冷ます夜
夜の冷気は昼の心の高鳴りを落ち着かせ、大人の自分へと姿を変える。
「懐かしいな、あの頃もこんな気持ちだったか」
そう思いながら街頭に照らされた自宅への帰路をなぞるように体を動かした。
そう、あれは2年前の大学にも慣れてきた頃のこと...
「タケル頼みがあるんだけど...聞いてくれない?」
「珍しいな、おまえが頼み事なんて。いつも世話になってるし、聞くよ。」
「さすが心の友よ。聞いてくれ。〇日に合コンがあってだな...一人足りないんだけどタケルに参加して欲しいんだよ。飲み代は出すからさ~」
「そんなことか~、いいよ。ただで飲めるに越したことはないからな笑」
「ありがと~!詳細はまた連絡するわ~。」
そういってタクヤはまた別の用事があるからといって去っていった。
それはテストも終わって、夏の訪れを告げるように蝉が鳴く頃の出来事。
合コン当日。
タクヤは慣れているようだが、引き受けたものの合コン慣れしていない僕は少し緊張していた。
「タクヤ、今日一緒に飲む女の子ってどんな子なんだ?」
「ん?あー、そういえば言ってなかったな。〇〇女子大の子で友人の紹介で会ったことないからから初対面だな~」
「そうなんだ...人見知りだからそのときは助けてな笑」
「任せなさい。」
そういうやりとりをしている間に女の子も合流して合コンが始まった。
タクヤはかわいい系の方に気があるみたいで、相手も楽しそうで安心した。
僕の前には少し緊張気味で、おとなしそうな子が座っていた。
話してみるとその子もかわいい系の彼女に声をかけられて参加したようで、同じ境遇という話題から始まり、普段のことまで話して楽しい時間を過ごした。
合コンも終わり解散後、タクヤに聞くと連絡先もゲットしたようでとても上機嫌だった。という僕も流れで二人の連絡先をもらった訳なんだが...
体が火照っているのはきっとお酒のせいだろう。そんな体を夜の冷気が冷やす。足下のアスファルトはまだ日差しの熱を残し心地よかった。
それから数日、正面に座っていた女の子、サヤとは連絡を交わしていた。
ちょうど彼女の女子大の近くに行く用事があったので、彼女にそのことを伝えると少しお茶でもどうかと言われ、近くのカフェに入ることになった。
「久しぶりな感じがしないね。」
「そうだね。」
午後三時過ぎ、夏の日差しから逃げるように僕たちは店内に入った。
それからというもの彼女との会話は後から思い出せないほど、中身のない話であっという間に時間は過ぎていった。
部活帰りの学生が少しずつ増えていき、2回目に頼んだアイスティーもすっかり温くなってしまった。
休日ということもあるだろうが、男女のカップルもちらほらいるように思える。
その時、彼女は外を見て、かろうじて聞こえる声の大きさで言葉をこぼした。
「付き合ったら楽しいかもね」
え?いまなんて?
僕は動揺を顔に隠せなかった。体も心なしか店内の冷房に逆らうように、上がっていく気がする。
「どうしたの?」
彼女は僕の動揺を感じ取ったようにそう問いかける。
「いや、なんでもないよ。」
「なんか変な顔してたよ?笑」
そう言って彼女は笑顔を浮かべていた。
それから僕はこれまで話せていたのが嘘のように緊張して話せなくなった。
あれは外のカップルを見て言ったんだから自分に向けて言ったんじゃないよな...
心の中が大騒ぎしている。
「時間大丈夫?」
彼女の声で我に返る。
「ああ、飲み終わったら帰ろうか。」
そう言ったものの温いアイスティーは喉を通らず、飲めなかった。
あの言葉の意味を聞きたくて。
彼女とも別れ、一人になると夜の冷気が自分を包み火照った体と心を冷ましていく。
あの時の自分は子どもの反応だったなと少し苦笑いしながら、自分の城に帰る。まあ、ワンルームの一室なんだが笑。
夏が終わる。
「こんな出来事も『あの頃』と割り切って懐かしむのかな。」
そう思いながら僕は大人に姿を変え、夜の街に溶けた。
summer vacation / sumika
読んで頂きありがとうございました。
6作目になりました。自分もこんなに続けられているのに驚いています。
sumikaの中でも特に自分の好きな曲の物語が書けてうれしいです。
他の物語もぜひ読んでみてください。感想、コメント頂けると幸いです。
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