日本女性の上昇婚・上昇婚志向

はじめに

 本記事の狙いは、①女性の上昇婚・上昇婚志向が存在すること、②日本では女性の上昇婚・上昇婚志向の傾向が強いことを明らかにすることである。

 社会学者・赤川学の定義によると上昇婚とは、「女性が自分よりも経済的・社会的に有利な立場をもつと期待される男性との結婚を求める傾向」のことである。また本記事では「上昇婚志向が非合理的に高まっている状態」を「高望み」と表現する。

 統計を確認した結果、①女性の上昇婚・上昇婚志向が存在すること、②日本では女性の上昇婚・上昇婚志向の傾向が強いこと は事実であることが確認できた。上昇婚・上昇婚志向の強さは未婚化と関連している可能性があり、女性の意識改革が求められる。

1. 上昇婚は存在する 

 (1)学歴上昇婚 ①学歴別未婚率

 まずは学歴について確認していきたい。低学歴の男性ほど未婚になりやすい。総務省「就業構造基本調査」(2017年)で学歴別に35~39歳の未婚率をみると、男性は大卒の未婚率が29.7%なのに対して、高卒の未婚率が38.8%と、9.2%もの差があった。一方女性は大卒の未婚率24.8%、大卒未満未婚率23.1%と大差がなかった(1.6%差)。(*「大学院」はボリュームが小さいため参考)

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 これは、社会構造(「大卒比率が男性で高く女性で低い」という構造)に関係なく、女性が学歴上昇婚を行っているということの証左だと考える。

 もし女性が配偶者選択において学歴選好していない(ランダムに選んでいる)のであれば、男性の大卒未婚率と高卒未婚率は等しくなるはずである。しかし男性においてのみ高卒未婚率が高かった。

 この結果は「女性が配偶者選択において高学歴を選好するから低学歴の男性ほど未婚になりやすい」(女性の上昇婚志向が作用した)と解釈するのが自然だろう。後述するが女性は男性と比べて結婚相手への経済的条件を重視し「上」を望むという調査結果があるからだ。

 (1)学歴上昇婚 ②夫婦学歴パターン分析

 学歴上昇婚は階層研究でおなじみの夫婦学歴パターン分析でも確認できる。福田・余田・茂木「日本における学歴同類婚の趨勢」(2017年、国立社会保障・人口問題研究所)では、学歴分布を統制した夫婦学歴パターンの推移について分析した結果、近年学歴同類婚の選好が優位になってきていること、大卒以上の女性の学歴下降婚回避が未だに残っていることが明らかになった。

「大学卒女性の下方婚への選好はランダム婚に比べてかなり弱いものであり,この負の選好のわずかな弱まりが,新たな結婚パターンの表出とまでいえるのかについては十分な確信をもつことができない」

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福田節也・余田翔平・茂木良平「日本における学歴同類婚の趨勢」(2017年、国立社会保障・人口問題研究所)より引用

 注意しておきたいのは、そもそも夫婦学歴パターン分析では未婚率が高まるほど同類婚傾向になりやすいというバイアスが生じるということだ。分析対象を夫婦に限定しているため、上昇婚志向が強いことで結婚できなかった女性がデータから欠落する(生存者バイアス)。未婚率が高まった昨今では生存者バイアスの影響は大きいだろう。にも関わらず女性の大卒下降婚回避傾向が確認できたということは意義深い。

 (2)収入上昇婚

 以上では学歴上昇婚が存在することが確認できた。しかし女性の配偶者選択行動において重要なのは「学歴」よりも「収入」である。第一に「出生動向基本調査」(2015年)では、18~34歳の未婚女性が結婚相手に「学歴」を重視する比率は約10%に対して「経済力」を重視する比率は約40%と約4倍もの差がある。第二に近年は大学進学が大衆化しており大卒内格差が拡大している。男女ともに大学進学率が5割に近づき、いわゆるFランク大学のような大学の卒業者の比率も増えている。Fランク大学の卒業者と難関大学の卒業者とでは同じ「大卒」でも質(学力や卒業後の年収)がかなり異なるだろう。そこで、以下では収入上昇婚の存在についても明らかにしていきたい。

