お雛様

雛飾り

しばらく押し入れで我慢させていたお雛様を飾ることができた。

七段飾りは場所も取るし、飾るのも仕舞うのも大変な手間で、お雛様は飾っても内裏雛のみというお宅が多い。

七段の場合、六畳間いっぱいのスペースが必要となる。
和室でなくてもリビングでもいいだろうが、飾った瞬間に、お雛様のための空間となってしまうため、生活する上では邪魔になってしまう。
なので、引っ越しする前の家では場所に余裕がなく、飾るのが不可能だった。
そして、仕舞っておくにも押し入れの半間分の収納スペースを取っていた。

だから、手放そうとしていた。
だが、何十年も大事にしてきた愛するお雛様である。
捨てるのではなく、病院や幼稚園、公民館などに飾ってもらいたく、そのような場所に寄付をするべく手を尽くしたが、あいにくどこも不要ということで、そのまま持っておくことにしたのだった。

幾年経てもなお煌びやかなお雛様を見ると、童心に帰り、思わず「灯りをつけましょ、ぼんぼりにー♪」と歌いだしてしまう。

……手放さなくてよかった…。

心の中で呟きながら、飾りつけをしていった。

七段飾りというのは、母から娘へ伝える大事な日本の伝統文化である。

毎度思うのは、収納のノウハウやお道具のひとつひとつを磨いたり、家事の手ほどきをするのにこれほど役に立つことはない。

相方が、飾りつけと後片付けを手伝いながら、

「しかし、毎回思うけど、よくできてるよなあ…」

と言う。

どれも理にかなっていて無駄なことがないのだ。

そして、ぼんぼりにしろ、欄干にしろ、みんな意味があり、三人官女、五人囃子、右大臣左大臣、それぞれ役割がある。

桜、橘、茶道具、御所車、御餅、膳揃い、箪笥や長持、鏡…。

それらの意味を教えるのは、幼き頃より叩き込む花嫁修業であった。

一度出した道具たちをどのように片づけるのか、お道具を入れた箱を空間を埋めながら大箱に格納するにはどうすればできるのか、人形たちはどうすれば綺麗なままでいられるのか、道具を傷つけずに仕舞うにはどうしたらいいか、漆はどういうものか、桐の箱はどういう効果があるのか、様々なことを伝授する良き機会なのだ。

「ずっと継承されてきた伝統文化ですからね。先人たちの知恵の結集ですよね」

失われつつあるこの伝統。

守ることができたらいいのに…。

「また来年ね」と言い、お雛様たちのお顔を包んでいった。



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