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男性のつらさの構造

 元農水省事務次官がひきこもりの子を殺害した事件にやるせない気持ちになった。なぜならそこには「男性のつらさ」問題がすべて凝縮されていたからである。

男性のつらさ

 男性のつらさの構造を明らかにするために、男性のつらさの社会問題としてよく取り上げられる「自殺」「ひきこもり」「ホームレス」「長時間労働」に共通する原因を考察した。

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 結論から述べると、「自殺」「ひきこもり」「ホームレス」「長時間労働」につながる「男性のつらさ」には「性役割」と「孤立」が強く影響している。男性の「性役割」に関わるつらさは、女性の結婚相手への「経済的期待」によって引き起こされ、男性の「孤立」は、男性が存在として嫌われていることによって、家族以外の人間関係の構築が難しくなることによって引き起こされている。

 上記を仮説モデルとして図示したのが以下の通りである。このnote記事では、この仮説モデルにしたがって述べていきたい。

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男性のつらさの原因①:性役割

女性の期待が男性を性役割に駆り立てる

 性役割意識は弱まっている。「SSM調査」では「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という性役割意識に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した比率は男女ともに減少している。

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 性役割意識が弱まっているのに、女性が男性に対して経済力を求める意識は逆に高まっている。「出生動向基本調査」の「結婚相手の条件で重視する点」では「職業」「経済力」と回答する比率は男性に比べると女性の方が顕著に高い。また、時系列でみても「職業」「経済力」と回答する女性の比率は、2010年から一段と増加している。

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 実際、年収が低い男性は結婚できない。「就業構造基本調査」で35~54歳の年収階層別の未婚率をみると、”年収が低いほど未婚率が高まる”という傾向が鮮明である。また2007年よりも2017年においてその傾向が強まっている。

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 時系列では性役割意識が弱まっているのに、結婚相手を選定する場面において、むしろ男性に「経済力」「職業」を期待する意識は高まっている。

 このような状況では、男性が結婚を望む場合、「経済力」「職業」を向上しなければならず、性役割の実現が適応的な行動だということになる。

性役割の実現が難しい時代

 女性は、年収約500万円の男性を望んでいる。内閣府「少子化社会対策に関する意識調査」(2018年)では、未婚女性20~39歳の「結婚生活を送るに当たって相手に求める年収(税込)」の平均値は512万円(金額回答者ベース)であった。

 一方で、年収500万円以上を稼げる男性の比率はこの20年間(1997年→2017年)で大幅に減少している。特に減少幅が大きい年齢区分をみると、40~44歳で16.1pt、35~39歳で15.7pt減少した。平均初婚年齢に近い25~29歳と30~34歳では、そもそも年収500万円以上を稼げる人は少数派である。

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 バブル崩壊後に日本型雇用慣行が崩壊したことで、男性が、女性の期待する水準の「経済力」を獲得することが難しくなっている。結婚願望のある男性は、昔より苛烈な競争を勝ち抜かなければならなくなっている。

性役割から降りた男性の結末

 「そんなにつらいのなら逃げてしまえばいいじゃないか」そんな素朴な疑問が先週twitterで話題になった。小渕花梨は次のようなことを述べている。

 しかし、性役割(稼ぐこと)から降りることは、女性の期待(男性に経済力を求める)にこたえられないということなので未婚になる可能性が高まる。日本で男性が未婚になると、幸福度が非常に低い状態になる。日本の未婚男性の幸福度得点は先進25か国別、有配偶-未婚別、男性-女性別の組み合わせの中で最も低い値である。

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 性役割から降りると、男性はさらにつらくなるのである。

 男性に対して「女性に選ばれるかどうかは重要じゃないんだよ」というアドバイスは軽々しくできるものではない。

コラム:草食男子の惨状

 「草食男子」とは「ガツガツしておらず積極的ではない男性」という意味合いで、従来のジェンダーロール像とは異なった男性の在り方として、2009年に爆発的に普及して以降、定着した。「若い男性が料理をする・育児に前向きである」という新しさが注目され、不況の時代に身近な生活を充実させるスマートな生き方として肯定的に評価された。しかしその後、この世代の性意識(性のイメージ、性への関心)・性行動(性交経験率、交際率などの)が低下し、未婚率が上昇した。これは草食男子が女性のニーズとマッチしていなかったからである。女性が、草食男子を否定的に捉えるアンケート結果は複数ある。草食男子の失敗を見てか、「青少年の性行動調査」において男性大学生では2011年に下がっていた「男性は女性をリードすべき」という性役割意識が2017年に再び高まったのである。

