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達筆にツイテ

「君の字は本当に読みにくいですね〜。」

私が某大学の研究室で助手をしていたころ、
私の恩師の佐◯◯一先生(以下、さとこー先生)とのやりとりは、
ファックスを使うことがもっぱらだった。

先生はご自身のファックス用紙にしっかりとロゴを入れていたりして、
なんともシンプルでおしゃれーな様相、
先生の文字はとても読みやすく、
漢字のはねの部分がぴょこんと勢いよく右肩上がりなのも、
特徴的だった。

さとこー先生は日本を代表するグラフィックデザイナーの一人で、
グラデーションの美しさや、
グラデーションでなくったって美しいグラフィックを武器として、
多くのポスター作品を世に残している方なのです。

でも、お!売名行為ですか?
なんて言われてしまった日にゃあ、
困ってしまう限りなので、
ここでは本名は言いませんよ笑

話は逸れましたが、
先生はしごく読みやすい文字をお書きになって、
私のは確かに読みにくい。
何が原因なんでしょ、と思って自分の文字を観察してみたのです。

例えばひらがなの「な」と「は」。
「な」の右上のチョンを書かずに、
左上のバッテンの横棒をそのまま下のクルリンチョにつなげて書いている。
それが、「は」と一瞬見分けがつかない。
私の「な」は、こんな具合です↓

な



まーけれども、
字はきれいですねと褒められたこともあるし、
先生、またまたー、
先生の目がちらちらしてるのが原因なんじゃないのぉー、
なんて、ちょっとふてくされ顔で先生の顔をチラリを見た。
先生はそんな空気を察したのか、
「ごめんなさいね、口が悪くって。」
と二マリ二マリ顏でまったく思ってないような言葉を投げかけてくる。

なんだい、けっ。
とプリプリしていると、
「よく、達筆なんて言葉があるけれども、君は達筆なんでしょうね。」
と続けた。

「でもね、達筆を褒め言葉だなんて僕はそう思わなくってさ。
自分が書きたいように書くのがいいということではないんですよ。
格好つけて書いた字が読み手に伝わらなかったら、字には意味がない。
これは、グラフィックデザインにも同じことが言えるんですよ。」

先生は二マリ二マリと笑顔のまま、
人差し指をぴょんぴょんと立てて、
諭すように私にお話をした。

読みにくい字を書いていたつもりはなかったけれども、
格好よく書いてやろうと意識はしていたのです。
その格好つけが相手の立場を慮ることを忘れてしまっていたと、
それはグラフィックデザインも一緒なんですよ、
と指摘なさったわけです。
独りよがり、というのはデザインではないという痛烈なメッセージ。

グラフィックデザインは、必ず受け手がいる。
だからこそ、「伝達」は重要だ。
それは、日々の暮らしのなか、
グラフィックデザイナーたるもの、
書く字も相手に伝わるか慮るのよ。
と、先生は教えてくれたのかもしれない。

私はばつが悪そうに、
「はい、、精進いたします。」
とてへぺろな返答をして、
先生といつもの飲み屋に移動した。

その後、ファックスを送る際も、手紙を書く際も、
先生とのやりとりにとどまらず、
なんだか妙に気になってしまって、
色々と直そうと試みると、
ちょっとは良くなったかしらん。
先生からは字のことでツッコミを受けなくなりました。
精進すればかわることができるのねん。

なーんて、
それから6年後。
さっき書いた手紙を見返したら、
「な」がいつものアレに戻ってんじゃん。

癖ってこわい。
気をつけよっと。。。