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リーダーと考える経営の現場・第11回 子どものように叱る

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回のテーマは、優れたリーダーは自分の子どものようにフォロワーを叱るということをご紹介したいと思います。

私が20代半ばで、まだ駆け出し経営者だった頃から、どのようにフォロワーを叱ればいいかという話になった時には、いつもこの「自分の子どものように」という比喩を使っていました。当時の私には自分の子どもはいませんでしたが、もちろん私自身も親に大事に育てられた「子どもの経験」が長らくあるものですから、親子の関係に似ているのではないかと思って話をしたわけです。そうしたら不思議と話をした全ての人から、この比喩に対して、共感をいただいたものです。親になった今の私には、この例え話の正しさが深く理解できますが、それ以上に難しさもよく分かるようになりました。

この「リーダーは自分の子どものようにフォロワーを叱る」という考え方ですが、2つに大別して説明することができます。まず、リーダーとフォロワーが親子のような関係を築けるかどうかという点と、次に、リーダーがフォロワーを「怒る」ではなく、しっかりと「叱る」ことができるかどうかという点です。

第9回で、優れたリーダーは、フォロワーから愛され畏(おそ)れられる存在であるということを紹介し、その中で「愛されること」は子供が母親に対して抱くような愛情たっぷりな感情、また、「畏れられること」は子供が父親に対して抱くような尊敬と畏れの入り混じった感情と紹介しました。

また、第10回で、リーダーとフォロワーの関係は、親子のような関係と例えられることが多いことを紹介し、リーダーシップの世界では、関係性において、リーダーは親、フォロワーは子どもというように捉えられることを紹介しました。

それでは、経営の現場において、実際に、リーダーとフォロワーが親子のような関係を築けている事例はどれだけあるでしょうか?親子のような関係を築くには、お互いに相手に対する愛情や情熱がなければできません。明確に他人に関与する意思・責任がなければ、このような極めて近しい関係は築けないものです。多くのリーダーとフォロワーの間にこのような関係がないとは言わないですが、やはり滅多にないと言わざるを得ないと思います。

それは、リーダーが一人であることに対して、フォロワーが多数であるということも原因の一つだと思います。また、そもそも、昨今の職場の人間関係は、契約関係などでしっかりと定義して、お互い適切な距離感を保つべきという大きな潮流もあるかもしれません。リーダーも、フォロワーも、お互いに実際の親子と同じような愛情や情熱を持つことはなかなか難しいことですが、人生は一度きりですので、ぜひともそのような関係性を求めてもらいたいと思います。

次に、「怒る」ではなく、しっかりと「叱る」ことについて記載します。まず、「怒る」と「叱る」の違いからご紹介したいと思います。「怒る」とは怒り手の感情を外に爆発させることをいいます。これに対して、「叱る」とは相手により良い方法を教示することをいいます。イライラした感情をそのままぶつける「怒る」と、相手の成長を考えて「叱る」のでは全く違います。

リーダーが、フォロワーを大事に思っていて、成長させるように導かなければならないと考えていれば、まず自分の感情に任せて「怒る」ことはありません。「叱る」という行動の出発点は、決して自分ではなく、相手の立場を尊重して行う行動です。

また、経営の現場において、しっかりと「叱る」ことも難しいことの一つです。ただ感情に任せて「怒る」ようなリーダーは論外ですが、案外しっかりと「叱る」ことも難しいのです。相手のことを考えて「叱る」ことが難しいのは、この「叱る」という行為が、両者の近しく正しい関係性の上に立脚した行為だからです。

もしリーダーが、フォロワーのことをよく考えて叱っていたとしても、そのフォロワーのためにという想いが正しく伝わっていなければ、単なる注意に留まってしまう場合もあります。本当の親子と違って、多くの場合、リーダーとフォロワーには距離がありますので、正しく「叱る」ことは難しいものです(もっと正確に言うと、本当の親子であっても、正しく「叱る」ことは難しいものです。)。

前述のとおり、昨今の流れとしては、働き方の多様化に伴って、権利関係や業務対価も明確になって、ある意味“ドライ”ですが、透明性があって、便利な世の中が到来しようとしていると思います。

私としては、就労環境やテクノロジーの観点からは、この流れを否定するものではありません。しかし、それとは別の論点で、一人でも多くの人々が、リーダーとフォロワーの間で親子のような濃密な人間関係を築いて、リーダーが自分の子どものようにフォロワーを叱るような愛情や情熱を持っていれば、世の中がより一歩前進するのではないかと思います。



※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年8月22日公開の「リーダーと考える経営の現場・第11回 子どものように叱る」 を転載したものです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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