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都市伝説

今、俺たち3人の中では都市伝説が流行っていて、毎日放課後になると前日に仕入れた都市伝説を話すのがブームになっていた。だから、俺も晩御飯の後に親父のパソコンで都市伝説を調べることが日課で、あいつらのよりも怖くて面白い都市伝説を必死に探していた。そんな時に見つけたのがこの都市伝説だった。

「桜の木の下には死体が埋まっている。」

これを見て、俺はひらめいた。
この話をベースにして、うちの中学校に生えている大きい桜の木の下に死体が埋まっているという話を作る。で、骨格標本から何本か骨を拝借してあらかじめ埋めておく。そして、あいつらと一緒にその桜の木の下を掘り返しに行くんだ。実際に骨が出てきたらあいつらはきっとこの話をいろんな人に言いふらすだろう。そしたらこの都市伝説が広まっていく。俺の作った都市伝説が。上手くいけばこの先何年もまことしやかにささやかれ続ける都市伝説になるかもしれない。都市伝説好きとしてこんなに嬉しいことはない。やらない手はないだろう。

そうと決まれば、早速準備だ。俺は骨の準備に取り掛かった。最初は理科室の骨格標本から拝借しようと考えていたが、あの標本は入り口近くの目につきやすい場所に置いてあり、骨が数本なくなったらすぐにばれてしまう。自分で買うという手も考えたが、1か月1000円の小遣いでは何か月もかけて金を貯めなければならない。何かいい手はないものか。

数日間考え込んでいた俺は、この前体育倉庫にサッカーボールを取りに行ったとき、奥の方になぜか古びた骨格標本が置いてあったことを思い出した。それを使えばいいじゃないか。これは名案だぞ。ちょうど明日は体育の授業でサッカーをやる予定だ。俺は体育委員だからサッカーボールを倉庫から出したり片づけたりしなければならない。その時にうまいこと骨を拝借できれば・・・。俺は骨拝借計画を練った。

先生はいつも倉庫には入らず、俺だけが倉庫の中に入る。この”俺だけが倉庫の中にいるとき”を上手いこと活用して骨を拝借しよう。まず、授業前、ボールのかごやビブスを外に運び出すために倉庫の中に入る。その時に、骨格標本を奥から引っ張り出して扉の陰になるところに置いておく。そしてボールのかごとビブスを何食わぬ顔で外に出し、授業を受ける。授業後、ボールを倉庫にしまうときに骨を2~3本拝借する。ズボンのウエストのゴム部分にはさんで上から服をかけて隠してしまえばおそらくばれないだろう。これは完璧だ。俺はうきうきしながら眠りについた。

翌日、決行の時がついに訪れた。はやる気持ちを抑えて俺は倉庫に入る。骨格標本は・・・あった。あれだ。思ったより手前側に置いてあり、移動させやすかった。怪しまれないように物音を立てずそっと置いて、それから努めていつも通りにボールを外に運び出し、サッカーを楽しんだ。

そして、授業終了後。俺はボールを倉庫にしまい、素早く、しかし慎重に標本から骨を外して、先生にも特に怪しまれることなく持ち出すことができた。計画は成功だ。あとは、骨を桜の木の下に埋めれば準備完了だ。とりあえず骨はいったん持ち帰り、夜中学校に忍び込んで埋めることにした。

草木も眠る丑三つ時。俺は骨とスコップをもって学校の正門前にきていた。正面突破するか。いや、確かあそこにはセンサーがあったはずだから駄目だ。どこかフェンスに穴でも開いてないだろうか。俺は学校のフェンスに沿って一周歩いてみた。すると、プール脇のフェンスに人一人がやっと通れるくらいの穴を見つけた。桜の木はプール前に植えられている。これは占めた。さっさと埋めて帰ろう。俺は体をよじらせながら侵入し、桜の木の根元に穴を掘り始めた。土は意外に柔らかく、すぐに深さ15cmほどの穴が掘れた。その穴に骨を埋めて土をかぶせ、ばれないように丁寧に土をならした。完璧だ。これで明日の夜、あいつらをここに連れてきて骨を掘り出して脅かせてやろう。俺はうきうきしながら家路についた。

翌日の放課後、3人で集まっていつものように都市伝説の話をしていたとき、俺は切り出した。
「なあなあ、この都市伝説知ってる? うちの学校のプールの前にあるあのでっけえ桜の木。あそこの下には、死体が埋まってるらしいんだ。」
「なにそれ、超こえーな。」
「まじかよ。」
「まあ、あくまで噂だけど。死体の血を吸ったから、あんだけでっかく成長して綺麗な花を咲かせるって伝説があるらしいんだよ。」
「やべー、こえー。」
「もうガクブルだよ。」
よし、いいぞ。2人ともびびってる。
「でさ、今日の夜中、3人で忍び込んで桜の木の下掘ってみねえか?」
「ええ、まじこえー。でも、やってみっか。」
「そうだな。」
「じゃあ、今夜の0時に正門前な。」
「おっけー。」
「どきどきだな。」

