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心太#2

【佐野】 

とうとう夏休みに入った。
夏休み前半はクラスメイトと遊んだり、塾の夏期講習に行ったりする予定でいっぱいだ。
後半も部活の合宿とかで遠征する予定があるし、空いてる日ほとんどないなあ。もうカレンダ-見てるだけでもワクワクする。
カレンダーの今月の写真、あたり一面のひまわり畑。いやぁ、可憐だぁー。
こんなことも考えるくらいにワクワクしている。

夏休みが始まり、最初の週は毎日クラスメイトの友達と外で遊んだ。
サッカー部の練習がある日もそれまでサッカーして遊んだりした。練習と遊びは別腹。
日によっては野球をやるメンバーとサッカーをやるメンバーで別れたりしたが、俺はいつもサッカーだ。目立てるし、何よりサッカーが好きだから。
初日のカラオケも楽しかったけど、やっぱ運動だよなあ。
海水浴も行きたいなあ、美女探し。

一緒に遊ぶメンバーの中には、時にすけおとしんたもいた。
あいつらは野球に行くこともあったから、毎日ではないけどよく一緒に遊んだ。あの二人は本当に仲が良くて、できてるんじゃないかっていう噂をしている奴らもいるくらいだった。

一度、別のクラスのやつらが、廊下で二人をバカにするようにその話をしているのが耳に入った。その直後の記憶はないが、気づいたらそいつらは床に倒れていた。殴ってしまったらしい。しっかり怒られた。反省文書かされた。せっかくだから挿絵も描いた。
後悔はしていない。バカにするやつらは、心の底から親友だといえる友達がいなくてあの二人が羨ましいだけなんだろう。俺だってそうだ。

だから、俺も二人とは友達で学校でもよく遊んだりはするが、自分の中で二人と自分の間に無意識に線引きをしてないとは言い切れない。
ただ、クラスにいるときも、何人かに囲まれて話をしていても無意識にあの二人を目で追っていたのは間違いない。

夏休みに入ってあの二人とも一緒にカラオケ行ったりサッカーしたりしてこれまでよりも仲良くなれた気がする。自分の中の線も薄くなってきてるように感じる。

それと同時に、この一週間で感じたのは、やっぱりあの二人は本当に仲がいいということ。少なくとも俺が遊んだ日は毎日行きも帰りも一緒だった。
でも、何回か気になったことがあった。

みんなで集合時間を9時に決め、サッカーをする予定だったある日、
俺は自主練のために8時にグラウンドにつくよう家を出たのだが、自転車をこいでいたら、その途中で公園のベンチに座るすけおとしんたを見かけた。道路からベンチまで距離があり、その瞬間は二人か定かではなかったが、少し進んだところの公園の外に止めてあった自転車は彼らのものだった。でもわざわざ戻ってまで声をかける必要もないと思いその時は通り過ぎた。

その後、グラウンドで一人でボールを蹴っていると、9時に近づくにつれちらほらとみんなが集まってきた。
5人ほど集まったところで鳥かごを始め、その後も新しく誰かが来る度一人ずつメンバーを増やして行っていた。

8時50分ごろになったとき、すけおとしんたも近くで合流したのか別のメンバーと一緒に歩いてきて、メンバーが集まったところでチーム分けをして試合を始めた。

あの日、グラウンドに向かってくる二人を見て、一瞬なんか違和感を感じたような気もしたがあまり深く考えずサッカー始めちゃったんだった。
もうそれからはそのことなんて忘れてたわ。でも、今更その違和感の正体に気付いた。あの、真っ黒い体に色がつくように違和感の姿が見えてきた。

あの日、あいつら、自転車どうしたんだろ。

また別の日にも少し気になったことがあった。その日も朝9時からみんなでサッカーをしていて、いつも通り14時くらいまでやるつもりだったのだが、2時間ほど経って休憩に入ったときに、突然しんたが、用事があるからすけおと帰ると言い出し、みんなとあいさつをしながら二人は帰っていった。
それから残った俺らは両チーム一人ずつ減らした状態で続きを始めた。

あの時のすけお、驚いてたように見えたんだよな。
そういえば、休憩入るとき、「次の試合は点とるぞ。」とか意気込んでたし。
しんたが急に言い出したのか?
もやもやすんなあ。

ただ、少し気になっただけで明日には忘れるであろうこんなこと、LINEしてまで聞くことじゃないしまた会ったときに聞けばいいか、と思ったが、8月第二週である今週は午前夏期講習、午後部活の日でいっぱいだから次合うのいつになるんだろ。

そう思っていたが、その時は意外と早くやってきた。

夏期講習3日目の日、いつも通り時間ギリギリに出て塾に向け河原を自転車を飛ばして走っていた時、散歩をしているのかすけおとしんたがいた。

「おー!」

「あ、佐野!おはよう」「おはよ~!」

しんたとすけおは屈託のない笑顔で手を振り返してくれた。その時、僕は、ブレーキの音を響かせながら一度自転車を止めはしたものの、遅刻しないかどうかで頭がいっぱいだった。

「佐野、今日も夏期講習?」

「うん。今日もぎりぎり。お前らは?」

時間が気になりすぎて、二人の予定は全く気にならなかったが、反射的に聞いていた。タッチライン際でごちゃごちゃってなってからボールがラインを割ったときに、自分からはあまりよく見えていなくても、右手を挙げて「マイボー!」と叫んでしまうあの動きのような反射行動だった。

「今日もって、いつもなんだ(笑)。僕らは今からしんたの家で勉強なんだ。」

「あ、そうなんだ。じゃあしんたわざわざすけおを迎えに行ったのか。優しいな。(笑)」

「まあ家にいても暇だからな(笑)。塾遅れんなよ!」

照れているように、何かを取り繕うように答えたしんたの言葉は、俺の背中をドンと押した。

シュッ。と地面とタイヤのこすれる音が聞こえるくらい勢いよく俺が自転車をこぎだしたその後ろで、あの二人の言い争う声が聞こえた。

おそらく、すけおが川に少し入っていこうといったんだろう。
それを止めるしんたの声は不自然なくらいに大きく怒鳴るようだった。
そんなに怒んなくてもいいのに(笑)。ちょっと時間ロスしちゃったな。すけおもいうこと聞けばいいのにあんなに、諦めわりーな。ぎりぎり間に合うか。これから自分の家にあげるんだから、そりゃしんたも怒るか。いや、ぎりぎり間に合わないか。あ、なんか聞きたいことあったんだっけ。忘れてた。まあいいや。あ、もうこれ間に合わないわ。まあいいや。

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