男性のつらさの原因②:孤立

孤立=心身の健康に重要なソーシャルサポートの不足

 ソーシャルサポートとは、「援助・支援を求めることができる人間関係」のことである。ソーシャルサポートの形には「情緒的サポート」(共感、愛情など)、「道具的サポート」(お金や物の提供、手伝いなど)がある。ソーシャルサポートにはストレス緩和効果があり心身の健康にとって重要な働きをするという実証研究が数多く存在する。

 孤立は、ソーシャルサポートを受けられない状態になるということと等しいため、心身の健康にとっても影響する重要な問題なのである。

未婚男性は孤立しやすくソーシャルサポートが少ない

 男性であること、未婚であることは、孤立しやすく、ソーシャルサポートが少なくなる。ここではソーシャルサポートの指標として「悩み事や心配事を相談できる人(複数回答)」の比率を確認する。

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 女性は男性と比べると、未婚と有配偶に関わらず、「悩み事や心配事を相談できる人」の比率が総じて高い。特に「親」「子ども」「兄弟姉妹・その他の家族親せき」「その他の友人・知人・恋人」において男性との差が生じている。

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 また、有配偶は未婚と比べると、「配偶者」がいることの意味が大きい。「配偶者」は「悩み事や心配事を相談できる人」としての比率が高いだけではなく、友人、知人、同僚などよりも、より多く接するし、より親密な存在だからである。

 未婚男性には、その配偶者がいないだけでなく、女性よりも家族、親族、友人・知人・恋人とのつながりが少ないため、ソーシャルサポートの得やすさという点では最も厳しい状況におかれている。

男性の孤立の原因:存在が薄っすら嫌われている

 それでは、なぜ男性は様々なつながりが女性と比べて少ないのだろうか。インターネットの男女論では「男性は薄っすら嫌われている」という仮説がある。「男性は薄っすら嫌われている」ことを定量的に明らかにしようとした学術論文や調査を探してみたものの、見つけることができなかった(かなり探した)。そこで、筆者が調査を企画し調査会社に実施を依頼することにした。

【調査概要】
  ■調査名称:日常場面に関するインターネット調査
  ■調査手法:インターネット調査
  ■調査方法:質問文の一部を変えた4つの調査を実施
  ■調査期間:2021年1月7日(木)~2021年1月8日(金)
  ■調査対象:全国の20~59歳の男女
  ■標本サイズ:1調査あたり400(4つの調査を実施)
  ■回収方法:均等割付(性別年代別8セル各50名ずつ)
  ■調査企画:すもも(@sumomodane)
  ■調査実施:株式会社クロス・マーケティング

 「新幹線の2人掛けの席で〇〇と相席になったときにどう感じるか」という場面を設定し「〇〇」の部分を「若い女性」「中年女性」「若い男性」「中年男性」と入れ替えた4パターンの調査を別々に実施することで、バイアスを極力減らして、男女に由来する「存在としての”好かれやすさ”、”嫌われやすさ”」の程度を測定できるのではないかと考えた。

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 「嫌な気分になる」計の比率をみると、「中年男性」(67.7%)「若い男性」(59.4%)「中年女性」(45.7%)「若い女性」(32.0%)の順に嫌われていることが明らかになった。女性に比べて、男性の方が嫌われやすいことが明らかになった。特に若い男性よりも中年男性の方が嫌われやすい。

 男性であるというだけで嫌われやすいということは、日常生活において、他人から否定的なリアクションを受ける機会が多く、人間関係の構築を難しくし、ソーシャルサポートを得にくくし、男性の生きづらさにつながる。個人の快適さが重視され、不快な存在への寛容度が減っている現代社会においては、なおさらであろう。

男性の孤独化の外部要因:他人に冷たい日本の文化

 日本では、家族関係以外の人間関係を敬遠する風潮がある。「世界価値観調査」では、「初対面の人への信用」(信用する計)は先進25か国中ワースト2位で、13.0%しかない。

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 また、日本は、家族以外の社会や地域における信頼関係やつながりを表す「ソーシャル・キャピタル」が低い。2020年度版「レガタム繁栄指数」によると、総合順位は167か国中19位と上位であったが、構成指標の1つである「ソーシャルキャピタル」のみが140位と突出して低かった。

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(*「レガタム繁栄指数」における「ソーシャルキャピタル」は具体的には、友人をつくるきっかけ、援助行動への態度、団体への信頼、寄付、ボランティア、政治参加などによって測定される。)

 つまり、日本においては、家族以外の社会的つながりを構築するのが難しい文化がある。このことが、薄っすら嫌われている男性にとって、より孤立に向かわせる圧力として働いているのである。

