「花を飾る」

家にいる時間が増えてからというもの、花を飾るようになった。

一輪のダリアのこともあるし、その日の気分に合う色で纏めた花束の時もある。花を買うお店も、服屋さんと一体になった−お洒落な人がやっているお洒落な花屋さん−のセンスに有り難くあやかる時もあれば、駅前のチェーン店の3本まとめて1000円をチョイスする時、果ては近所のスーパーの仏花の隣りにあるコーナーで、夕飯の買い出しのついでにサクッと、な時もある。とにかくどんな花でもいい、その日その時、自分の心にピンと来たものをお供にして帰る。これが、なんだかとても心地いい。

一日中深いため息が止まらない日でも、テーブルにちょこん、と飾ってある花を見ると「いやいや、もうちょっと余裕のある人間になろう」と、少し思い直せる機会を得た。それに、花を飾るだけで、例えば家の中をサーモグラフィーで見た時、きもーち赤い部分が上がっている、ような気もする。

「手に余る幸せ」ではなく、「手の中に収まる幸せ」

それこそが人生を豊かに彩っていくのだろう。

数年前までのわたしは、「もっと、もっと」お化けで、いつも自分がいる場所に満足できず、足りないものを数えてはどこかイライラしていた。

インテリアにもそこそこに興味は持っていたけれど、こだわりと呼べるほどのこだわりのない部屋で、「生活」というものをまるっとすっ飛ばして、表に見せる顔とは別に内側はもうカラッカラのまま、暗中模索で夢を生きていた。


「生活」を大事にするって、すっごい気持ちいいんだぞ!…と、その頃の私に大声で手を振りたい。自分が一番いる時間の長い場所を、自分が選んだ好きなもので埋めていくことは、やっぱり気分がいい。そしてこの「花を飾る」という、たったワンコインで手に入る小さな贅沢を、こっそり耳打ちで教えてあげたい。

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