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チェコの手仕事と文化にふれる旅ーマリオネット(フルディム)

チェコのフルディムという小さな街に、「パペットミュージアム(マリオネット博物館)」がある。

マリオネットの博物館があるのはこの街だけではないのだけれど、この博物館のためにこの街にくる価値も十分にあるくらい、ここは常設展示が充実している。

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フルディムの中央広場のすぐ脇道をはいったところに、人形博物館(マリオネット博物館)の表示が見える。表示の指が指している方向が建物だ。

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贅沢なことに、今回はじっくりと英語ツアーガイドをしてもらった。
(長身の美女…!身長差よ...!)

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中にはタワーのような螺旋階段があり、登って行くごとに人形劇の歴史を辿れる構造になっている。建物については記事の後半で書きます。

元々は家族の巡業だった人形劇

1階は「旅する人形劇師たち」フロア。
元をたどると16世紀にはヨーロッパ国内で人形劇場が存在しており、18世紀末には現在のチェコのボヘミア地方とモラヴィア地方に数名の人形劇師がいたとされている。写真のようなステージも、持ち運べるように布の素材などに手書きで作られ、各地で組み立てて使われていた。

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人形劇師は彫刻家などに依頼して人形を制作したものを数体所有して、舞台装置などと合わせて担ぎ、各地を巡業していたそう。調べると日本でも平安時代頃(9世紀頃)から人形回しを見世物にして”ドサ回り”をしていたという歴史もあるというから驚き。日本の人形劇の歴史も古いのだなぁ…。
興味深いのは、この時代の人形は、比較的無表情や真剣な顔つきをしているものが多いということ。

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さまざまな役や場面を演じる必要がある彼らは、あまり表情や強いキャラクターをつけられていない。人形の種類も限られた中で、違う服装に替えさせて舞台ごとにキャラクターを演じ分けさせる必要があったからだ。人形劇が「アート」の視点からとらえられるようになり、より表情豊かで動きもさまざまな人形が発展して行くことになるのはもっと後の時代の話。それでもクオリティは十分すぎるほどに高い。

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人形彫刻師の工房再現レプリカ

人形彫刻師の工房を再現したレプリカがあったのです!!
人の工房とか道具とか見るの大好きな私はちょっとあまりに興奮しすぎて

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……写真ブレた。


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あと、めちゃくちゃこわい写真だけ撮れてた。

工房を再現した絵にぶらーんとつりさがっている作りかけの人形。
興奮が伝われば幸いです。

自己流でつくられた「素人」の人形たちもアツい

プロではない「素人」が自己流でつくった人形なども展示されており、それはそれでめちゃくちゃ好みでした。仕組みはわかんないけどつくっちゃお!みたいな、高度な技術うんぬんよりも激アツな情熱も感じる。チェコの人のこういうDIY精神が好き。

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中には一見、これプロじゃないの?とも思うけれどよくみると、構造がプロのものよりも糸も少なくシンプル。頭にささったワイヤーで体を固定し、手足のみ動かせるような構造。
技術以上のパッション!と創作意欲に突き動かされた人形たち。私は大好きです。

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対して以下は、複雑な構造のからくり人形たち。作る側もさることながら、操る人形師にも高い技術が求められる人形だ。

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左下の人たちも手を繋いで一緒に動かすのそうとう難しそう…。
そしてこの真ん中の赤いスカートの女性の人形はトランスフォーマー型。最終的に気球になるという構造だが、いったいどういう場面で登場するのか。

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マリオネットが現代アートへ

20世紀初頭、チェコの人形劇の歴史は大きく動くことになった。1910年代にチェコの伝統的な人形劇の文化を見つめ直す展示や劇の上演が行われるようになり、1920年以降には人形劇の劇場も次々オープン。その盛り上がりはチェコ国内のみならず国際的な広がりも見せるようになり、1928年にはUNIMA(国際人形劇連盟)が発足した。

人形劇が大きな広がりを持っていた時代、さまざまに実験的な試みも行われる中で人形たちは、表情やキャラクターも強く、作家性の高いものになっていった

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キャラも設定も濃いめです。

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そして、チェコアニメの巨匠・イジー・トルンカ作品。

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出会えたのが嬉しい。憂いがすごい…。

家庭用の人形劇場

これだけチェコの人々に愛されているということは、一般家庭にもマイ劇場と劇団員(人形)があっても不思議ではない。家庭でも人形劇を楽しめるようなペーパークラフトなども製作され、人形を数体所有する家庭も多く、たとえばおばあちゃんから譲り受けたものを孫が遊ぶなど、子どもの頃から人形劇に触れる習慣があった。

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こちらはペーパークラフトでできた舞台セット。裏表でシーンの違う模様が描いてあり、立体的な舞台装置を複数種類つくることができる。

