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名も知れない誰かに捧ぐ物語

彗星です。いつか気づいてほしいから。


明るい星の下、二人は向き合っていた。
銃を持った女の周りには無機質に、白く弾性のある個体が散らばっている。
「殺されたくないのか。」
女が冷たく問うと、女は同じ冷たさの笑みを返した。
「どうってことないわ」
楽しかった頃もあった。何も考えず、沢山の人と触れ合い、この幸せがずっと続くと思っていた。
でも違った。彼女は去り、探した女は変化があることを知った。それは彼女も同じだっただろう。会いたいという気持ちが消える頃、彼女は帰ってきた。探したはずの女は冷たくあしらう。
「生きるほど辛いことはないもの。」
この言葉を続けて話し、いつか好きだったのだろう黒の目を見つめてくる。些細なことで相手を見誤り、失敗し、何もできなかった彼女。

チャキリと音を鳴らし、銃を持った私は足を進めた。その額に銃を突きつける。
「でも、死にたくはないだろう」
「ええそうね」
女は膝を地面についた。そして下から見上げる。
「あなたの歌は綺麗だった。忘れてしまったけれど。」
「そうか。」
孤島の上に浮かぶ月のように、私はふわりと微笑む。彼女も笑みを返した。
「いつかもう一度、その歌を聞かせてほしいわ。その願いが叶うまでは、こうやって。」
固まる私の手を包むと、額に銃口を当てたまま彼女は引き金を引いた。

名も知れない誰かへ
もう一度言葉を交わしたい、そう思っても貴方は遠くに行ってしまった。年が経つ度に大きくなったつもりなのに、いつも私を追い越していく。大人になる貴方にはくすんで見えるのか、私には何もわからない。いつか貴方が訪れる時、その星の輝きを絶やさずに瞳を覗かせて。

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