 (2)収入上昇婚 ①収入別未婚率分析

 低年収の男性ほど未婚になりやすい。総務省「就業構造基本調査」で年収区分別の未婚率をみると、男性はどの年齢区分においても、年収が低いほど未婚率が高くなる傾向がみられた。また2007年に比べて、2017年の方がその傾向が強まっている。もし女性が配偶者選択において年収選好していない(ランダムに選んでいる)のであれば、このような傾向は出ないはずである。「女性に上昇婚志向が作用した」と解釈するのが自然だろう。

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 (2)収入上昇婚 ②夫婦収入パターン分析

 収入上昇婚は夫婦年収パターンの分析でも確認できる。総務省「就業構造基本調査」(2017年)で、妻(30~49歳)の年収別の夫の年収構成比をみると、妻の年収が高まるほど夫の年収構成比の最頻値が高まる傾向が確認できる。逆に夫(30~49歳)の年収別の妻の年収構成比とみると夫の年収が高まっても妻の年収構成比の最頻値は100万円未満~100万円台に留まる。

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 このように女性が自分の経済的地位が高いほど、選ぶ相手の経済的地位も高い、というスライドが生じる背景には女性に「自分より同等以上の相手を選びたい」という上昇婚志向があるからだと考えるのが自然であろう。
(*有配偶者の年収の分析では、有配偶女性は妊娠・出産をきっかけに働き方を変える(短時間・低賃金へ)傾向を考慮してみる必要がある。ただ年収300万円以上などフルタイム勤務だと思われる年収区分については参考になるだろう)

2. 上昇婚志向は存在する

 ここからは上昇婚志向について確認していく。上昇婚が結果(婚姻)であるならば、上昇婚志向はその背後にある原因(意識)である。 

 (1)経済力・職業を重視する

 女性は男性よりも結婚相手に経済力や職業を重視する傾向がある。内閣府「出生動向基本調査・独身者調査」(2015年)で未婚18~34歳の「結婚相手に重視する条件」の質問で「経済力」「職業」と回答した比率をみると、女性(経済力39.8%、職業30.0%)の方が男性(経済力4.7%、職業6.0%)よりも顕著に高かった。

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 (2)自分よりも上を求める

 さらに詳しくみると、女性は男性よりも結婚相手に対して自分よりも「上」の学歴や収入を望んでいることがわかった。内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」(2018年)で未婚20~49歳の「結婚相手に希望する学歴」の質問で「自分より高学歴」と回答した比率をみると、女性(40.6%)の方が男性(15.9%)よりも顕著に高かった。

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 また、「結婚相手に希望する年収の理由」の質問でも、「自分の収入より多い方がいいから」と回答した比率は、女性(44.2%)の方が男性(7.0%)よりも顕著に高かった。

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3. 女性の地位が高まったのに上昇婚志向が強まった

 ここでは「女性は経済的地位を高めても結婚相手への経済的条件の重視度を緩めるどころか、むしろ強めてしまう」という事実を明らかにし、ここまでとは違った別の角度から上昇婚志向の存在を裏付ける。

 (1)時系列分析

 近年女性の経済的地位の向上が著しい。総務省「賃金構造基本統計調査」によると男女賃金格差(男性の賃金を1としたときの女性の賃金の比率)はバブル崩壊直後の1995年では0.62であったが2018年には0.73となり男性と女性の賃金の水準が接近している。その間の賃金の上昇幅は男性が+7.6千円と伸び悩んでいるのに対して女性は+41.3千円と大きく伸びている。

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 女性が賃金を伸ばし男性に接近したのであれば、結婚資金の心配がなくなり、より年収の低い男性を許容することができる。しかし女性はそうはならなかった。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」で未婚18~34歳の「結婚相手で重視する点」の「学歴」「職業」「経済力」と回答する比率をみると、女性はバブル後に全体として高まる傾向にある(2010年→2015年では若干減少したが…)。一方男性はほとんど変化していない。

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(2)地位別分析

 このような時系列変化が生じた背景について確認する。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査・独身者調査」(2015年)で未婚18~34歳の「結婚相手に重視する条件」の質問で「経済力」と回答した比率を学歴別にみると、男性は高校4.7%、大卒・大学院4.5%(差-0.2%)。女性は高校34.1%、大卒・大学院43.0%(差+8.9%)。女性の方が学歴が高まるほど結婚相手への経済的条件を重視する傾向が強かった。

