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絵筆と短歌 結果発表・座談会

2021年11月1日から7日まで、募集を行った「絵と短歌」のコラボ企画:絵筆と短歌の結果を発表いたします。たくさんのご参加ありがとうございました!募集テーマは「冬」でした。

選考はイラストレーターの朝際イコさんが行い、その短歌を元にイラストを制作していただきました。以下に大賞作品、その作品を元に制作されたイラスト、そのほかに気になった短歌を三首ずつほど引いて行った座談会の様子を掲載しております。

それではお楽しみくださいませ。


■ 大賞作品(選考:朝際イコ

肺に冬の影があります 春になれば忘れる歌ばかりを口ずさむ/五感

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朝際イコさんからのコメント:
生死を扱うものに昔から惹かれることが多く「春と冬」「生き死に」の構造的な対比がとても素敵に思い選ばせていただきました。生死の境界線を色で表現できるなぁと感じたのも理由の一つです。春(生)への希望を胸にしつつ散るのだろうと思った時の儚さがとても好きです。


■ 気になった短歌についての座談会

朝際イコさんがイラストを制作する作品を選ぶまでに最後まで悩んだ作品と、武田ひかが応募作を観ている中で好きだった短歌を三首ずつ挙げ、90分の座談会を行いました。どのように作品ができたのか、朝際さんが制作の中で大切にしていることなどもお聞きしています。

武田ひか:
今回は、「絵筆と短歌」にご参加いただきありがとうございました。

朝際イコ:
こちらこそ、ありがとうございました。誘ってくださってとても嬉しかったです。わたしはバンドマンもしているので、歌詞も書くんですよ。「言葉を扱う」という表現の共通点を持ちながら、自分のイラストで短歌に関われたのが嬉しかったです。

じゃあ、さっそく気になっていた作品のひとつめについて話していきますね。

藍色のセーター深き海として 冬 青年の心臓ハートは魚

/とがしゆみこ
(朝際イコ選)

なんか、この一首目に関しては、すごく音楽の歌詞みたいだなと思って。この心臓をハートと読ませるのが個人的に好きでした(笑)

わたしはこの一首から想起される色が好きです。日本海近辺に住んでいる男の子のイメージが湧いてきました。東京にしか住んだことがないから全部想像なんですけど、海の近くにある寂しい街に住んでいて、遠くに行きたくても行けないような感情が映されているのかな?と思って読みました。

武田ひか:
内向的な感じがします。セーターの中にある自分の心を描写していて、視線が内側に入っていきますね。

朝際イコ:
そう、海もリアルな海じゃないかもしれない。

武田ひか:
いま、ぼくたちは主体の住んでいる場所を日本海の近くだとしていましたけど、逆に東京とか内陸に居るのかも……というふうにも思えてきました。逆に海にいけないから、内側に海を作っていく……なんて取り方もできますね。

ちなみに、イコさんが選考を行っていくとき、基準はありましたか?選ぶときの判断材料というか。

朝際イコ:
そうですね〜。絵になるイメージが湧くかどうかというのは、まず前提としてありました。イラストにさせてもらうという前提があった上で選ぶ企画だったので、作品を観たときに自分の絵柄や世界観をうまく織り込めるかというフィルターはありました。それと、色ですね。

武田ひか:
色。

朝際イコ:
例えば、先ほどの一首目「藍色の〜」だと、すごくイメージしやすかったです。これも多分、絵にするイメージをつかめるかということの延長線上にあるのだと思います。

言葉を選んでいるのに、その向こうにある絵を追いかけているような不思議な感覚でした。

武田ひか:
あ〜、世界観とか、色とのマッチングっていうのは短歌だけを選ぶときには出てこない観点ですね。おもしろい。


書くことをやめた詩人が一行の詩のように立つ冬のベランダ

/えんとつカフェ
(武田ひか選)

武田ひか:
じゃあぼくの選んだ作品のひとつめを紹介しますね。

書くことをやめてしまった人の描写の歌。創作をやめるという行為に宿っている切実さがうまく掬い取られている作品だと思いました。何かを作るという行為は、生きることに密接しているので、やめてしまうことには覚悟がいる。辞めた後の立ち姿が詩のようであるという表現が秀逸だと思いました。冬のベランダという言葉も、イメージを想起させる良い選択。冬に辞めるというのも必然性が感じられます。

朝際イコ:
他の人の目線があるのかな。「詩を書けなかったとしても、あなたは詩のように美しいものなんだよ」と思われているのかもしれない。そういうニュアンスで捉えると、物悲しさを感じつつ、あたたかみを感じる歌だなと思います。

