私みたいな私

金曜日の6時間目。うちの学校には探究活動という時間があって、普段の授業から発展して授業らしくない気楽なお楽しみ授業みたいな時間が設けられていた。
私は隣のクラスに移動してすみっこの方、日の当たる窓際に着席する。
「西宮、お前がこっちくるなんて思ってなかったぞ」
プリントを手渡しながら、担当の教師がそう言った。私は平然とした顔で「興味があったんで」と返す。色々言い分を考えていたけど、一番当たり障りのないものでいいやと思った。
渡されたプリントを黙々と解き始める。しかし、全然ついていけない。遠くの席に固まった人たちは相談しあっているが入れない。そりゃそうなのだ。私は今朝に彩未ちゃんたちとした会話を思い出した。

「探究活動どこ受ける?」
「料理がよくない?一緒にやろうよ!」
「文学作品の研究も良くない?」
「確かにー」
いつも一緒にいる5人メンバーで相談し、どこにするか決めていた。担任が友達と一緒にするなとか言っていたけど、お構い無しだ。まあ正直友達って似たような科目を好いているような気がする。
「真由は?」
話を聞いていただけだったので不意に聞かれて戸惑ってしまった。
「文学作品とか真由絶対好きじゃん?」

そう言われて納得してしまい、一度はその授業を選んだものの、直前になってこの化学の授業に変えてしまった。
完全に文系を専攻してきた私が、急に理系科目についていけるわけはなかった。文理選択の前に授業にあった化学基礎も点数は他のどの科目よりも低かったのを覚えている。
案の定答えは分からない。辛うじて埋めてみたところはきっと正答じゃない。先生が解説するも化学の授業を取っていない私には全くわからない。
授業が始まる前、彩未が言ったことがよぎる。
「え、真由あんなに本好きなのに化学にしたの?あれめっちゃ普通に授業だよね。真由っぽくないー」
ああそうだ、私は本が好きだ。それの授業だなんて飛び付くに決まっていた。
私っぽくない。らしくない選択。


……ってなんだ。
今まで好きだと言ってなかったららしくないのか。らしさってなんだ。イメージ=自分じゃないだろう。
確かに全然解けないし、解説もわからなくて、友達も一緒じゃないし、授業内容は堅苦しい。この教室の中心に集まっているのは頭のいい理系メンバーで、皆仲良さそうに話し合っている。
私はすみっこで揺れるカーテンに隠れながらひっそりとしている。
きっと彩未たちと一緒の選択をしていたら楽しかった。だって大好きな仲間たちだから。そんなことはわかっている。


青色のシャーペンを静かに置いて外を眺めた。雲はなくてはっきりとした青空が広がっている。
開けた窓から風が流れ込んでくる。日差しを緩和するようなその空気は、いつもとは全く違くて、おいしかった。

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