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時代によっても多様だが、人形のデザインもさまざまだ。

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後日チェコ人の友人に聞いたところ、「この人形うちにあった!!」と興奮していた。やはり子供の頃から人形劇は、馴染み深いもののようだ。私も子供時代はかなりシルバニアファミリーで遊んだたちなので、もしも私がチェコで育っていたならマリオネットで遊んでいたはず。

アジアのマリオネットたち

展示の後半では、チェコのみならずアジア各国の人形劇について学ぶこともできる。インドネシアや中国の影絵人形も数多く展示されている。これもまたとても美しい展示だった。とても繊細なつくりに見えるが、水牛、ヤギなどの皮からできているという。

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その他ベトナム、中国の人形など、なかなかの展示ボリューム。

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最後には人形こそなかったが日本の人形浄瑠璃の説明も添えられていた。

建物の塔をのぼる

この博物館の建物は「ミドラージョフの家」といって、建物の1階部分はゴシック様式、2・3階部分はルネサンス様式に建て増しされた独特な建物だ。

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塔をぐるぐる登りながら見て行く仕組みになっている。なかなか急な階段だが、希望者はエレベーターも使えるそう。

*ただし2019年10月に訪れた時点で、建物の入り口付近に施設不備があり、現状も復旧作業中の可能性あり。その場合エレベーターが使えない可能性もあります。

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屋上にあたる最上階にいくと…。

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あまり高い塔ではない分、他の建物が近く感じる風景。本当におもちゃ箱みたいな世界観だなあ。天気が本当に気持ちよかったし、こぢんまりとした屋上なのがとても楽しい。

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この博物館でも人形劇を自分で楽しめるシアターがあるが、現在は修繕中のため入れず残念でした。小さい頃から人形が家にあってそれで当たり前のように遊んだり。博物館に劇場もあって、そこでもごっこ遊びができたり。近くにこんな場所があったら子供をしょっちゅう連れて来たいような場所だなぁ。

フルディム人形博物館への行き方

フルディム駅から中央広場までは歩いて約10分ほど。この広場脇の道を入ってすぐの右手にあります。

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Chrudim Puppetry Museum(フルディム人形劇博物館)
営業時間:月ー日 8:30-17:00
(ただし1月1日、4月2日と12月24-26日のみ休館
 *その他休館日はホームページにてご確認ください)
料金:大人 80CZK、6歳以下の子供無料
   家族料金(2名の大人+15歳以下の子供は5名まで)200 CZK
*英語のツアーは5名以上より可能。入場料金の他に1グループにつき350CZK 

広場には観光センターもあるので、観光情報を仕入れても良いでしょう。簡単なものでしたが、なんとフルディムの街案内は日本語のガイドもあった!

プラハからパルドゥビツェは直通電車があります。そのパルドゥビツェからバスで15分ほどいけばフルディムに着けます。半日観光でパルドゥビツェとはしごするのも良いでしょう。前回紹介したフラデツ・クラーロヴェーとも近いです。

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「マリオネットは優しさと空想を武器にした小さな軍隊」

「家庭用人形劇」についてパンフレット内の記述にこんなことが書いてあった。

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老いも若きも有名も無名も俳優も監督も関係なく、人形劇を、家の中という共通体験を持った親密さの中で行えるとき、人は魔法のような想像力、遊び心、創造性を揺りうごかす手段を手に入れることができる。そしてマリオネットは、優しさと空想を武器にした小さな軍隊となれるのです。

ちょっとわかりにくいかもしれないけれど、たしかに、親密な誰かに向けてショーを披露すること、という経験は人生においてすごく大事な気がするのだ。知らない人にいきなり見せる勇気はなくとも、身近な誰かとなら翼が生えたように自由に飛べる。両親や祖父母、兄弟ときゃっきゃ言いながら人形劇の舞台を作り上げられたら、たしかにそれって無敵な気がする。

そして優しさと空想を武器にした小さな軍隊。たしかにマリオネットは単体ではなく劇団として何体かを動かすわけだから、軍隊なのだ。きっと回数を重ねるごとにレベルアップしていくとすれば、優しさと空想がどんどん強くなっていくということか。面白い言葉を使うなぁ。

そういえば聞いたことないが、一般的なチェコの人は、どれくらい人形を操ることができるか調査してみたいところです。

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写真うまく撮れなくてごめんなさいだけど、これも素人の人がつくってるっていうから、やっぱりチェコの人ってちょっとおかしいと思う。(賛辞)

今回の旅のテーマは、主に「チェコの手仕事と文化にふれる旅」。
工房やギャラリー・博物館などを訪れた記録と合わせて、日本人にとってはあまりなじみのないチェコの地方都市について取りあげて書いていきます。

※情報はすべて2019年10月時点のものです。
今回の旅費宿泊費は一部チェコ政府観光局に負担していただいております。

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