武田ひか:
なるほど。存在を肯定している(されている)歌とも読めますね。


もう一度貴方の熱に触れたくて
煖炉で燃やす古びた写真


/白石夜花
(朝際イコ選)

朝際イコ:
この作品は絵になるイメージがぱっと浮かんだ作品です。冬の一首なのに、暖色系が使えるという点もいいなと思っていました。私がいつも描いているおかっぱの着物を着ている女の子もすぐ浮かんで、私の画風にも合いそうだな〜とも思っていました。

武田ひか:
「貴方」の表記も良いですね。ひらがなじゃなくて漢字で書いてあることで、艶が出ている。たぶん女性なんだろうなというところも伝わってきます。

朝際イコ:
私の好みなんですが、女の愛憎・愛情みたいなものをすごく感じて好きでした。でも、この主体は写真を燃やすというところまでで我慢できているのが偉いなと思いました。会いに行ったりはしないんだっていう(笑)


ふゆのふをふと口にする幾万の人の吐息でゆきがうまれる

/海月ただよう
(武田ひか選)

武田ひか:
まず、音の面白さに目が惹かれました。「ふ」という音が、短い間に何度も出てくるのが気持ちいいです。歌の意味としても面白いことを言っているな、と思っていて。

冬が自動的に深まっていくものではなくて、人々が「冬がきた」と実際に口に出すことで冬が深まっていくという把握の仕方が魅力的だなと思いました。実際はそんなことはないのかもしれないけれど、人々の営みによって身の回りの世界が動いていっているという把握が好きですね。クリスマスとかも、人が動くことによってできているものなので。そういった人の営みの尊さも表されているんじゃないかな。

朝際イコ:
寒いときに「ふゆ!」って言って、白い息になる感じを味わいたい。読んだときに、やりたくなりました(笑)

人が季節を作っているというところも聞いていて、共感しました。

武田ひか:
これはきっと何度も思い出す歌になるんじゃないかな。愛唱性も高いし、発見も良い。冬のはじまりに何度も思い出すことになりそうです。


さみー、ってつぶやく夜のコンビニで派生語みたいにさみしさがくる

/カラスノ
(武田ひか選)

武田ひか:
喋ることがないときに、「寒い」とか「お腹が減った」とか身体感覚に根ざした言葉を言っちゃうことってよくあると思うんですが、思わず言っちゃった「さみー」という言葉が寂しさを連れてくる……。すごく巧い発見だなと思いました。ぼくは一人でいるときの独り言なのかなと思って読みました。ひとりでコンビニに行って、出たときに思わず独り言を言っちゃったときなのかな、と。

朝際イコ:
あ〜。私はいろんな人と一緒にいるときこそ、孤独を感じると思うんです。だから、この一首は複数人でいるときの情景を読んだ作品なのかと考えていました。例えば年末年始って昔の友達に会う機会が増えると思うのですが、昔は普通に話せていたのに、いざ久々に会ってみると生活が違いすぎて話題がない。それで「さみー」しか言えない、みたいな悲しい歌なのかなと思ってます(笑)

武田さんって、けっこう映像的な三首を選んでますよね。この三首をみた感じ。

武田ひか:
確かに?言われてみるとそうかもしれませんね。好きな歌のタイプがそういう感じなのかな。


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肺に冬の影があります 春になれば忘れる歌ばかりを口ずさむ

/五感
(朝際イコ選)

朝際イコ:
きっとこの歌の中の主人公は、病気だったとしても、春に対しても期待感がある気がしています。実際にそう言われているわけではないですが、そういうことを感じました。

わたし、儚いものが好きなんですよ。というのも、自分自身がいまのところ入院もしたことがないし、健康体で。だから……、なんだろう。弱さの部分に変に憧れをもっているんです。健康が一番だし、本人としてはもちろん大変ということはわかっているんですけど、美しさを感じてしまう。自分がうつくしいと思うポイントにちょうどはまってきた作品でした。

あ、あと、季節として春が好きなので、冬が詠み込まれた作品でありながら春が同居しているというところもキュンときたポイントです。

武田ひか:
この作品をどのように絵にしていったのですか?

朝際イコ:
まず自分の作風的に着物の女の子は登場させました。病床にいる方は、窓を介して季節の移り変わりを把握しているというイメージがあったので、そういった印象を下敷きにしています。そして、この作品を読んだときに、この主体は自分が死ぬという運命を受け入れているような気がしました。なので、病室のなかというよりは自宅で寝ている姿を描こうというところからスタートしました。

部屋の中で病気と戦っているところと、部屋の外の季節を対比させたいと思っていました。それを境界線として表したかったので、画面の中心に線を入れて、斜めに割っています。シンプルな色付けも心がけましたね。

桜は実際の桜ではなくて、この人が観ている想像上の桜だとして描いています。


武田ひか:
今回の絵もふくめて、絵を描いているときにこだわっていることはなんですか?

