企業再生メモランダム・第35回 変革を拒む33の憶見

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの26枚目は8年前に作成した「変革を拒む33の憶見」と題したメモです。

これはデンバー大学のジェームズ・オトゥール教授の人が変化に抵抗する理由をまとめたものの転載(※ 以後、本の転載・引用の場合、私が番号の割り振りをしますが、それ以外は原文そのままを転載します。)になります。

メモの背景

前回、対象会社の企業再生は、組織の再生と人の再生がポイントだったと述べました。

私の企業再生のアプローチは、短期的かつ確実に成果を上げることができる経費削減から着手して、スタッフの信頼を勝ち得て、新たに定めた経営戦略に基づいて、徐々に、組織と人を再生させて、売上改善やオペレーション改善をしていくといったものでした。

企業再生の当初は、経営学修士(MBA)で学ぶような経営戦略、マーケティングやオペレーションなどの知識をフル活用するのですが、組織と人の再生では、このような知識は一切役立ちません。

組織と人の再生では、「普通の会社」の価値観に基づいて、公式・非公式関わらず、正しいことは正しい、間違っていることは間違っている、そして、会社のためにも、あなたのためにも変わらなければならないということを、変革を促すように、繰り返し、繰り返し、話していくのです。

こうした話をしていく中で、社長との社内政治など横やりがあったことも事実ですが、当時の私の力不足で、残念ながら、「普通の会社」や「普通のサラリーマン」になることについて、現状とのギャップに耐えられない人の多くが会社を出てしまったのです。

組織も、人も、とにかく変化を嫌がるのです。

なぜ組織や人は変化を嫌がるのか。変化を促すためにはどうすればいいのか。この当時の私の興味はそこにありました。

前回「ぬるま湯」という比喩を使いましたが、「ぬるま湯」に浸かっていると、世間では適温のお湯が「熱く」感じるのです。

私は辞めていくスタッフの何人かに、「今は辛いかもしれませんが、世間はリーマン・ショックや東日本大震災で、うちの会社以上にもっと大変ですから、もう少しうちで頑張ったらどうですか?今までが緩い会社だったからこのように経営危機になってしまったわけですが、お気づきになられていないかもしれませんが、『普通の会社』と比較したら、経営改革をしているとはいえ、うちの会社は相当『楽ちん』なんですよ。」とお伝えしました。

もちろん、これが理解できないから対象会社を辞めていくのですが、辞めていったスタッフの多くは、風のうわさで聞いたところでは、次のところに行っても通用しなかったようで、中には「どうにか対象会社に戻してください。」という方までいました。

対象会社は資金繰りが厳しい会社ですから、残念ながら、一度辞めた人を戻すような中途採用はできませんでした。

メモ「変革を拒む33の憶見」の中身

1.ホメオスタシス(恒常性維持)
変革は自然な状態ではない。

2.前例主義
現状は容認され、変革を申し出る側には立証責任がある。

3.惰  性
進路変更のためには相当の力が必要である。

4.満  足
たいていの人間は現状を好む。

5.機が熟していない
変革のための前提条件がそろっていない。タイミングが悪い。

6.不  安
人は未知のものを恐れる。

7.自分にとっての利害
他人にとってはよいことかもしれないが、自分たちにとっては都合が悪い。

8.自信の欠乏
新たな挑戦に耐えられる自信がない。

9.フューチャー・ショック
変化に圧倒され、うずくまって抵抗する。

10.無  益
変革はすべて表面的であり、見かけ倒しであり、幻想だ。そんなものには関わらない。

11.知識不足
いかにして変化するのか、どのような状態に変わればよいのかがわからない。

12.人間の本性
人間は元来、競争的で、好戦的で、貪欲で、利己的である。変革に必要な利他主義に欠けている。

13.冷笑的態度
変革促進者の動機を疑う。

14.つむじ曲がり
変革はよさそうに思えるが、意図していなかった悪い結果が生じることを恐れる。

15.一人の天才VS大勢の凡人
われわれ凡人の頭には変革のための知恵など湧いてこない。

16.エゴ
自分たちの間違いを認めることに強い抵抗がある。

17.短期思考
すぐに満足できないことはイヤ。

18.近視眼的思考
変革が結局はより広い視点から見ると自分のためになることが理解できない。

19.夢遊病
大半の人間は、よく考えもせずに人生を送っている。

20.スノー・ブラインドネス
集団浅慮、あるいは「長いものにまかれろ」的思考。

21.共同幻想
人間は経験から学ぶことなどなく、何事も先入観で見るという考え方。

22.極端な判断
自分たちは正しい。自分たちを変えようとする者は間違っている。

23.例外だという幻想
よそでは変革が成功するかもしれないが、自分たちの所ではそうはいかない、という考え方。

24.イデオロギー
世界観は人それぞれ。価値観というのは本質的にバラバラだ、という考え方。

25.制度の固さ
ひとりひとりの人間は変えられても、諸集団を変えることはできない。

26.“Natura non facit saltume”という格言
自然に飛躍なし、という意味。

27.権力者に対する独善的忠誠心
現在の方法を定めた指導者に背いてはならない。

28.「変革に支持基盤なし」
多数派が変革に入れ込む以上の利害を少数派が現状維持に対して持っている。

29.決定論
意図的な変革をもたらすことなど誰にもできないと決めつける。

30.科学者きどり
歴史の教訓は科学的なものであり、そこから新たに学ぶべきことは何もない。

31.習  慣

32.慣習第一主義
変革促進者の考えを社会に対する非難であると受け止める。

33.無思慮



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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