フェミニズムが男性をつらくする

 近年のフェミニズムが進めようとしていることは、男性、それも弱者男性をつらくすることばかりである。

 第一に、フェミニズムは性的な表現に対して批判的である。法規制までは求めていないものの、フェミニズムの影響を受けた個々人がSNSや署名サイトを使って圧力活動を展開することで、結果的に表現削除にまで追い込んでいる。以下は、性的な表現に対するツイッターフェミニストの圧力活動の一覧表である(ニュース記事に掲載されたりした有名なもの)。2014年の人工知能学会の件から始まり年々増加しており内容も些細なものまで圧力の対象になるようになってきている。

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 性的な表現は、お金もなく、性的パートナーもおらず、情緒的サポートを得にくい弱者男性にとって重要なケア手段になっている。このようなツイッターフェミニストによる圧力活動は、弱者男性のセーフティネットに対する侵害行為であり「弱い者いじめ」であろう。

 第二に、近年のフェミニズムは、男女関係における女性の性的リスクの排除に積極的である。女性の性的リスクにつながりうる男性の行為を抑制するため「加害」「ハラスメント」といったセンセーショナルな言葉を安易に用い、その該当要件についても、客観性よりも、”女性がどう受けとめたのか”という主観性によって決められるべきだと主張する。そのためフェミニズムの影響を受けている女性は、誰もが問題だと認めるようなセクハラばかりではなく、女性に声をかける(例えばナンパ)、女性を見るなどのような「ちょっとした不快」のレベルまでも「加害」「ハラスメント」と認識しやすくなる。また、近年「性的同意」の条件を厳しくしようとする動きも活発である。このように、女性と関わると思わぬところで加害者になってしまいかねないような考え方が広がってきたことで、そのリスク回避として「異性と関わりたくない」という男性も増えているようだ。

女性と関わりたい男性にとっても、上記のようなフェミニズムのトレンドは単純にアプローチをするコストを増やすことにつながっている。今の男性にとっては女性から選ばれるためには、経済的なハードルが高まっているばかりではなく、アプローチをするハードルまでも高まっているわけである。

男性学も男性をつらくする

 男性学も男性をつらくする。既存の男性学の典型的な主張は、

①男性は女性に対する加害性を自覚して向き合え
②男性が生きづらいのは”男らしさ”に縛られているからであり”男らしさ”から降りれば楽になる

というものだ。

 ①に関しては、そのような抽象的なレベルで思い詰めてしまっても自尊心を損なってしまうだけであまり実りがないだろうし、女性も男性に対して加害的なことをするけれど、男性だけが反省を求められるのは一方的だろう。

 ②に関しては、ここまでで述べた通り、男性が男らしさ”から降りれば女性のニーズを満たせないので未婚化、孤立化し、幸福度が非常に低い状態になる。

 このように男性が男性学の主張を真に受けてしまうと、つらくなってしまうばかりである。なぜ男性学という名前なのにそうなってしまうかというと、男性学がフェミニズムをベースとした学問であるためフェミニズムに恭順する範囲内でしか男性の問題を語れないからである。

男性のつらさを改善するためには、まずは女性の意識改革が必要

 男性のつらさを社会的に改善する方法で、もっとも現実的かつ効果的であるのは女性の意識改革である。現状では女性が男性に過度に経済力を期待しているため、お金のない男性の未婚率を高め、家計においては稼ぎ手としてプレッシャーを与えることになっている。

 前述したように今の経済状況において男性が年収500万円以上稼ぐことは難しくなっている。その一方で男女の賃金格差は縮小し稼げる女性が増えているにも関わらず、女性はいまだに男性に年収500万円を望んでいる。女性が年収500万円の男性を期待するのは男性がメインの稼ぎ手で女性は出産後にパートをするという古い男女役割モデルを想定しているからだろう。

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 女性が「今の社会では年収500万円の男性なんて希少なんだ」「今の社会では共働きで夫婦各300万円(世帯年収600万円)くらいでやっていくのが普通なんだ」と、認識をアップデートをすることは、少子高齢化社会の労働力不足解消にも男女平等にもつながるため政策的に後押しされる可能性が高く、実現可能性が高い。

 フェミニズムの大御所、上野千鶴子・東京大学名誉教授も、以下の記事の中で、次のように述べている。

「年収300万円の男性と結婚して
出産後も共働きを続けるのが“女の生きる道”」

 現代の日本のような、男性に生きづらさが集中している状況を今変えていかなければ、将来男児を出産するかもしれない女性にとっても、大きなしっぺ返しとなるだろう。

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