朝際イコ:
まず女の子が可愛いかどうか。そこにはこだわりがあります(笑)。自分がキュンとする女の子像を、どのように絵に反映させるかという。描きながら、ドキッとしたいんですよ。その中で目線の動きとかは気にしてますね。

今回、描かせていただいたイラストでは元気一杯の女の子は描けないなと思ったので、どのように視線をつくるかというのは意識したポイントですね。

最近、「色がいいね」と言ってくださる方が増えたのですが、昔は色が苦手で。いまは使ってますけど、昔はペンで描き込むスタイルでした。今年になってから、色使いに対して自信がついてきました。

武田ひか:
イコさんの絵を見てから、ずっと思っていたんですが、画面のなかに世界観がありますよね。色も、モチーフも。

朝際イコ:
ありがとうございます。あ、あと私は厚塗りで画面を作っていくのができないので、線もこだわりがあります。線画命です。最初の土壌が漫画とかアニメなので、漫画家やアニメーターの方の仕事に追われることで自然発生したような線の癖が好きなんですよね。アニメーターの方の線を描くときの迷いのなさみたいなものも憧れです。なので、こだわりとして、勢いで描くというのは意識しています。

武田ひか:
確かに、Twitterでイコさんの発信を見ている感じでは、下書きがかなりざっくりしていますよね。あたりだけつけて、即ペン入れみたいな。

朝際イコ:
面倒くさがりな性格も理由としては関係しているんですが(笑)

デッサン的には嘘をついているところももちろんあります。だけど、嘘だから作品としてダメかっていうと、そういうわけじゃない。音楽のライブのときもそうなんですが、ミスばかりに目を向けていたら潰されてしまうんですよね。逆にミスしちゃったなと思っても、お客さんが喜んでいる時もある。線の思い切りの良さは、音楽で培われたのかもしれません。

武田ひか:
イコさんの中では音楽も、イラストも繋がっているんですね。

朝際イコ:
はい。二つをやっていないとピンとこないとは思うのですが、繋がっています。自分の中ではイラストレーターの自分と、バンドマンの自分がいて、お互いがお互いを俯瞰で見ている感覚もあります。それと、どちらかの活動が辛くなったら、もう片方に逃げればいいっていう逃げ道にもなっていますね。

武田ひか:
今後の野望とか……お聞きしても良いですか?

朝際イコ:
今年はイラストレーターとして認知されるということが目標のひとつでした。年単位で目標を決めています。来年は漫画を頑張ろうと思っていて、再来年にアニメに取り組みたいと思っていたのですが……。最近、ありがたいことにアニメのお仕事についてお声がけいただいたので、来年はアニメをがんばります(笑)

一次創作ももっと増やしていきたいですね。いろんなキャラクターも作って、私のイラストを見てくださる方に認知してもらいたいです。

イラストレーターらしい活動ももっとしていきたいですね。個展をしたりやデザフェスにも出たり、「ILLUSTRATION」という本にも載ってみたりしたいと思っています。そしてずっと考えているのは、イラストだけじゃなくて、音楽とか、いろんなことで私はできていて、総合芸術的に活動したいということ。例えば喫茶あさぎわという活動もありますし。私の理想とする世界観を、どんどん作り出していきたいです。

武田ひか:
お声がけした時からアカウントが伸びていて、勢いを感じています。東京に寄るときにはぜひ喫茶あさぎわとか、個展にも行ってみたいです!最後に、企画を終えての感想をお願いします。

朝際イコ:
最初に言ったように私はバンドマンとして歌詞も書いている人間なので、依頼書を読んだときに「ぜひ、やりたい!」と思いました。言葉に真摯に取り組んでいらっしゃる方の作品をたくさん読めたのも、そして誘っていただいたのもとても嬉しかったです。

今後、いろんなイラストレーターの方とのコラボもあると思うので楽しみですね。そんな企画の一番手に選んでもらえて嬉しかったです。この度はありがとうございました。


朝際イコ

長年のバンド活動を経て2021年よりイラストレーターとして本格的な活動を始める。大正浪漫やレトロな世界を得意とする自分の「好き」を存分に活かして制作活動をしている。

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代表作

Twitter : @IcoAsagiwa
Instagram : icoasagiwa


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読んでくださってありがとうございます! 短歌読んでみてください