伝わる鼓動

赤信号で車のブレーキをゆっくり踏む。少し雨が強くなる。

「なんかこの曲、さっきの私たちに似てない?」

「そうかな?」

「もしかして...」

その言葉を遮って僕は彼女にキスをした。



「お先です、お疲れさまです。」

「お、今日は早いな。」

「はい、今日はちょっと仕事抜けてでも行かないといけない用がありまして...」

この言葉で何かを察したように上司は一言僕に

「決めてこい」

そう笑顔で言った。


僕は28歳サラリーマン。

仕事にも慣れてきて、自分にも余裕ができてきた。

28歳というのもあって、周りの同級生や同期が次々に結婚していく中で取り残されているうちの一人だ。

そうは言っても僕には交際を初めて3年経つ彼女がいる。

歳は自分より2つ下でおとなしいがしっかり者の女の子だ。


仕事を早くに終わらせたのも今日は、彼女との夜景デートを予定していたからである。

昨日までは今日の天気が雨予報で雨男の自分を恨んだけれど、今日の朝見たときは降水確率40%。

微妙な確率だったがなんとか天気も持ちこたえてくれたようで、雲の隙間から光る星々を見ることができた。

「天気も今日はめずらしく、味方をしているな」

そう思った。


車で彼女の勤務先の近くのコンビニへ。

車を止めて5分くらい待っていると彼女が出てきた。

「おつかれさま」

「おつかれさま」

そうお互いの仕事の疲れを労い、車のアクセルを踏んだ。


予約していたレストラン駐車場に車を停め、店内へ。

なかなか仕事で頻繁に会うことのできない彼女とは会わない間に溜まっていたことを吐き出すように話が進んだ。

料理もとてもおいしくて彼女も満足しているようだ。

「幸せだな...」

「え?なんて?」

「え、いまなんか言ってた?」

「うん、よく聞こえなかったけど」

こころの声が漏れていた。

恥ずかしさに顔が赤くなる。

「だいじょうぶ?飲んでないよね?運転代わろうか?」

心配そうに僕を見つめる彼女も可愛いなあ。

と思いながらも

「いやいや、大丈夫だよ~」

と答えて料理に手を伸ばす。

こんな幸せな時間はあっという間に過ぎた。


「ちょっと連れて行きたいところがあるんだけど。」

「なになに、気になるな~。どこ行くの?」

「内緒。」

そういってレストランの駐車場をあとにした。


運転している間は運転者の好きな音楽をかけられるので僕の好きなアーティストの曲が流れる。

彼女も少しは聞いたことがあるようで曲を口ずさんでいた。


「着いたよ」

そういって車から出る。

「ここから2.3分歩いたところなんだ。」

「え~、何があるの?」

「それは着いてからのお楽しみってことで。手、引くから着くまで目閉じててくれる?」

「うん、わかった」

なにかされるんじゃないかと疑い深く彼女は僕を見たけれど、目を閉じた。


「目、開けていいよ」

その言葉に彼女はゆっくり目を覚ます。

「綺麗。」

連れてきたのは丘の上にある夜景の綺麗な場所。

場所を教えてくれたのは、上司。聞いたところによると、知っている人の少ない穴場だそうだ。

「こんなところがあったんだ。知らなかったな~」

「最近知ったんだ~。綺麗だね。」

「そうだね。」

左の温度を感じながら夜景を眺める。


48小節くらいの沈黙。

彼女は夜景を見たり、足下を見たりしていた。

君は今、何を思っているんだろう。

僕は1秒に3回脈を打つほどに緊張していて、時計を見ると秒針に急かされているような感じがした。

耳をすませばきっとバレしまうだろう。

覚悟は今日の朝決めた。

今夜、あの場所でプロポーズすると。

もうそろそろサビに向かわないとな。

全てを伝えよう。


星のもとで彼女の名前を呼ぶ。

彼女はいつも通り振り向く。


僕は星を横目に奇跡を願う。

左の温度が続きますようにと。

光を見下ろす丘の上で。


「僕と結婚してください。」



「喜んで。」




僕は丘を下るときにうれしさと緊張からの開放感、生まれた奇跡に涙を浮かべていた。

「ちょっと、なんで泣いてるの~!」

「いやだって、うれしくてさ...」

そんな会話をしながら車に乗り込む。

まだ鼓動は収まっていないようだ。


持ちこたえていた天気も限界のようで、フロントガラスに滴を落とす。


もう鼓動だってバレても気にしない。

僕はアクセルを踏んだ。

明日から始まる君との新しい日々にスタートを切るように。



坂道、白を告げて / sumika


読んで頂きありがとうございました。この話の流れを大まかにコピー用紙に書いているときから幸せが伝わってきて、自分も幸せな気持ちになりました笑。こんな素敵なプロポーズされたいなと思いました。男ですが。

アップテンポの曲ですが文章にすると、違った味が出ていいなとも思いました。ライブのセットリストでは毎回定番の曲ではないと今までの経験から思うので聴けたらかなりレアだと感じます。

この曲をリクエストしていただき、ありがとうございました。楽しみながら書くことができました。これからもリクエスト、感想お待ちしています。

最後になりますが改めて。

読んで頂きありがとうございました。ほかの作品も宜しくお願いします。



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