午前0時正門前で俺たちは落ちあい、昨日見つけたプール脇のフェンスの穴から忍び込み桜の木の下に立った。
「警備員に見つかる前に掘るぞ。」
俺たちは音を立てないように必死に掘った。3人がかりで掘ったので、昨日よりもだいぶ早く掘り進んだ。
「おっ、何かにあたったぞ。」
「まじで・・・?」
「こえー・・・。」
俺は昨日埋めた骨を土の中から取り出し懐中電灯で照らした。
「骨だ。骨が出た。」
「ひっ・・・!」
「こ、これ、や、やばいって!」
2人は本当に骨が出てきたことにびびって一目散に帰ってしまった。
「せめて穴埋めてから帰れよな。」
俺は想像以上に2人を驚かせられたことにほくそ笑みつつも、ぐちりながら穴を埋めて家路についた。

翌日登校すると、にわかに教室内がざわついていた。クラスメートが教室の中央に集まって何かを話しているみたいだ。その中央にいたのはあの2人だった。俺のことを見つけると、2人は駆け寄ってきた。

「昨日はごめんな。お前置いて逃げちゃって。」
「ああ、別にいいけど。で、なんだこの人だかりは。」
「ああ、昨日の骨が出てきた話してたんだよ。」
「ふーん。」
「でさ、昨日俺たちとっさに逃げ帰っちゃったけど、骨が出るなんて大ごとだし、あれ警察とか先生とかに言った方がいいんじゃねえかなってみんなと話してたんだ。」
「えっ、それは・・・。」
「なんだよ。なんかあるなら言えよ。」
「いや、ないけど・・・。」
「じゃあ決まりだ。早いとこ言いに行こうぜ。」
「・・・あ、俺まだ宿題終わってなかったから2人で行って来いよ。俺は後で行くからよ。だから、な。行って来いよ。」
「おう、分かった。」

これはまずいことになった。あいつらを怖がらせて、骨が出たってうわさが流れるくらいでよかったのに。まさかこんな大ごとになるなんて。ましてや警察だなんて。俺はあいつらと一緒に骨の第一発見者ということになってるから、きっと警察や先生が話を聞きに来るだろう。ばれたら親や学校から絶対大目玉だ。それだけはどうしても避けたい。どうしよう。そんなことをぐるぐる考えていたせいで、授業に全く身が入らなかった。

3時間目の途中、遠くからサイレンの音が学校に向かってくるのが聴こえた。やばい、どうごまかそう。パトカーが一台校庭に停まった。俺はあいつらと一緒に先生から呼び出され、現場検証のようなものに連れていかれた。

「で、君たちはこの桜の木の下から骨を偶然掘り出してしまったと。そういうわけだね?」
「はい、そうです。」
「なぜ桜の木の下を掘り起こしたんだい?」
「それは、こいつからこの学校の桜の木の下には死体が埋まってるらしいって都市伝説を聞いて・・・。」
「君、その話はどこで聞いたんだい?」
きた。ついに話を振られてしまった。

「あ、あの、前日の夜に、ネットで都市伝説を調べていたら、『桜の木の下には死体が埋まっている』ってのを見て、それで、うちの学校の桜の木の下にも埋まってるかもしれないって思って、それで、友達を誘うために、あの、ちょっと脚色したというか・・・。」
「そうなんだ。ありがとう、聞かせてくれて。」
「いえ・・・。」
「んでね、この骨なんだけどさ、これ本物じゃなくて偽物だね。骨格標本とかから抜き取ったものだと思うよ。」
「えっ、そうなんですか?」
怪しまれないように、適度に驚いた表情をしておいた。
「だから、死体が埋まってたとかそういうんじゃないみたいだね。んでさ、これ埋めた人に心当たりとかあるかな?」
「いえ、なにも・・・。」
「俺も・・・。」
「なにも分かんないです・・・。」
「そっか。ありがとう。もう戻っていいよ。」
この場はなんとかしのげたみたいだ。ほっと胸をなでおろした。でも、もしまた警察が来たら・・・。どうしよう。ばれたらどうしよう。

この骨騒ぎ自体はすぐに収束した。骨が偽物であったことと、ただのいたずら目的で悪質性がないとみられたようだ。あれ以降、警察が話を聞きに来ることもなかった。しかし俺は、あれから来るはずのない警察におびえて過ごしていた。時々不安に押しつぶされそうになり、誰かに一切合切をぶちまけたくなった日もあったが、この苦しみこそがあの日出来心で警察や学校など多くの人を巻き込んでしまった俺の贖罪なのだと思い込んで生きている。俺はこの先ずっと、墓場までこのことを持っていこうと思っている。

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