企業再生メモランダム・第34回 上司が指示を出す際の注意点

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの25枚目は8年前に作成した「上司が指示を出す際の注意点」と題したメモです。

メモの背景

対象会社は、企業再生から1年半以上が経過し、初年度の年間1億円以上の経費削減効果も出てきて、経営成績は改善傾向にありました。しかし、東日本大震災によって、ただでさえ痛んでいた財政状態がさらに悪化し、税金や社会保険料の滞納額も多額にのぼり、短期的には、より一層の経営改善が必要な状況でした。

このような状況下でしたが、信じられないことに、社長の方針は「何もしない。」です。

当たり前ですが、対象会社の資金繰りを考えるとそういうわけにもいかず、株主チームや私、そして、社内における一部の賛同者は、社長を傍目に、改革を推し進めました。

とはいえ、社長は、社内政治ばかりしていて、嫌がらせをしてくる人です。そのため、私たちは、社内政治の論点とされぬよう、現場スタッフに負荷がかかり過ぎて、社長に歪んだ形で報告が入らないように、経営改革を推し進めることを方針としていました。

それと同時に、現場スタッフに対するコミュニケーションを増やして、仕事に対する価値観、組織に対する価値観などの変革を促さなければなりませんでした。

多くのスタッフは長年「ぬるま湯」に浸かっていたことから、ちょっとしたことでも「熱い」と感じるようになってしまっていました。

「普通のサラリーマン」にとっては当たり前のことも、彼らにとっては辛いのです。

この状況を改善しないことには、「普通の会社」になることはできません。

売上を増やすにしてもオペレーションを改善するにしても、一般スタッフの協力がなければ実現しません。

以前も何度か出てきていますが、経営学ではケイパビリティという言葉があります。ケイパビリティとは、企業が全体として持つ組織的な能力、あるいは、その企業が得意とする組織的な能力のことを言います。

対象会社は、このケイパビリティの獲得が課題でした。

そして、それは具体的には、組織の再生と人の再生が論点だったのです。

メモ「上司が指示を出す際の注意点」の中身

今後、原則として、上司が部下に対して指示を出すときは、例えば「社長が行うよう言っているから、行うように!」、「副社長が行うよう言っているから、行うように!」といった上司の名前を使った指示は出さないようにお願いします。

しっかりと部下に対する説明に時間をとって、「会社のために、なぜその業務を行わなければならないのか」、「その業務を行うことがどのように会社のためになるのか」といった、部下にとっても納得度の高い背景が理解できるような指示を出すようにお願いします。

会社における全ての業務の判断基準は、「会社のためになるかどうか」です。

現状の対象会社の問題点は、上司が言っていることが絶対と思っている社員が多い点です。

過去から続く対象会社の悪い企業文化だと思います。

過去において一部の役員は、例えば本来は社内で行うことができる業務を自分の親しい取引先に外注したり、地域社会での自分の地位や名誉を高めるために式典を開催したりなど、会社のためと個人のためが混同していることが多々ありました。

つまり、役員という会社における地位を利用して、業務命令として、個人のための指示を出してきました。これはあってはならないことです。

繰り返しになりますが、「会社のためになるかどうか」が唯一の判断基準です。

会社のために、A案、B案、C案・・・と意見が分かれることもあると思いますが、〇か × (バツ)かであれば悩む必要はありません。いくら上司が言っていても、誰が言っても、 × は × です。

もちろん会社のためになる内容で、会社として機関決定したことであったり上司の決裁の範囲内であったりした場合は、しっかりと業務として進めなければなりません。

これは組織として正しい行動ですから、絶対です。重要なことは、業務命令の前提となる「会社のためになるかどうか」です。

私たち経営陣は、会社のためになる意思決定をしっかりと行っていきたいと思います。そのときにはしっかりとコミュニケーションをとって、なぜそのような意思決定になったのかを伝えていきたいと思います。

今の対象会社に必要なことは、① 「会社のためになるかどうか」という唯一無二の判断基準を根付かせること、② 部下の納得度を高めること、③ 上司を絶対視せずに、意見は意見として取り扱えるようになることの3つです。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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