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 また、勤め先従業員数別にみても、男性は1~99人4.9%、1,000人以上3.7%(差-1.2%)。女性は1~99人だと37.0%、1,000人以上だと44.7%(差+7.7%)。女性の方が勤め先従業員数が高まるほど結婚相手への経済的条件を重視する傾向が強かった。

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 このように「女性が自分の経済的地位を高める→結婚相手への経済的地位を重視度を高める」というスライドが生じるのは、女性に「自分より同等以上の相手を選びたい」という上昇婚志向があるからだと考えるのが自然であろう。

 つまり時系列で女性が経済的地位を高めたのに男性に対する経済的条件への重視度を緩めずむしろ高めたという変化が生じたのは、女性が上昇婚志向を弱めないまま経済的地位の高めてしまったからだと考えられる。

 これは、私が「女性は高望みをやめた方がいい」と主張するときによく反論として寄せられる「女性がもっと稼げるようになれば(余裕ができ)低年収男性を選ぶようになる」という一見もっともらしい意見が単純に間違っていることを示している。

4. 日本女性の上昇婚は強い

 さて、以上では日本の女性に上昇婚・上昇婚志向が存在することを明らかにした。ここからは、日本の女性の上昇婚・上昇婚志向の度合いが強いのかどうかについて確認する。

 (1)世界との比較 ①学歴

 日本の女性は世界と比べて、学歴で男性を選別する度合いが強い。ISSP国際比較調査「宗教」(2018年)で、男性(30~49歳)の学歴を「大学未満」と「大学以上」に分けて未婚率を比較すると、日本は「大学以上未婚率」を100としたときの「大卒以上未婚率」の値が先進19か国の中で2位と高かった。つまり日本は「学歴が低いと未婚率が高まる」という傾向が強い国だというわけである。これは日本の女性が社会的な地位の高い男性を好む傾向が強いためだろう。

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 (1)世界との比較 収入

 日本女性は世界の中でも年収で配偶者を選択する度合いが強い。ISSP国際比較調査「宗教」(2018年)で、男性(30~49歳)の「有配偶」と「未婚」の収入を比較すると、日本は「有配偶」の収入を100としたときの「未婚」の収入の値が先進19か国の中で16位と低かった。つまり日本は未婚者に低年収層が集まりやすく、有配偶者に高年収層が集まりやすいという傾向が強いわけである。これは日本の女性が収入の高い男性を好む傾向が強いためだろう。

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 (2)男性の実態とのギャップ

 現在女性が望む年収の男性はほとんどいない。未婚女性(20~39歳)の「結婚相手に求める年収」の平均換算は512万円であるのに対して、未婚男性(20~39歳)の「実際の年収」の平均換算は298万円である。女性は男性の実際の年収よりも200万円も高望みしている。 

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5. 上昇婚の原因(仮説)

 女性が上昇婚・上昇婚志向をする理由の仮説は以下の3点である。

①生理的反応:自分より下の男性を選びたくないという本能
②経済合理性:結婚・出産に関わるコストを男性の年収として期待する
③価値観:「男性が主な稼ぎ手になるべきだ」という性役割意識

 それが「高望み」になっている理由の仮説は、以下の3点である。

男性の収入が伸び悩む中で、
①女性が社会的・経済的な地位を高めてきたのに下の男性を許容しないから
②時代変化(若者のリスク回避志向の高まり)、古い基準の内面化(豊かな時代に財を築いた親世代から施された教育や生活を「普通」として基準にしている)によって結婚・出産に関わるコストを過大に見積もっているから
③日本において性役割分業の解除が遅れているから(専業主婦が減り女性の就業率は高まったが、パートタイム主婦が増えており、本質的には男性がメインの稼ぎ手であるという状況が変わっていない)

 女性の上昇婚・高望みの本能的な部分は変わらないかもしれないが、経済合理性や価値観の部分を変えていくことで幾分かは弱めることができるのではなかろうか。

6. 上昇婚への対応

 (1)男性の対応

 女性の上昇婚志向の高さは男性のモテと関係している。男性にとって女性の上昇婚志向が高まることは結婚しにくさにつながる。婚活を意識する男性にとっては女性の上昇婚志向の性質を理解し、対応していく必要が出てくる。

 上昇婚志向において、女性の認識する「上」は相対的なものだと理解することは重要である。女性は認識する社会によって「上」の内容が変わってくる。例えば、ライフステージによって「上」は異なる。中学校では、スポーツができる人が上であり、大学生では、爽やかでコミュ力が高い人が「上」であり、社会人になると、仕事ができる人、地位やお金がある人が「上」になる。

