【第一章 モノをとおしたコミュニケーション】 自分たちのお墓を持つということ
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壊した家を出たくせに 今 私達は 新しい家をつくる
ここがHome Sweet Home 愛する人たち
されどHome Sweet Home たとえ一人きりになったとしても
Home Sweet Home-矢野顕子(アーティスト)
お墓のカタチ、石種も決まり、墓碑に彫る文字を決めることになった墓ありじいさん。この文字に関しては、息子に希望があった。
「感謝と彫りたい」と。
墓碑に彫ってある文字の多くは、「〇〇家の墓」や「南無阿弥陀仏」などだが、信仰心に篤いというわけでもないし、「代々の墓」というほど長く受け継がれていくかもわからないので、息子の提案に賛成だった。
「感謝か…」
今は先に墓に入る妻への気持ちを表した言葉だが、いずれ自分もその墓に入り、妻と自分が残った家族から感謝される存在になる。
そう思うと、たった二文字に込められた想いは、とてつもなく大きな意味を持つように感じた。
およそ二か月後、妻の墓が建った。
墓石の石種は、娘の意向で黒い石にした。妻が一番好きな色だったからだ。
仏つくって、魂入れずでは、ただの石の物体のままなので、妻の葬儀や法事のときに世話になったお寺の住職に、「開眼供養」をお願いした。
黒く輝く石の鏡面に、自分の姿が写しだされている。じいさんは、墓の中から『自分自身と向き合え』と、声なき声に言われている感覚がした。
妻の遺骨とともに過ごした数年間が去り、いよいよ新しいお墓に納骨だ。
じいさんだけでなく、息子や娘たちも少し寂しそうだった。
人は二度死ぬという。
一度目は、肉体の死。二度目は、忘却による死。
だが、人はほんとうは三度死ぬのではないかと、じいさんは思った。
一度目は肉体の死。二度目は、納骨という死で、三度目にようやく忘却による死がくる。
そばにあった妻の遺骨が、家から、部屋から去り、墓という終の棲家におさめられる。
二度目の妻との別れに、じいさんは心の中で泣いた。
♢
墓ありじいさんが、墓なしじいさんに墓が建ったことを知らせると、一緒に墓参りに行きたいと言ってくれた。
妻の墓のお披露目に、墓なしじいさんは、「〇〇ちゃんも喜んでいるだろうな」と言い、花を手向け、線香をあげ、手を合わせた。
納骨法要のときの様子を携帯電話で撮っていたので、それを墓なしじいさんに見せてあげた墓あり爺さん。
「孫もお花を供えているのか、いい写真だな。こないだのお盆は、みんな帰省してお墓参りしたのかい?」
そう聞いた墓なしじいさんに、墓ありじいさんはうなづいた。
「そうそう。家に寄る前に、まず墓さ。じじいの住む家よりも、妻がいる墓に会いに来るのが先だよ」と笑いながら答えた。
「そうか。まるでここが、新たな茶の間になっているんだな」と墓なしじいさんも笑った。
そう言って、墓なしじいさんは思った。
「新たな茶の間か…」
墓ありじいさんは、大切な家族を失ったかもしれない。だが、その代わりに新たな団欒の場を手に入れたのだ、と墓なしじいさんは悟った。
続く。
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