マルキ・ド・サド「美徳の不幸」澁澤龍彦訳 ①

読了したので、感想

サドといえばサディストの語源になった人。
昔から気になっていたので一読した。

異常な程、道徳的で誠実で善人の少女が世の悪にひたすらひたすらいじめられまくる物語である。
善人と悪人が過剰なほど両極端に描かれている。

あらすじはいいとこのお嬢さんがある日突然、家が没落して天涯孤独の身になる。彼女が救いを求めて誰かに助けを乞うたびに肉体労働を強いられたりレイプされたり、ムチで打たれたり、濡れ衣を着せられたりと碌な目に合わない。
主人公は宗教の信者なので(信者じゃなくてもこんな目に合えば怒るが)当然悪が許せない。「あなた方には必ず天の裁きが下るでしょう!」
ところが、悪人達は天の裁きが下るどころかどんどん裕福になっていく
主人公の思想も物語の後半にいよいよ揺らぐ事になるのだがーーー。


物語の見所は善悪の問答合戦と魅力的な悪人達だ。

悪人達は共通して哲学を有している。名言も多い。

彼らは非常に論理的で、順序立てて主人公にこの世の構造を説明する。

男色家のブルサックの言葉をまとめてみよう。彼は母親を憎悪して執着している変態である。

「神が自然を操作しているのではなく、自然の法則が存在している。この法則が永遠不変のもの」

「殺人を履行する事は不可能だ。万物は絶えず変化して永遠に不滅で、肉体が滅んでもまた別のものに変わる。そう考えると一人の女を形作ると肉の塊を、何千匹の蠅に変えても自然にとっては何の意味もなさない」

また宗教的観念を微妙に備える女盗賊ラ・デュボワは「善悪は等しい量を神は必要としていて、個人が善悪どちらを成そうと無関心である」

「人間を幸福に導くのは美徳と悪徳の二者択一ではない。美徳も悪徳も同じく、この世における身の処し方に過ぎないの。一方を捨てて他方につくということではなく普遍的な道を切り開くしかない」

この人は非常にグローバルな考え方をしている
「フランスで罪と言われているものが数百里先では罪に値せず、永遠不変の真の罪とみなされてるものは現実には存在せず、すべては世論と風俗習慣に左右される」


私が一番好きな悪人は贋金作りで私腹を肥やしているダルヴィル。彼は主人公に命を救われたので、主人公をさらって強制労働させるのだ。
「お前さんが自分の意志で勝手にした事になんで俺が恩返しをせにゃならんのだ?」
「お前はなるほど、俺の生命を救ってくれたよ、しかし一たび、お前が自分の為に行動したとなれば、俺はもうお前になんの負い目もないのだ!さ、働くがいい、奴隷めが!働くがいい!」
悪魔である。

しかし彼の哲学には経験と思索が裏打ちされていて、滅茶苦茶と言う訳ではない。

「文明がいくら自然に手を加えようと自然法則は変化させる事は出来ない。弱肉強食と言う法則は永久に変わらない」
「運命を制御する為には美徳の幽霊を足下に踏みにじらなければならない」
こうした言動から、どこか哀愁みたいなものを感じるのは私だけであろうか?

ダルヴィルは最後の登場シーンで事業に成功し、強制労働所を後任に任せてその場を後にする。
その際、お気に入りの愛人捨てて、強制労働所に務めさせようとするのだ。
「この場所は三人以上、人を必要としてない。一人多いから俺の銃の威力を試させてもらう」
彼はそう言って適当に人を殺した。
「閻魔大王に伝えよ、この世の悪人で最も富める者ダルヴィルは、もっとも誇りかに、神の手と人の手に挑戦するものである、とな」


この他にも神父という職に就きながら、女を攫って修道院で性奴隷にしている四人の外道神父や、医学界の進展の為に人を攫って人体実験をしているロダン等、悪魔だらけだ。

書いてみて分かったが彼らの発言をまとめると、エゴイズム、自然法則の崇拝、快楽主義、美徳への徹底的攻撃が見て取れる。

特に美徳への徹底攻撃はサド自身、異常な情熱があるのか数ページに渡って、神が人類に無関心である事、美徳が何の益にもならない事を延々と語っている。この点にサドがどんな人間だったのかのヒントが隠されている様な気がする。

長いので分けます
#小説 #推薦図書





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