『柘榴の女』

ーー今晩、あなたの腕の中で死ぬことを決めました。

朝帰りの男 くだらない生活
奮発した洗濯機 洗っていない食器
昨日、今日、明日。

ねえちょっと、あたしの靴下どこにやった?
(失恋した日の 夜のことでした)
ちょっともう困っちゃうなあ。入れといてって言ったのに
(見も知らぬ人に 抱かれたのでした)
いいよ。ぜんぜん怒ってない
(涙を流しながら 押し寄せる快楽)
忙しかったもんね。ふたりとも
(後ろから突かれて 声をあげるばかり)

そういえば、仕事決まった?
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
そんなことないよ。なんでそう思うの?
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
そうそう大丈夫。え、なに今から?
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
まって私仕事が。だめだよねえ、だめ。
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)

失恋した日の 夜のこと でした
見も知らぬ人が そばにいてくれました
いだかれる幸せ 泣きたいようないとしさ
この人との暮らしを 夢見たの でした

あそこから 逃げてきて やさしい人に 出会った
それがあなたでした。 私を守ってくれました。
傷を埋めてくれるのだと 本気で思いました
あなたの傷も私が 癒してあげると誓った
結婚式です! 魂を結びました
ビールの王冠 カーテンのドレス
月夜が私たちを 優しく照らしました
しあわせになろうねと、固く誓いました。
幸せになろう、幸せになろう、
幸せに。

ねえちょっと、あたしの財布どこにやった?
ちょっともう困っちゃうなあ。ガス払わないといけないのに
いいよ。ぜんぜん怒ってない
家にいなかったもんね。わたし。

そういえば、仕事決まった?
そんなことないよ。なんでそう思うの?
そうそう大丈夫。え、なに今から?
まって私仕事が。だめだよねえ、だめ。

……しあわせって…なんだっけ?
しあわせになりたい、しあわせになりたい、
しあわせに。

あそこから 逃げてきて やさしい人に 出会った
それがあなたでした。 私を守ってくれました。
傷を埋めてくれるのだと 本気で思いました
あなたの傷も私が 癒してあげると誓った
朝帰りの男 くだらない生活
奮発した洗濯機 洗っていない食器
転がるビールの王冠、煙草の焼け跡のカーテン
腕に増えていった傷 暴力が始まりました

朱い一筋 寒い冬
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
かすかな死の 香りの中
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
朱い一粒 甘い夢
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
重ねた朝を 数えるの
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)

春を迎えるその為に 冬に溺れて
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
私はひとり 彼等を待とう。
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
その体温がその胸に 炎を付けるまで
(しあわせになりたい、しあわせになりたい、しあわせになりたい)
この愚行を笑われようと 私は
(しあわせになりたい、しあわせになりたい)
待とう。

朱い一粒 甘い夢
重ねた朝を 
数えるの

失恋した日の 夜のこと でした
見も知らぬ人が そばにいてくれました
いだかれる 幸せ 泣きたいような いとしさ
この人との暮らしを 夢見たの でした

「おまえは本当に やさしいな」
「今度一緒に あそこ行こうぜ」

ほんとうに?……うれしい。
お弁当とかいるかな? どんなかっこがいいだろう。
「おいお前何考えてる」  聞こえないふりを しました。
腕に増えていった傷 暴力が
始まりました

結婚式です! 魂を結びました
ビールの王冠 カーテンのドレス
しあわせになろうねと、固く誓いました。
あなただけでも、幸せに。

「…ねえ、ねえ、大丈夫なの?」
うん、大丈夫だよ。ぜんぜん平気
「ほんとうに?」
うん本当だよ。 大丈夫

「大丈夫?という声掛けに、彼女はいつも笑って答えていました。
それが彼女のせいいっぱいの嘘だということに、気が付くことができませんでした。」
「今思うと、それは、彼女自身が孤独な人だったからかも、しれません。
弱く堕ちていくひとに、彼女がやさしかったのは。」

「朝帰りの男 くだらない生活」
ほんとうに?……うれしい。
「奮発した洗濯機 洗っていない食器」
お弁当とかいるかな? どんなかっこがいいだろう。

「転がるビールの王冠、煙草の焼け跡のカーテン」
いだかれる 幸せ 泣きたいような いとしさ
「腕に増えていった傷 彼女はかえってきませんでした」
この人との暮らしを、しあわせだったと 言いたいのです
さようならです! 私は永遠になります。
ビールの王冠 カーテンのドレス
しあわせになろうねと、固く誓いました。
この愚行を笑われようと 私は
しあわせになりたい、しあわせになりたい
しあわせに。

朱い一筋寒い冬 かすかな死の香りの中
この愚行を笑われようと 私は
ここで あなたを…

待とう


 

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