
アザーサイドの建築学、そして龍たち
帰りは座れなかったけど、それがよかった。偶然立った、反対側。
いつも走行する電車の反対側を、あまり見ていなかったのだ。じっくり見ていた。それはめくるめくようなものだった。
ああ、このあたりはずっと遠くまで見える。つまりは平坦な土地。住みやすい。建物がつくりやすい。
ここは勾配がある。「溝」や「口」などという土地の名は、水がそこでくぼんで流れ、土地が低くなっていることのあらわれだ。坂。入口。出口。負担がかかる所だから、人は住みづらい。地価は低いだろう。
いつから建っているのか分からないアパートの壁に、野生のアイビーが自由に模様を作って伸び、覆っている。最後の昼顔が、フェンスで笑っている。私は笑う。昼顔だいすき。
神社さま、このへんない?
「ああそれならね・・・・・」
古い雅な石のものが連なって見えた。あそこにいらっしゃるわ。きれいな川が、流れている。
よどみ、痛んでいる川があった。
人間のせいだ。ひとえに。
私も痛む。なんにもできないけど、ごめんなさい。気をつけて暮らします。
でも、私の住むあたりの、子ども時分に遊んでもらった汚れきっていた愛してやまない川は、驚くほどきれいになりました。今は鮎もいます。人が頑張ったのです、何年もかけて。
鳥も蛇も多くいます。河原の草たちも清潔です。
いつかきっと。
けがされたちいさな川は、なんにも言わない。私のこころの眼を、じっと見ていた。あの、眼・・・・・澄んでいる眼・・・・・
カラオケバンバンがある。たまにヒトカラに行くチェーン。よし今度はBIGBANGの韓国語にチャレンジだ。
居酒屋。クリニックばかり入ってる駅前のビル。そうみんな病気。赤い看板の大きなラーメン店。
あれ?あの会社名、知ってる。職場のそばにいつも停まってる車のボディに書いてあった・・・ああ、不動産と経営コンサルタント。ここに会社があったんだ。
マンション、マンション・・・・・あんな山の上にまで?かつてあった梨畑たちは、もう数えるほどしかない。人間は梨を食べ、梨畑や山まで食べてしまった。
建物。みな、けっこうばらばらに建っている。南向き、なんて、そう、難しい物件。
人間が街や道を作り、それに沿っていっぱい建ててしまったから。人間は多すぎるから。
私がいた世田谷の古い公営団地も、方位磁石で見ると実際には微妙に南向きではなかった。
あの建物。吹き抜けがある。無駄なように見えても、あれは無駄ではない。光と風が入れば、そこにいる人たちはいい気持ちだし、建物もいい気持ちだ。風水。
わあ、大きな学校!スーパーも。汚れるだろうな。あそこを掃除するのは骨だな。多くの人手と機械がいるだろう。
人が住み、流れ来てはゆくための場所。21世紀。20世紀のまま、徐々に脱皮してゆく世界の、建物たち。
なに?あの森の中の公園!自然っぽくて、自然木の遊具が見えた。あそこで遊びたい!そしたらお仕事の疲れなんか、ふっ飛ぶんじゃないかな?私はぶらんこが大好きだから。いまだに乗るし。ただし、気づかって夜中一人で(こわいってあんた)。
ふと、大きな塔が連なって立っているのに気づいた。30分の電車の道のりの間に、いくつかその連なりはある。
それは一塔一塔気高く、美しい。
送電線をつなぐ、塔たちだ。誇り高く見えた。
「護る」
と言っているのがきこえた。
「誰を?」
塔はただ答えた。
「龍」
龍?
よく見ると、塔ひとつひとつに、それが巻き付いているような気がする。「気」のようななにかが。
そういう「視力」を持つある女性が、スカイツリーに登った時のこと。
スカイツリーそのものにぐるっと巻き付いている巨大な青龍に、彼女は話しかけられた。
「おまえは我が見えるのか。我は海のものだ。ここを守護する。見知り置くように」
彼女は答えた。
「わかりました。あちらにも、赤い高い塔がございます。あちらの方は?」
彼女が見ると、そこから見える東京タワーには赤い巨龍が巻き付いている。
青龍は答えた。
「あの方は、我より古い方だ。あちらを守護されている。敬うように」
私にはそんなスゲエのはないが、見える塔たちにはなにかが巻き付いている。白い気の長いもの。おおきなもの。かれらは、龍を護ると。
私は思い当たった。
送電線。電気の流れ。
火の流れ。
火を吐く長い巨龍。
線路は、おおきな川に沿ったり越えたりしながら、走っている。
沢山の人々が住んでいる・・・・・そう。
人類は古来から、水のそばに住んできた。水の恵みのために。
水の神さまは優しいから、近くにひとを住まわせてあげる。
そして龍神さまたちはそばを通り、みなに光と熱を運んできてくれる。
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