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日記あおにさい

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写真家 工藤葵による日記
運営しているクリエイター

#私の仕事

老人ホームの看護師 スローグッバイ

老人ホームの看護師として働く傍ら、写真・映像のお仕事、架空の酒屋「あおにさい酒店」としてイベント開催、老舗の地ビール会社「横浜ビール」と共に新成人、大学生へエールを贈る「カンパイ・ニュー・ワタシ」プロジェクトの進行、来春自費出版する「雑誌あおにさい(テーマはビールのある場所、振り返ればハレの日)」の制作などをしてきた2019年の私。 精神的な意味で「結局何がしたいのか?」を考えた1年だった。感情に訴えるような話ではなく「結局何で生きているのか?」って話だし、私のポップな「死

彼女と私の大喜利合戦

職場の老人ホーム、夜勤の記憶。 ①母乳 センサー反応にて訪室。「チビをやっと寝かしつけたんだ。」と言う彼女。とりあえず、起きたついでにトイレへ寄るか確認するも「行かね。」と。更に「おめの妹の子だろ?」「ミルクやったよ。」と言い放たれる。「いつも妹がお世話になってます。ゆっくり休んで下さい。」と伝えると「ハッハッハ!」と笑い満足されたのか臥床。 ②山菜取り センサー反応にて訪室。「ぜんまい採りに行きたいんだけど、どうすれば良いかなって…。」と。「今は夜中なので山へ行くに

光のはなし

今、生きる感覚がしっくりきている。女子高生時代、陸上に命をかけていた私を超える熱と光を持っている。それはもう、楽しくて楽しくて悔しいことばかり。青春と呼べる出来事は走ることが全てだった。走る事が好きで、跳ぶことは気持ち良い。中学まで長らく中距離を専門にしていた私は走り幅跳びに転向した。本能レベルで刻まれた助走のリズムは14歩。徐々に加速し最後の3歩で空へ舞う。瞬く間にふと身体が浮く感覚が忘れられない。これは多分、光。 己の感覚で気持ちの良い瞬間を越えていく陸上が好きだった。

慣れない化粧

80を超えたと思えない肌はツヤっとしていてシンプルに羨ましいと思った。彼女が愛用していた保湿ジェルをたっぷり染み込ませ、優しく肌に触れていく。化粧下地とファンデーションクリーム、ほんの少しピンク色の紅を合わせる。また、触れていく。今更、手が震える事も無かった。 「母はすっぴんを見せてくれなくて。」 「体調を壊して、ここ(老人ホーム)に来てからです、化粧をしていない母を見たのは。」 彼女が息を引き取るまでの数時間、共に過ごした娘さんがぽつり呟いた。そうか、知らなかったな。も