2月16日のこと

2月16日という日は、僕にとってまったく思い入れのない日でしたが、2017年から先の未来の2月16日はそうではないみたいです。第一子が生まれました。娘です。名前は 山本よう といいます。4年前に僕が書いた「幼女X」という戯曲、そしてそれ以降もしばしば僕の作品に登場する人物の役名、【よーちゃん】からつけました。つけた、というか、正確には「妻がつけたいと言うのを拒否しなかった」といった感じです。なぜ妻が僕の戯曲の登場人物の名前を実の子供につけようと思ったのか。最初は驚きましたが、なぜだか同時にすんなり受け入れている自分もいました。彼女曰く「あのセリフをあなたが書いた時から、私はあなたとの子供にはよーちゃんて名前をつけようと思ってたの」とのことでした。「あのセリフ」とは、下記のことです。

美人にならなくてもいい
かわいくならなくてもいい
ヨーが本当にこれからいっぱい
楽しい時間を過ごせますように
と今晩も願った

これは、登場人物のうちの一人「アケミ」が、ひどく疲れてつらく惨めな気持ちになっている一日の終わりに、娘「ヨーちゃん」の寝顔を見ながら心の中で唱える言葉です。
このセリフを書いた時の僕は、まさか4年後にニューヨークでこの作品を上演しているだなんて思ってもみませんでした。そしてまさか、そのニューヨークでの公演初日の前日に自分の子供が産まれて、まさかそれがこの「ヨーちゃん」と同じ名前の子になるだなんて、当然思ってもいませんでした。そしてまさか3月2日だった出産予定日が、逆子になってしまったがために2月16日に帝王切開で産まれてくるだなんて、超絶当然、思ってもいませんでした。「2月16日はお父さんニューヨークにいるから、頼むから逆子なおってー」とお腹に向かって夫婦揃ってしゃべりかけても、なんだか頑固なくらい、逆子はなおりませんでした。まるで彼女が2月16日にどうしても生まれるのだ、とでも言うかのように。

出産に立ち会えなかったのはとても残念ですが、携帯電話に送られてきたムービーを目の前にして、この新しい命のために頑張ろうと、まるで「アケミ」になったような気持ちで思いました。
世の中がたとえどんなにつらくても惨めでも、彼女の楽しい時間のために、これからも演劇をつくっていこう。言葉を紡いでいこう。そう思いました。2月16日とすべての生命に、ありがとうございます。

山本卓卓

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