 また、男性の社会的・経済的地位の格差の度合いによっても「上」の水準が変わってくる。例えば、都会のように年収の高い人と低い人の格差が大きい社会では「上」の水準が非現実的に高くなる傾向があるが、田舎のような年収が200~300万円で平等化している社会では「上」の水準が現実的に低くなる傾向がある。

 このような性質を踏まえると、女性の上昇婚・上昇婚志向によって非モテを被っている男性としては、自分が「上」になれる社会に移動する(例えば特技が活かせる会社)か、男性の経済的地位の平等度が高い社会(例えば田舎のように男性の年収構成比が200~300万円に集中する社会)に移動することが、有効である。

 (2)女性の対応

 女性が高望みをやめることにはメリットが多い。女性個人のメリットとしては、結婚しやすくなるという点がある。経済的な高望みをやめることで選べる男性の範囲を広げることになるからだ。選べる男性の範囲を広げることは長期的なパートナーシップに向いている価値観、性格、趣味などの相性の良い男性を探せる可能性を高められる。そして、女性も男性ほどではないが、未婚と比べると有配偶の方が幸福である。(*ただし詳細な分析の結果、女性の有配偶の幸福度の高さは限定的で特に小さな子がいることによる効果が大きいことが明らかになった)

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内閣府「生活の質に関する調査結果」(2012年)よりグラフ引用

 女性が高望みをやめることは社会的メリットにもなる。①日本の少子化対策になる、②男性の幸福度を高められる、③日本の男女平等度を高められる という3点だ。

 ①については現在未婚者において経済的な理由で結婚できない人が多いため女性が高望みをやめればマッチング機会が増えるだろう。

 ②については、日本男性は幸福度が低い。それは未婚男性の幸福度が低いことが寄与している。日本では家族以外の共同体の希薄なので未婚男性は孤立しやすい。女性が高望みをやめマッチングが増えれば男性の幸福度が高まるだろう。

 ③については女性が高望みをやめ低年収男性とマッチングすれば男女の年収差が少ない共働きが増えるので男女賃金格差が解消していく。また女性が働く割合が増えれば、家事・育児をする男性も増えていく。

 女性が未婚男性の年収分布や時代の趨勢(夫婦300万円で世帯年収600万円にしていくような発想)を知ることで、高望みの修正が期待できる。

コラム
「”上昇婚は存在しない”派」と「”上昇婚は存在する”派」に二分する理由
 近年「上昇婚は存在しない」「上昇婚は存在する」という別々の立場の記事やブログが乱立している。
 そもそも「上昇婚」という概念は階層研究において「社会における機会の平等がどの程度達成されているのか」という問題意識のもと利用されてきた。例えば「同類婚の比率が高いほどその社会での学歴再生産や階層固定化の度合いが強い」などである。実証においては「夫婦学歴パターン」を分析するのが一般的である。
 しかし近年「少子化問題」「婚活ブーム」「非モテ問題」への関心が高まり女性の配偶者選択行動を理解する目的において「上昇婚」の概念が利用される頻度が高まってきた。
 「上昇婚は存在しない」と主張する人は、階層研究の立場に立ち、夫婦学歴パターン分析の「学歴同類婚が主流」という数的根拠を元に「上昇婚は存在しない」と主張している。(ちなみに本noteでは学歴においても「上昇婚は存在する」ことを明らかにしている)
 一方「上昇婚は存在する」と主張する人は、女性の配偶者選択行動の理解を目的として、夫婦学歴パターン分析にこだわらない数的根拠(未婚率分析、未婚者の意識分析なども加味)を元に「上昇婚は存在する」と主張している。このような立場や目的の違いがあるため分析方法が異なり、それぞれ別々の結果が出てくるわけである。
 そもそも「上昇婚」という概念が階層研究に限定される理由はない。近年「上昇婚」の概念の利用が広まったのは「上昇婚」という概念が女性の配偶者選択行動を説明する上で有効だったからだろう。ならば「上昇婚」の概念を広く捉えなおして様々な角度から探求していくことの方が学術的な態度ではなかろうか。
 ちなみに本note記事では「学歴」「収入」「有配偶者」「未婚者」のすべての要素を検討することでこのような立場性に関係なく「上昇婚は存在する」ということを明らかにしている。
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