、様々な関心をもってもらったことが分かります。

続いて、Tech職のみを見ると、自分の領域に49%の関心があり、ビジネスに31%、デザインに20%です。技術一辺倒ではなく、他領域にもバランス良く興味を持っていることが分かります。
弊社実務でも、プログラミングするだけでなく、システム設計などを行うことが多いので、この傾向は、Sun*のエンジニアとして強みになるでしょう。

最後に、Creative職のみですが、自分の領域が73%で他領域は27%になります。他職種と比べると、自分の領域に偏って見えるかも知れませんが、新卒時点でこれだけ広い視野を持てていることは羨ましいことなのではないでしょうか。

知識獲得より価値のあること

どことなく、興味が分散している方(Creative職よりBiz職)がよいように受け取られるかも知れませんが、それは誤解です。

個人差もありますが、デザイナーの方が10%も技術に興味があるという事実だけでも驚くべきことです。
実際、研修後のOJTや様々なデザイン業務が始まれば、技術にふれる余地さえなく、デザイン一辺倒に成るでしょう。それが普通のキャリアパスです。
しかし、数年後、他職種の人と一緒に仕事することは避けられません。また、開発技術を知ってデザインするのと、そうでないのでは違いがあります。
もっと言えば、技術を得意とする仲間(ビジネス職のメンバーも)を作れたことは、人生にとっての財産です。自分が困ったときに、気軽に相談できるのですから。

尾原和啓さんの本に、こんなことが書かれています。

”これまでは「同じような人が集まって、一方向に向かって走れ」というような時代だったので、このような作業は一切必要がありませんでした。(中略)これからは「毎回わけのわからない展開になるから、何が起きても戦えるゴレンジャー、集合!」という時代になります”

モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書


研修後、すっかり新卒メンバーとの交流する機会は減りましたが、今年の新卒は横の繋がりが強いと聞きます。
彼らが、プロジェクト・部署・企業を越えた絆が築けたなら、それは私が思い描いた研修のジャーニーマップの終端です。

新卒研修がもたらす会社アップデート

企業から見た新卒採用のメリットの一つに「下からの突き上げによる組織の活性化」があります。人的リソースの獲得だけでなく、既存社員や社内文化にもよい影響を与えると言われています。

偉そうな言い方をすれば、各領域のプロフェッショナルはいらっしゃると思うのですが、そんな方々を繋ぎ合わせ、シナジーを出せていないなという課題感を長らく持っていました。
今回の新卒研修を通して、各領域にバウンダリーオブジェクトとしてなりえる人材を排出することで、既存社員も感化されたら嬉しいですね。
これだけスペシャリストの揃っている会社ですので、領域を超える意識だけでも何倍も企業価値が高められるのではないかと考えています。

組織成長の種蒔きとしての研修

また、根拠があるわけではないですが、数年後に22年卒の面々から、マネージャーが出てくるのではないかとワクワクしています。

弊社のマネージャーは、異なる職種の方をマネージメントすることが多いのですが、なかなか難しい側面があります。
例えば、プログラマー経験しかないマネージャーが、部下のデザイナーのプロジェクトの調整やキャリア相談などを行います。
しかし、自分が経験の無い職域の方を管理するというのは、難しいことです。かといって、マネージャーになってから、経験したことない職種の経験を積むのは、マネージメント業務に追われるため困難でしょう。

そこで、研修で得た視野や繋がりが、この後の成長によい影響があるのではないかと期待しています。

  1. 俯瞰的に業務を捉えて、自分の職種に固執せずに、領域を超えた人々へ興味・共感が持てる

  2. 意識的に異なる職種の人と連携を多くとることで、それぞれの方の持つポリシーや大切にしていることを理解できる

  3. キャリアアドバイスやマネージメントに迷った際に、聞ける同期メンバーがいる

Sun*では20代中盤でマネージャーになる人が少なくないですが、数年後、今年の新卒の中からもそういった人材が出てくることを期待しています。


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