仮想通貨詐欺被害は税金(所得税)から控除できる?
仮想通貨取引を行っている方の中にはラグプルやGOXのような仮想通貨詐欺に遭ったら、所得からその被害金額を控除できるのかなど気になる方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、仮想通貨で発生する可能性のある被害についてご紹介するとともに、それぞれの税金上の取り扱いについて、ケース別に解説していきます。
仮想通貨の詐欺の主な手法
仮想通貨の詐欺により資産を失ってしまった場合、税金計算上被害額を経費計上したり、控除を受けたりすることができるかどうかは、多くの投資家にとって大きな関心点であることでしょう。
仮想通貨を悪用した詐欺には以下、代表的な3種類の詐欺があります。
ラグプル
ラグプル(Rug Pull)とは、仮想通貨のプロジェクトで資金を集めたのち、それを持ち逃げする詐欺手法の総称です。
日本語では出口詐欺とも呼ばれています。
プロジェクト創始者などが、高い利回りでの分配を約束したり、コインの値上がりを確信させるような形で投資家に仮想通貨を販売し、そのまま失踪してしまうというケースがよく知られています。
仮想通貨で資金を集めるICO(Initial Coin Offering)がブームとなった2017年~2018年に大きな問題となった詐欺手法ですが、現在でも身近な危険として警戒が必要です。
また、近年では「ハード・ラグプル」と呼ばれる、スマートコントラクトに詐欺的な機能を組み込む手法も発生しています。
これは購入した仮想通貨を売却できない機能や、DEXの流動性プールから出金できない機能など、投資家の資金を機械的に騙し取るといったものです。
DeFiやDEXなどを使う際は、信用できるサービスであるか、十分に確認する必要があるでしょう。ラグプルの手口や対策ついてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
ゼロトランスファー詐欺
続いてゼロ・トランスファー(Zero transfer)とは、被害者のウォレットアドレスによく似た偽のアドレスを利用し、資金を騙し取る詐欺手法のことです。アドレスポイズニング詐欺とも呼ばれています。
仮想通貨のウォレットアドレスは、膨大な計算を行うことで、ある程度任意の文字列を含ませたアドレスを生成する方法があります。
詐欺師はこの方法を悪用し、被害者のアドレスと頭の数文字と終わりの数文字が同じアドレスを生成し、そのアドレスから被害者のウォレットにゼロに近いごく微量の仮想通貨を送信します。
こうすることで被害者のウォレット履歴には偽のアドレスが紛れ込むことになります。
被害者が、履歴からアドレスをコピー&ペーストして使用する際、誤って偽のアドレスをコピーし送金してしまうことを狙った手法です。
ウォレットアドレスの最初と最後の数文字だけを確認している場合、騙されてしまう可能性が高い詐欺と言えるでしょう。
GOX
最後に、GOX(ゴックス)とは、保有している仮想通貨を失うことや、引き出せなくなること全般を指します 。
2014年に、当時の大手仮想通貨取引所「マウントゴックス」がハッキング被害を受け、ビットコインや預り金の大半が流出してしまった「マウントゴックス事件」が転じて、預けた資金が失われることが「GOX」と呼ばれるようになりました。
なお、預け先の取引所などがハッキング被害を受けたことで仮想通貨を失うことは「GOX」と呼ばれ、自らのミス(誤送金など)で仮想通貨を失うことは「セルフGOX」と呼ばれています。
セルフGOXについては本人の過失が原因であり、必ずしも詐欺被害とはいえないケースも多く存在します。しかし、前述したゼロトランスファー詐欺のように、本人のミスを誘発しようとする詐欺手法も多く存在するため、注意が必要です。
セルフGOXを防ぐ対策や、過去のGOX事例などの詳細はこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
被害額を経費計上できる場合とは
仮想通貨取引で詐欺にあってしまった場合、その被害額を損失計上できるかどうかは所得の種類に応じて変わってきます。
基本的に、個人の投資として雑所得で認識している場合は、貸倒損失として損失計上が可能です。
貸倒損失として計上できる場合
貸倒損失の計上とは、取引相手に対する債権が回収できなくなった(貸し倒れた)場合に、その分を損失として計上することをいいます。
例えば、仮想通貨取引所が詐欺被害やハッキング被害にあった結果として倒産してしまった場合は、投資家から見れば預けていた債権が回収できなくなったことを意味します。
そのためこのようなケースでは、貸倒損失として計上できる可能性があるのです。
ただし、この場合であっても法的な倒産などの貸倒損失の要件を満たす必要がありますので、該当する可能性がある場合は税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
また、被害額を直接的に経費計上できない場合であっても、一定の条件に合致する場合は雑損控除を適用できる可能性もあります。
雑損控除が受けられる場合
仮想通貨を失った原因が外部からのハッキングなどによるGOX、すなわち盗難に該当する場合は、雑損控除を受けられる可能性があります。
雑損控除とは、災害・盗難・横領などを原因として、資産に損害を受けた場合に受けられる所得控除のことです。
【雑損控除の控除額】
次の(1)と(2)のうちいずれか多い方の金額
(1) (損害金額 + 災害等関連支出の金額-保険金等の額) - (総所得金額等) × 10%
(2) (災害関連支出の金額-保険金等の額) - 5万円
参照元:国税庁|No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
上記のように、計算式に基づいて損害金額の一部を所得から控除することができます。
ただし、雑損控除を受けるためには盗難を受けた事実の証明(被害届の提出など)に加え、盗難を受けた資産が「生活に通常必要でない資産」に該当しないことが求められますので、詳しくは税理士などの専門家に相談して確認することをお勧めします。
また仮想通貨を失った原因が、詐欺や自らの過失による場合はそもそも雑損控除の対象とはなりませんので注意が必要です。
さらに、事業として仮想通貨取引を行っている個人事業主や法人については、上記の2ケース以外の他にも、その業務遂行上の詐欺被害と認められる場合、被害額を経費計上できる可能性もあります。
これは、事業所得もしくは法人の場合は、事業として利用している資産の金額を申請する必要があり、この資産が詐欺によって明らかに毀損しているのであれば損失計上が可能となります。
ただし、こちらについても事業用の暗号資産が本当に毀損しているのかどうかをしっかりと説明する必要があるので、税理士等に相談の上、慎重に進めていきましょう。
まとめ
詐欺やGOXなどによって仮想通貨を失った場合、その被害額について経費計上したり、控除を受けられるケースは限定的となっています。
そのうえ、技術的にも一度失った仮想通貨はなかなか取り返すことが難しいのが現状です。
信頼できる仮想通貨取引所を選び、送金操作は慎重に確認するなど、日頃から大切な仮想通貨を守る対策を心がけることが、被害を防ぐ大切な第一歩と言えるでしょう。