「認知症」にまつわるおすすめ作品6選
先日、拙著『32歳。いきなり介護がやってきた。ー時をかける認知症の父と、母と』が発売されました。
認知症という病気について改めて考えるようになったのは、父の病気がわかってからのこと。そしてその病気のことを必死に調べなくては!という思いよりも、何気な〜く手に取った作品ほど不思議と心揺さぶられたりする。そんな作品たちを紹介したいと思います。
介護家族の視点で見る部門
長谷川 嘉哉著 『ボケ日和
ーわが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』
(かんき出版、2021)
介護にまつわる本は、当事者よりも家族が読むための本の方が多い。本屋さんの介護コーナーに立ち寄ると最近必ず見かける、拙著とよく並んで展開いただいているこちらの本、とてもとてもよかったです。
『大家さんと僕』でおなじみの、カラテカ矢部さんのイラストに吸い寄せられるように手に取ってしまうこの本。ひと家族にフォーカスしたエピソードかなと思いきや、ちょっと違う。紹介文の通り、こちらは認知症の専門医によって書かれているのです。しかしこれが驚くほどに読みやすい。
冒頭に、「物盗られ妄想は、一番信頼している人に対して起こりやすい」ということを講演で話した際、「どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか?」と、過去の経験を強く悔やむ方がいらっしゃったというエピソードが紹介されている。その方は、てっきり嫌われているから疑われるのだと思ったという。お医者さんとしては初歩的な知識なのかもしれない、されど意外と家族に知られていない、少し先の礎になるような、コツのような知識が溢れているのです。
手前味噌ですが、医師からの有用なアドバイスのこの本と、実例のようなエピソードが詰まった拙著と合わせて読んでいただくと、かなり認知症に対しての知識が深まるなと思いました。我が家は春〜秋、そして冬あたりまでにかかっているなと思うと、ちょっと胸がちくりとします。
あさとひわ著『ねぼけノート 認知症はじめました』
(朝日新聞出版、2021)
こちらは全編かわいらしいタッチのマンガで、娘さんの視点で描かれる父親の介護日記、というか観察日記のような。「父さんはぽんこつでしょうか」なんて、うちの父の声で再生しても全く違和感がないくらい、近いものを感じます。こんなに可愛らしく家族を描けると、現実の捉え方も変わってきそうな気さえする。ウェブメディア「なかまぁる」で今も連載されていて、読むことができるのでどうぞ。
娘として思うことも含めて、内容としては身につまされることばかり。漫画って読みやすいし、すっと入ってきますねえ。
小松みゆき著『ベトナムの風に吹かれて』
(角川文庫、2015)
図書館で気になって手に取った本だったけれど、どうやら過去に映画化までされていたそう。日本語教師として働く娘が、認知症の母をベトナムに呼び寄せ、一緒に暮らすというエッセイ。周囲の反対を押し切って、大変だったであろう決断への責任感とともに、母への想いとようすを語る文体に惹き込まれ、とても勇気づけられる。認知症とは別の話だけれど、以前本屋さんで手に取った、たかはたゆきこ著『おでかけは最高のリハビリ!要介護5の母とウィーンを旅する』にも励まされた。
病気へ絶望するだけではない、跳ね返すような前向きさがある人の体験に惹かれているのかもしれない。
当事者の視点で見る部門
介護家族側視点の体験記や実用書が多い中で、当事者としての目線にしっかりと触れたのは、この長谷川さんの本がほぼ初めてだった。
長谷川 和夫著 『ボクはやっと認知症のことがわかった
ー自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』
(KADOKAWA、2019)
拙著でも触れたのですが、以前放送されていたNHKスペシャルの長谷川先生の回がとても衝撃的で、それもあってすぐにこの本を読みました。「確かさが揺らぐ」という長谷川さんの表現を聞いた時、父の感情を想像して泣けてしまったのをよく覚えています。
映画『ファーザー』
うってかわって、こちらは映画です。多くを語るとネタバレになるのであまり話したくはないのですが、認知症の父と、娘の話だと思って、ぜひ見て欲しい。私のように、認知症の父を持ち、介護している娘というドンピシャ境遇の人にはかなり心が揺さぶられる、揺さぶられすぎる場面もあるかもしれないのだけれど。父親の可愛らしさと憎たらしさが同居するこの感じ、よく伝わるかと。
大名優アンソニー・ホプキンス演じるお父さんは、自分の父を投影して演じていたというから、この説得力と生々しさなのだろうと思う。
本当にすばらしい映画なので、認知症と今は無縁という方にも、一度見てみてほしいです。
ブログ部門
『40歳からの遠距離介護』(工藤広伸さん)
自らを介護作家と名乗る、通称くどひろさん。書店でご著書は見かけておりましたが、盛岡出身で岩手と東京を行き来されているということは、つい最近になって知りました。ブログやSNSもかなり頻度高く、介護にまつわるあらゆる有益な情報やガジェット、そして介護を通じて感じることなど、かなり共感性の高いことも紹介されており、とても参考になります。音声配信Voicyもすごく面白いです。
くどひろさんの著書であるこちらもぜひ。
「認知症」という病気のこと
自身のエッセイを発表し、本が発刊されて、さまざまなご感想やコメントをいただくようになりました。その中で多いのは、現在進行形でご家族の身に覚えのある方や、過去の経験を照らし合わせて読んでいただく方からの声です。私のエッセイを通じて、自身の経験が掘り起こされてきた!!という、懐かしいような、家族の色々なお話を耳にします。
自分自身や家族にも、全く関係がない。もしかしたら、ずーーーーっと、無縁でいられるかもしれない。だけど事実、認知症という病気はやはり誰にとっても身近な病気だと思う。家族であっても、あるいは道端で見かけた人であっても、認知症について、1つよりも2つ、2つよりも3つ…と知っていることが増やせたら、当事者や家族のみている世界への想像が湧きやすいだろうと思います。
私が今回紹介したのは、すべてがそういう作品です。ぜひ読んで、観てみてほしいです。
そして拙著もどうぞよろしくおねがいいたします。
あまのさくや著『32歳。いきなり介護がやってきた。
ー時をかける認知症の父と、がんの母と』
(佼成出版社、2021)
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