若きウェルテルの悩み ゲーテ 高橋義孝訳

余りにも悲しい、物語である。
主人公ウェルテルは心に傷を抱えた純粋な青年で、彼がワールハイムと言う土地でシャルロッテと言う婚約済みの女性に恋に落ちると言う、嫌な予感しかしないストーリーである(その予感は的中してしまう)

ウェルテルが友人(ウィルヘルム)に送った手紙を基に小説が構成されている(書簡体小説と言うらしい)
これによりウェルテルの激烈な内面が叙情的に表現されており、叶わぬ恋によりその精神が徐々に変調して行く過程が時系列順に示されている。

ウェルテルは典型的な思春期男子である。純粋な心を持ち、反権力主義的で、社会を俯瞰する視点を持ち、自己破壊欲求が激しいのに、繊細で傷つきやすく、自然や芸術を愛でる。
就職しても上司がムカつくから辞めてしまう。
「あの女は自分のお高い家柄や、自分の国の自慢ばかりしている」など、職場の愚痴を友人に手紙で送りつける様な奴だ。現代社会の若者ともうまい酒が飲めるだろう。

読んでいて思ったが、この時代にはLINEが無い。通信手段は手紙くらいなので、書いてる内容が非常に情熱的である。情報量も多い。
当時の人々は心境や現状を友人に伝えるのにも現代ほど「お手軽」ではないのだ。ウェルテルが苦悩しながら机に座して真心を込めて遠い地の友人に文を書いてるのが内容から伝わってくる。
我々は利便を手に入れた。電車の中でも喫茶店でも歩きながらでも、指を動かせば繋がった友と連絡を取り合う事が出来る。「死にたい」だの「仕事だるい」だの「あの服可愛い」など内容は軽薄なものだ。
こうした社会では人間関係も軽薄になってしまうかもしれない。ウェルテルの様に友に自分の心情を何とかわかってもらおうと長文LINEを頻繁に送るとメンヘラ鬱扱いされてしまう。そう考えると嫌な時代になったものである。話が脱線した。私も自分が何を言いたいかわからない。

さて主要な登場人物はウェルテル、シャルロッテ、そしてシャルロッテの婚約者であるアルベルトだ。
三人の関係は悪くない、が、アルベルトはまさにウェルテルと相反する俗物中の俗物なのでよく二人は対立する。
二人はある日「自殺」について論じ合う。私の好きなシーンだ。ウェルテルが不変の名作とされているのはこのシーンによるのではないか。

アルベルトは自殺そのものを罪と断じている。
「一体全体人間はなぜ自殺などと言う愚を犯すのかね、僕は自殺について考えると胸がむかむかしてくる」
この発言をウェルテルの感受性が許せるわけがない。当然反論する。
「どうして君達は愚かだの賢いだの善だの悪だので物事を判断するんだい、物事が起こった原因を詳細に考察すればそんな言葉は出てこないはずだが」
「どんな理由があろうと許されない行為がある。自殺は弱さ以外の何物でもない。苦しい人生を生きるより死んでしまう方が楽なのだから」
長いので割愛する。ぜひ読んでほしい。まさに若者と大人の対立だから。


さて物語の結末は悲惨極まりない。ネタバレを含む。
アルベルトとロッテが結婚するのが辛くてウェルテルは就職するが、社会でもうまくいかずにまたロッテ達がいる土地へと舞い戻る。
二人はすでに結婚しており、ウェルテルを暖かく迎えてくれるが、既に夫婦と言う立場の二人は以前の様には仲良くしてくれない。
ウェルテルはしこたま追い込まれる。
そして決定的な事件が起きるのだーー


村で知り合った作男が女主人に恋をしてる事を打ち明けるシーンがあった。ウェルテルはこの頃まだ元気だったので、恋を応援していた。
その作男が叶わぬ恋に気が狂い、レイプ紛いを起こし、殺人まで犯してしまう。
感受性ビンビンのトランス状態のウェルテルがこの事件を見過ごす事など出来ない。
さらに村で気の狂った男が花を探していた。花が咲く季節ではない。何でも恋人にあげたいらしい。
後に判明するが、この男はロッテに恋をしていたらしい。
気が狂って精神病院に一年鎖で繋がれていたそうだ。なんとも罪な女である。

この二人との遭遇は決定打だった。
第1部最後のウェルテルの手紙である。
「半神だなんて言う人間がなんだ、まさに力が必要とする時にその力の持ち合わせがないじゃないか。それからまた喜びに小躍りし、あるいは悲しみにうち沈んで、そのどちらの場合にも、豊かな無限者のうちに溶け入ろうとするまさにその瞬間に引き止められて鈍い冷たい意識に引き戻されるじゃないか」

ウェルテルが絶望した瞬間である。
もうこの物語にハッピーエンドが来ない事は明白だ。



物語の悲惨さをロッテの心情が更に高める。
終盤にロッテ自身が自らの心の内にウェルテルの存在の大きさを感じてしまうのだ。二人は結ばれてもおかしくなかったのだ。
ウェルテルとシャルロッテが最後に会った日、二人はある詩を通じて、お互いの気持ちが同じである事を感じた。激しい感情にウェルテルはロッテを抱きしめて接吻する。
ロッテは妻と言う立場を守る為に、自分の気持ちを押し殺してウェルテルを拒絶する。とても残酷なシーンだ。
「弾丸は込めてあります。十二時は打っています。ーーロッテ、ロッテ、さようなら」
最早彼には死以外の救いなどあろうはずがなかったーー




それにしても激烈で繊細な魂だった。彼の文面は自らの心情を表現しきれていない。最早言語ではその感情を表現し切る事は出来ない。
ロッテが小鳥にパンを口移しであげるシーンを見て「無邪気ないたわりの感情が限りない歓喜の内に楽しく笑っている唇だ。」ってお前それどんな唇やねん。

この作品はゲーテの絶望的な失恋体験と友人の自殺と言う、二つの強烈な体験を基に作られているらしい。
その二つを一つの作品に仕上げたゲーテはまさしく天才だ。必読すべき書物である。

もう少し語りたい所があるが、一旦ここで一つの区切りとしよう
#小説 #こじらせ

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